就労移行支援事業所および利用者さまを支援する立場として、日々多くのADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方々と、彼らの雇用を検討する企業様双方の支援に携わっています。「ADHDの特性が原因で仕事がうまくいかない」「発達障害のある方の採用や定着に課題を感じている」といった声は、決して少なくありません。
しかし、ADHDの特性は、適切な理解と環境さえあれば、個人の強みとなり、企業の大きな力に変わり得ます。この記事では、公的なデータや具体的な事例を基に、ADHDの障害者雇用における課題と可能性を深く掘り下げ、当事者と企業の双方にとって有益な情報を提供します。
ADHDは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによる発達障害の一つです。その特性は一人ひとり異なりますが、主に「不注意」「多動性」「衝動性」の3つのタイプに分けられます。これらの特性が、職場で困難を生むこともあれば、逆に強みとして発揮されることもあります。
ADHDの特性が仕事にどう影響するかを理解することは、適切な配慮や対策を考える第一歩です。
これらの特性は、本人の努力不足や性格の問題ではなく、脳機能に起因するものです。そのため、意志の力だけでコントロールするのは困難であり、周囲の理解と環境調整が不可欠です。(出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED))
一方で、ADHDの特性は視点を変えれば大きな強みになります。企業がこれらのポテンシャルを活かすことで、新たな価値創造に繋がります。
近年、障害者雇用促進法の改正などにより、発達障害者の雇用は着実に増加しています。厚生労働省の最新の調査から、その現状を見ていきましょう。
2018年4月の障害者雇用促進法改正により、精神障害者の雇用が義務化され、法定雇用率の算定基礎に発達障害者も含まれるようになりました。これにより、企業側の発達障害者雇用への関心と取り組みが加速しています。(出典:パーソルダイバース)
厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、日本全体で推計約91,000人の発達障害者が雇用されています。そのうち、約3人に1人(36.6%)が正社員として雇用されており、無期契約の労働者(23.8%)と合わせると、6割以上が安定した雇用形態で働いています。また、労働時間に関しても、60.7%が週30時間以上働いており、多くの方がフルタイムに近い形で活躍していることがわかります。(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査」)
職場への定着率は、障害者雇用における重要な指標です。障害者職業総合センターの調査によると、就職1年後の定着率は、発達障害者が71.5%と、他の障害種別と比較して最も高い水準にあります。これは、適切なマッチングと職場環境が提供されれば、発達障害のある方が安定して長く働き続けられる可能性が高いことを示唆しています。(出典:障害者職業総合センター調査データより)
発達障害者の雇用が進む一方で、多くの企業が採用や定着の面で課題を抱えています。就労移行支援事業所として、企業様からよく伺う悩みと、その解決策を具体的に解説します。
これらの課題は、適切な「合理的配慮」と支援機関の活用によって乗り越えることができます。
合理的配慮とは、障害のある人が他の従業員と平等に働けるように、個々の特性や状況に応じて行われる調整や変更のことです。以下に具体的な例を挙げます。
これらの配慮は、高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が提供する「障害者雇用事例リファレンスサービス」でも多くの事例が紹介されており、大変参考になります。
企業の内部だけで全てを解決しようとせず、外部の専門機関と連携することが成功の鍵です。私たち就労移行支援事業所は、当事者のアセスメント(特性の評価)から職業訓練、企業とのマッチング、そして就職後の定着支援まで、一貫してサポートを提供します。企業様に対しては、採用に関する相談や、受け入れ体制の構築、合理的配慮に関する助言などを行います。
近年、「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)」という考え方が注目されています。これは、ADHDなどの発達障害を「病気」や「欠陥」ではなく、「脳や神経の多様性」として捉え、その個性を尊重し社会で活かしていこうという概念です。
野村総合研究所(NRI)は2021年、日本で発達障害のある人材が能力を発揮できていないことによる経済的損失を約2.3兆円と推計しました。これは、彼らが持つ潜在能力がいかに大きいかを示しています。(出典:日経BP 未来コトハジメ)
ニューロダイバーシティを推進することは、企業に多くのメリットをもたらします。
実際にADHDを含む発達障害のある方の雇用に成功している企業は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。就労支援事業所エンカレッジが紹介する事例から、成功のポイントを探ります。
多くの成功企業に共通しているのは、障害を「できないこと」として見るのではなく、「得意なこと」「強み」を見出し、それを活かせる業務とマッチングさせている点です。
ある化学メーカーでは、発達障害のある社員を受け入れたことで、他の社員が互いの業務進捗を意識するようになり、結果としてチーム全体の連携が深まりました。「多様性を認められる、風通しがよい職場になった」という声が上がっています。
また、ある介護サービス企業では、採用の決め手を「PCスキルの高さと、最後までやり遂げようとする真面目さ」だったと語っています。実習を通じて本人の強みを見極め、適した業務を任せることで、重要な戦力として活躍しています。
(出典:株式会社エンカレッジ 企業事例)
これらの事例から、事前の職場実習などを通じて本人の特性やスキルを正確に把握し、画一的な評価ではなく「個」として向き合う姿勢が、採用後の活躍と定着に不可欠であることが分かります。
最後に、ADHDの特性を持ち、仕事に悩んでいる当事者の方へ、就労移行支援事業所の視点から転職・就労を成功させるためのステップをご紹介します。
ADHDの障害者雇用は、決して簡単な道のりではありません。しかし、企業が特性への理解を深め、適切な合理的配慮と環境を提供し、当事者が自身の強みを活かせる場を見つけることができれば、それは企業と当事者の双方にとって計り知れない価値を生み出す「Win-Win」の関係に繋がります。
就労移行支援事業所は、そのための架け橋となる存在です。当事者一人ひとりの自己理解とスキルアップを支援し、企業様には採用から定着まで伴走し、最適なマッチングを実現します。ADHDの障害者雇用に関するお悩みやご相談がございましたら、ぜひお近くの就労移行支援事業所にご連絡ください。共に、誰もがその人らしく輝ける社会を目指していきましょう。