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企業のCSR活動を伝える動画制作ガイド|社会貢献を成果につなげる映像戦略

2025年7月20日

企業のCSR活動を伝える動画制作ガイド|社会貢献を成果につなげる映像戦略

KUREBA

なぜ今、CSR活動の発信に「動画」が不可欠なのか?

企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)は、もはや単なる法令遵守や慈善活動の枠を超え、企業価値を左右する重要な経営戦略の一部として認識される時代になりました。特に、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)投資がグローバルな潮流となる中、企業が社会課題にどう向き合い、貢献しているかは、消費者、投資家、そして未来を担う求職者から厳しい目で評価されています。

この文脈において、自社のCSR活動をいかに効果的にステークホルダーへ伝えるか、というコミュニケーション戦略の重要性が飛躍的に高まっています。年次報告書やウェブサイトのテキスト記事だけでは、活動の真の価値や情熱を伝えきることは困難です。そこで今、最も強力な伝達手段として注目されているのが「動画」です。
なぜ動画なのでしょうか。その理由は、動画が持つ圧倒的な「情報伝達力」と「共感醸成力」にあります。

情報量の多さ:複雑な活動を直感的に伝える力

CSR活動は、その背景にある社会課題、活動のプロセス、そして成果に至るまで、複雑な要素が絡み合っています。例えば、「森林保全活動」と一言で言っても、その目的、地域社会との連携、具体的な作業内容、生態系への影響など、伝えるべき情報は多岐にわたります。これらの情報をテキストだけで伝えようとすると長大で難解になりがちですが、動画であれば、わずか数分で活動の全体像と核心を直感的に伝えることが可能です。調査によれば、動画はテキストや画像に比べて格段に多くの情報を短時間で伝達できるとされています。活動現場の映像、関係者のインタビュー、成果を示すインフォグラフィックスなどを組み合わせることで、視聴者は複雑な内容をストレスなく理解できます。

共感の醸成:人の心を動かし、信頼を築く力

CSR活動の価値は、単なる事実の羅列だけでは伝わりません。その根底にある企業の「想い」や、活動に携わる人々の「情熱」、そして支援を受けた人々の「感謝」といったエモーショナルな要素こそが、人々の心を動かし、企業への深い共感と信頼を育むのです。動画は、この感情的側面の伝達に最も優れたメディアです。効果的なCSR動画に関する分析では、活動現場の臨場感、社員の真剣な眼差し、受益者の笑顔といった「生きた情報」が、視聴者の感情に直接訴えかけると指摘されています。2025年の動画マーケティングトレンドにおいても、「セールストークではなく、本物の物語」が求められており、ユーザーはより本質的で信頼できるコンテンツを求めていることが明らかになっています。CSR動画は、まさにこの「本物の物語」を伝えるための最適な器なのです。

この記事で得られること

本記事では、企業の広報・CSR担当者様、そして経営層の皆様が、CSR動画を「単なる活動報告」から「企業価値を創造する戦略的ツール」へと昇華させるための具体的な知見を提供します。

  • CSR動画がもたらす具体的な経営メリットの体系的理解
  • 成果を最大化するための戦略的な制作プロセスのステップバイステップ解説
  • 国内外の先進事例から学ぶ、成功パターンの分析
  • 制作した動画の効果を可視化し、投資対効果(ROI)を高めるための実践的手法

読み終えた後には、貴社の素晴らしい社会貢献活動を、いかにして映像の力で「伝わる価値」へと転換できるか、その明確な道筋が見えているはずです。

CSR動画がもたらす多角的なメリット

CSR動画への投資は、単なる広報コストではありません。それは、企業の持続的成長を支える様々な経営課題を解決し、具体的なリターンを生み出す戦略的投資です。ここでは、CSR動画がもたらす多角的なメリットを「ブランド価値」「ステークホルダーエンゲージメント」「採用競争力」の3つの側面から深く掘り下げて解説します。

ブランドイメージと企業価値の向上

現代の消費者は、製品やサービスの品質・価格だけでなく、それを提供する企業の「姿勢」や「価値観」を重視します。CSR動画は、企業の社会貢献への真摯な取り組みを視覚的かつ感情的に伝えることで、強力なブランドイメージを構築し、企業価値そのものを高める原動力となります。

CSR動画は、企業の社会貢献活動を広く知ってもらうための有益なツールです。動画を通じて活動内容を具体的に伝えることで、ビジョンや企業理念への共感にもつながります。

例えば、環境問題に真剣に取り組む企業の動画は、環境意識の高い顧客層に強く響き、「この企業を応援したい」というロイヤリティを育みます。地域社会への貢献活動を紹介する動画は、地域住民に親近感と信頼感を与え、良好な関係を築く礎となります。ある分析によれば、こうしたポジティブな企業イメージは、顧客の購買意欲に直接影響を与えるだけでなく、製品やサービスに問題が発生した際のブランドレジリエンス(回復力)をも高める効果があるとされています。CSR動画は、企業の「善意」を社会的な「信頼資産」へと転換する、強力な触媒なのです。

ステークホルダーとのエンゲージメント強化

企業は、顧客、株主・投資家、従業員、取引先、地域社会といった多様なステークホルダーとの関係性の上に成り立っています。CSR動画は、これらのステークホルダーそれぞれとのエンゲージメント(深い関与・絆)を強化するための、極めて効果的なコミュニケーションツールです。

  • 対顧客・社会:企業の活動の透明性を示すことで、社会からの信頼を獲得します。スターバックスが店舗での人々の交流をドキュメンタリー風に描いた動画は、コーヒーショップ以上の「コミュニティの場」としての価値を伝え、顧客との心理的なつながりを深めています。
  • 対投資家(IR):ESG投資の重要性が高まる中、CSR活動は投資判断の重要な要素となっています。CSR活動を動画化しIR情報として発信することは、企業の非財務情報を効果的にアピールし、ESG評価の向上、ひいては安定的な資金調達に繋がります。具体的な活動映像は、報告書の数字だけでは伝わらない企業の「本気度」を投資家に示し、長期的な信頼関係を構築します。
  • 対従業員(インナーブランディング):CSR動画は、社外だけでなく社内にも大きな影響を与えます。自社が社会に良い影響を与えていることを映像で目の当たりにすることで、従業員は自社の仕事に対する誇りと共感を深めます。社内エンゲージメント向上を目的とした動画では、社員のリアルなエピソードや成功事例を取り上げることで、一体感を醸成し、モチベーション向上に貢献します。これは離職率の低下や生産性の向上といった具体的な成果にも結びつきます。

採用競争力の強化

少子高齢化による労働人口の減少が進む中、優秀な人材の獲得は企業の最重要課題の一つです。特に、ミレニアル世代やZ世代といった若年層は、報酬や待遇だけでなく、「働く意義」や「企業の社会貢献性」を強く意識する傾向があります。

データ構造は採用トレンドの分析や学生の意識調査に関する記事を参考に模式的に作成。

CSR動画は、こうした価値観を持つ求職者に対して、企業の魅力を伝える上で絶大な効果を発揮します。採用動画に関する解説でも、社会貢献活動に積極的な企業は求職者にとって魅力的に映り、企業の理念に共感する優秀な人材の獲得に繋がる可能性が指摘されています。例えば、環境保護をテーマにしたCSR動画は、サステナビリティに関心の高い学生に強くアピールします。また、社員が生き生きとボランティア活動に取り組む姿は、求職者に「風通しの良い、温かい社風」というリアルな企業文化を伝え、入社後のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。デロイト トーマツ グループの採用ブランドムービーは、個人の多様性を尊重する組織文化を表現し、求職者との共感を醸成しています。求人サイトのテキスト情報だけでは伝わらない「企業の魂」を伝えることで、CSR動画は採用活動における強力な差別化要因となるのです。

【本編】成果を最大化するCSR動画の戦略的制作プロセス

CSR動画の価値を最大化するためには、単に「見栄えの良い映像」を作るだけでは不十分です。その背景には、緻密な「戦略」が不可欠となります。ここでは、動画制作を「目的設定」から「効果測定」まで一貫したプロセスとして捉え、成果に直結させるための戦略的なステップを具体的に解説します。これは、私たちプロフェッショナルが最も重視する、本記事の核心部分です。

Step 1:戦略設計 – 「誰に、何を伝え、どう動かすか」

制作に着手する前に、全ての土台となる戦略を固めることが成功の9割を決めると言っても過言ではありません。この段階では、3つの重要な問いに答える必要があります。

1. 目的の明確化:何のために動画を作るのか?

まず最初に、「この動画を通じて、企業として何を達成したいのか」という目的を具体的に定義します。目的が曖昧なままでは、企画も表現も散漫になり、誰の心にも響かない動画になってしまいます。目的は、具体的で測定可能なものであることが理想です。

  • ブランド関連: 企業の認知度向上、ブランドイメージの刷新、特定領域(例:環境技術)におけるリーダーシップの確立
  • マーケティング関連: ウェブサイトへのトラフィック増加、見込み顧客の獲得、製品・サービスの信頼性向上
  • 採用関連: 採用エントリー数の増加、特定スキルを持つ人材へのアプローチ、内定承諾率の向上
  • IR関連: ESG評価の向上、個人投資家へのアピール強化
  • インターナル関連: 従業員のエンゲージメント向上、社内の一体感醸成、理念浸透

これらの目的の中から、今回の動画で最も優先すべきものを一つか二つに絞り込むことが重要です。

2. ターゲット設定:この動画は、誰の心に届けたいのか?

次に、動画を届けたい視聴者(ターゲットオーディエンス)を具体的に設定します。ターゲットによって、伝えるべきメッセージの切り口や、最適な表現スタイル、配信チャネルは大きく異なります。

  • 株主・投資家: 事業との関連性、リスク管理、長期的なリターンを論理的に示す構成が求められる。
  • 一般消費者: 共感性、ストーリー性、社会的な意義を感情的に伝えるアプローチが有効。
  • 求職者(特に若年層): 企業のビジョン、働く社員のリアルな姿、成長機会、社会貢献への参加実感などを伝える。
  • 従業員とその家族: 誇り、一体感、会社への信頼感を醸成する内容。
  • NPO/NGO・地域社会: 連携の姿勢、誠実さ、具体的な貢献内容を丁寧に伝える。

「すべての人」をターゲットにすると、結果的に誰にも響きません。「30代の環境意識の高い女性消費者」「サステナビリティに関心のある就職活動中の理系学生」のように、ペルソナを具体的に描くことで、メッセージはより鋭く、深くなります。

3. KPI(重要業績評価指標)の設定:成功をどう測るか?

目的を達成できたかどうかを客観的に評価するために、具体的な指標(KPI)を設定します。KPIは、動画公開後の効果測定と、次なる施策への改善の羅針盤となります。SDGs動画制作のステップに関する解説でも、目的とKPIの設定が最初の重要なステップとして挙げられています。KPIは「定量的KPI」と「定性的KPI」の両面から設定することが望ましいです。

定量的KPI(数値で測れる指標)の例:

  • 認知・リーチ: 動画再生回数、インプレッション数、ユニーク視聴者数
  • エンゲージメント: 高評価数、コメント数、シェア数、視聴者維持率、平均視聴時間
  • コンバージョン: ウェブサイトへのクリック数(CTR)、特設サイトへの流入数、資料ダウンロード数、問い合わせ件数、採用エントリー数

定性的KPI(質的な変化を測る指標)の例:

  • ブランドリフト: 動画視聴前後でのブランド好意度、CSR活動の認知度・理解度の変化(アンケート調査で測定)
  • ソーシャルリスニング: SNS上での企業名や活動に関する言及数、およびその内容(ポジティブ/ネガティブのセンチメント分析)
  • 従業員満足度: 従業員エンゲージメントサーベイのスコア変化、社内アンケートでの共感度

専門家の指摘にもあるように、CSR活動の評価指標として「認知度」をKPIに設定することは、その後のコミュニケーション活動のPDCAを回す上で非常に有効です。これらのKPIを事前に設定することで、動画制作は「作りっぱなし」で終わらない、成果志向のプロジェクトとなります。

Step 2:企画・構成 – 共感を呼ぶストーリーテリングの技術

戦略設計が固まったら、次はその戦略を「心に響く物語」に翻訳する企画・構成のステップに移ります。ここでは、ロジック(論理)とエモーション(感情)を融合させるクリエイティブな作業が求められます。

1. 伝えるメッセージを一つに絞る

企業のCSR活動は多岐にわたることが多いですが、一本の短い動画に全ての情報を詰め込もうとすると、結局何も伝わらない散漫な内容になってしまいます。効果的なCSR動画制作のポイントとして、「テーマを一つに絞ること」が強く推奨されています。最も伝えたい核心的なメッセージは何か、この動画を通じて視聴者に何を感じ、覚えてほしいのかを突き詰めることが重要です。

「私たちの技術は、地球の未来を守るためにある」
「私たちは、誰も取り残さない社会を目指している」
「一杯のコーヒーが、人と人をつなぐきっかけになる」

このように、シンプルで力強いコアメッセージを定めることで、動画全体に一貫した軸が生まれ、視聴者の記憶に深く刻まれるのです。

2. ストーリーテリングの活用

人は事実の羅列よりも、物語に心を動かされます。CSR動画を成功させる鍵は、活動内容を単なる報告ではなく、視聴者が感情移入できる「ストーリー」として描くことです。ストーリーテリングの活用は、視聴者の共感を得る上で極めて効果的です。典型的なストーリー構造には以下のような要素が含まれます。

  • Why(なぜ): なぜこの企業が、この社会課題に取り組むのか?(企業の理念や創業の想い、原体験)
  • Problem(課題): どのような困難な社会課題が存在するのか?(課題の深刻さ、当事者の苦悩)
  • Solution(解決策): 企業はどのようにしてその課題に立ち向かっているのか?(具体的な活動内容、試行錯誤のプロセス)
  • Vision(未来像): この活動を通じて、どのような未来を目指しているのか?(活動がもたらすポジティブな変化、企業の目指す社会)

この構造に沿って物語を構築することで、視聴者は企業の活動を「自分ごと」として捉え、単なる傍観者から共感者、そして応援者へと変わっていきます。

3. 具体性とリアリティの追求

ストーリーに命を吹き込むのが、「具体性」と「リアリティ」です。抽象的な理念や美辞麗句だけでは、視聴者の心は動きません。「この企業は本気だ」と感じてもらうためには、生々しい現場の映像や、関係者の「生の声」が不可欠です。

  • 現場の映像: 社員が汗を流して植林する姿、現地の子供たちと交流する様子、開発した技術が実際に使われている現場など、リアルな活動風景を映し出す。
  • 当事者の声: 活動に携わる社員のインタビュー(「なぜこの仕事に情熱を注げるのか」)、支援を受けた受益者の声(「この活動で人生がどう変わったか」)、連携するNPO担当者の声(「この企業との協業の意義」)などを盛り込む。

専門家は、「実際に活動している様子や現場の声を映像で見せることが重要」と指摘しています。こうしたリアルな要素が、動画に揺るぎない説得力と感動を与えるのです。

Step 3:表現技術 – メッセージを増幅させる最新トレンド

優れた戦略とストーリーも、それを効果的に表現する技術がなければ視聴者には届きません。ここでは、CSR動画のメッセージを増幅させ、視聴体験を革新する3つの最新表現技術を紹介します。

1. ドローン空撮の活用:スケール感と関係性の可視化

ドローンによる空撮は、もはや単なる目新しい技術ではありません。CSR活動の文脈においては、地上からの視点では伝えきれない「スケール感」や「文脈」をダイナミックに表現する強力なツールとなります。

  • 効果: 広大な森林保護区全体を俯瞰することで活動の規模感を伝えたり、河川の上流から下流までを追うことで水資源の循環を示したり、工場と地域社会の位置関係を映し出すことで共存の姿勢を象徴したりと、物事の全体像と関係性を直感的に理解させることができます。ドローン空撮は、地上からは見られない視覚的な印象を与える手法として、特に自然景観や都市風景の撮影でその力を発揮します。
  • 活用シーン: 環境保護活動(植林、海洋清掃、再生可能エネルギー施設)、大規模な地域貢献イベント、自社施設の環境配慮設計の紹介、災害復興支援の状況報告など。

ドローン映像は、視聴者に畏敬の念や感動を与え、企業の取り組みの壮大さを強く印象づけます。

2. VR/360度動画の活用:究極の「自分ごと化」を促す没入体験

VR(仮想現実)/360度動画は、視聴者を「傍観者」から「当事者」へと変える、究極の没入体験を提供します。ゴーグルを装着すれば、視聴者は時間と空間を超え、活動の現場に「いる」かのような感覚を得ることができます。

  • 効果: Googleの社会貢献プロジェクト「Daydream Impact」のように、VRは社会課題への深い理解と共感を促すツールとして注目されています。例えば、普段訪れることのできない海外の支援活動の現場を疑似体験したり、障がいを持つ方の視点から日常を体験したりすることで、視聴者は課題をより深く、個人的なものとして理解することができます。これは、テキストや通常の平面動画では決して得られない、強烈な体験です。
  • 活用シーン: 海外での教育・医療支援活動の様子、障がい者支援施設の日常、通常は立ち入れない自然保護区の内部、被災地の復興状況の体感コンテンツ、文化遺産の保存活動など。

VR/360度動画は、視聴者の心に忘れがたい記憶を刻み込み、行動変容を促すポテンシャルを秘めています。

3. AIによるデータ可視化:説得力を高める動的インフォグラフィックス

CSR活動の成果を伝える上で、客観的なデータは不可欠です。しかし、数字の羅列は退屈で、記憶に残りません。そこで活躍するのが、AIを活用した動的なインフォグラフィックス(アニメーショングラフ)です。

  • 効果: CO2削減量、再生可能エネルギーの導入率、支援した子どもの数、創出された雇用、経済的な波及効果といった成果データを、AIツール(Dora StudioやHighcharts GPTなど)を用いて、動きのある魅力的なグラフやチャートに変換します。データが時間と共に変化していく様子をアニメーションで見せることで、視聴者のエンゲージメントを高め、傾向やパターンを容易に把握させることができます。これにより、活動のインパクトが直感的に伝わり、動画の説得力が飛躍的に向上します。
  • 活用シーン: 年次の活動報告動画、IR説明会用の資料映像、ウェブサイトに埋め込む成果報告コンテンツ、株主総会でのプレゼンテーションなど。

AIによるデータ可視化は、企業のロジカルな側面とクリエイティブな側面を融合させ、信頼性と訴求力を両立させるための強力な武器となります。

国内外の先進事例に学ぶ、成功するCSR動画のパターン分析

優れた戦略も、具体的なイメージがなければ机上の空論に終わってしまいます。ここでは、国内外の先進企業が展開するCSR動画の中から、特に示唆に富む4つの事例を取り上げ、単なる紹介に留まらず、「戦略」と「表現」の観点からその成功要因を深く分析します。これらのパターンを理解することで、貴社の活動に最適なアプローチが見えてくるはずです。

【理念浸透型】サントリー:「水と生きる」

戦略: サントリーの事例は、企業理念とCSR活動が完璧に融合した「理念浸透型」の代表格です。「水と生きる」という揺るぎない企業理念を、サントリー天然水の水源涵養活動(「天然水の森」)という具体的なCSR活動に直結させています。これは、単なる社会貢献ではなく、自社の事業の根幹を支える持続可能性への投資そのものです。多くのメディアで取り上げられるように、この一貫したメッセージングは、サントリーというブランドに「誠実さ」と「本物」のイメージを付与し、強力なブランドエクイティを構築しています。

表現: 動画の表現は、戦略と見事に呼応しています。森の瑞々しさ、水の清らかさ、そこに息づく生命の輝きを、圧倒的な映像美で描き出します。ナレーションは抑制的で、映像そのものに語らせる手法を取ることで、視聴者は理屈ではなく五感で自然の尊さを感じ取ります。10分を超える長尺のドキュメンタリー映像では、数十年単位の長期的な視点で活動を捉えており、企業の目先の利益を追わない真摯な姿勢を雄弁に物語っています。これは、視聴者の情緒に深く訴えかけ、ブランドへの深い共感と信頼を醸成する、極めて高度な映像コミュニケーションです。

【事業連携型】コマツ:「技術で社会課題を解決」

戦略: コマツの事例は、自社のコアコンピタンス(中核的な強み)を社会課題解決に直接結びつけた「事業連携型」の好例です。建設機械メーカーである同社が持つ「パワフルで精密な重機を製造する技術」を、カンボジアなどにおける対人地雷の除去活動や、林業再生といったグローバルな課題解決に応用しています。このアプローチの巧みさは、CSR活動が本業から乖離した「付け足し」ではなく、事業そのものに社会的価値が内包されていることを証明している点にあります。これにより、事業の正当性と企業の存在意義を力強くアピールしています。

表現: 動画は、現地のリアルな課題と、そこで活動する人々の姿を捉えたドキュメンタリータッチで制作されています。日本では情報が入りにくい地雷除去の現場を映像で見せることで、視聴者に強いインパクトと問題意識を与えます。そして、その過酷な現場で同社の重機が力強く、そして安全に稼働する様子を映し出すことで、製品の高い信頼性と社会的有用性を具体的に証明しています。これは、製品のプロモーションと企業のブランディングを、CSRという文脈の中で見事に両立させた、戦略的な映像表現と言えるでしょう。

【シリーズ発信型】パナソニック:「ACT-CAST」

戦略: パナソニックの「ACT-CAST」は、多岐にわたるCSR活動を、統一されたフォーマットで継続的に発信する「シリーズ発信型」の優れた事例です。同社の活動は環境、教育、生物多様性など多岐にわたりますが、それらを「1分間のアニメーション動画」という分かりやすいフォーマットに統一。このシリーズ化により、視聴者は次々と新しい活動を知ることができ、企業としての取り組みの幅広さと継続性を認識します。さらに、人気声優の下野紘さんをナビゲーターに起用することで、普段CSRに関心の薄い若年層やアニメファンにも情報を届け、SNSでの話題性を喚起するという、巧みなメディア戦略が取られています。

表現: 表現手法としてアニメーションを選択した点が秀逸です。生物多様性やエネルギー問題といった、実写では説明が難しくなりがちな複雑なテーマも、アニメーションを用いることで、概念をシンプルに図式化し、誰にでも親しみやすく伝えることに成功しています。キャラクター化されたナビゲーターが語りかける形式は、視聴者に柔らかな印象を与え、学習コンテンツとしての側面も持ち合わせています。これは、難しいテーマを、幅広い層に、効果的に、かつ継続的に届けるための、計算され尽くした表現方法です。

【ステークホルダー巻き込み型】セブン&アイ・ホールディングス:「GREEN CHALLENGE 2050」

戦略: セブン&アイ・ホールディングスの事例は、顧客や従業員といったステークホルダーを活動の輪に巻き込む「ステークホルダー巻き込み型」です。食品ロス削減やCO2排出量抑制といったテーマは、コンビニやスーパーを利用する顧客の日常生活に非常に密接しています。この「身近さ」をフックに、企業の取り組みが自分たちの生活と繋がっていることを示し、社会課題を「自分ごと」として捉えさせます。また、従業員のボランティア休暇制度や清掃活動なども紹介することで、活動が一部の部署だけでなく、全社的な文化であることをアピールしています。

表現: 動画は30秒から数分程度の短尺のものが多く、SNSでの視聴や拡散を意識した作りになっています。店舗での具体的な取り組み(例:プラスチック削減)や、従業員が海岸清掃に参加する様子などをテンポよく見せることで、メッセージを簡潔に伝えます。動画のトーンも、壮大なドキュメンタリーではなく、視聴者に「一緒に考え、行動しよう」と語りかけるような、親しみやすいものが多いのが特徴です。これは、巨大な流通グループとしての影響力を自覚し、社会全体を巻き込んでムーブメントを起こそうとする、コミュニケーション戦略の表れと言えます。

CSR動画の効果測定とROI(投資対効果)の高め方

CSR動画の制作は、企業の未来に対する価値ある「投資」です。そして、あらゆる投資と同様に、その効果を客観的に測定し、リターンを最大化する努力が求められます。ここでは、CSR動画を「コスト」で終わらせず、持続的な「価値創造サイクル」に組み込むための、効果測定とROI(投資対効果)の考え方について解説します。

CSR活動のROIをどう考えるか

従来のROI(Return on Investment)が「投じた費用に対してどれだけの金銭的利益を得たか」を測る指標であるのに対し、CSR活動の効果は短期的な売上だけでは測れません。そこで重要になるのが、「SROI(Social Return on Investment:社会的投資収益率)」という考え方です。

SROIは、事業や活動が生み出す社会的・環境的価値を金銭価値に換算して評価し、投資額に対するリターンの大きさを測るフレームワークです。米ベライゾンなどが参加した研究「プロジェクトROI」では、優れたCSRプログラムが売上増加だけでなく、株主価値の向上や従業員の生産性向上にも寄与することが示されています。CSR動画のROIを考える際には、以下のような長期的・多面的なリターンを考慮に入れる必要があります。

SROIの概念に基づき、CSR動画投資がもたらす多面的な価値を模式的に表現。

  • ブランド価値向上: ポジティブな評判によるブランドエクイティの増大。
  • 人材獲得・定着コストの削減: 採用競争力の向上による採用コストの低減と、従業員エンゲージメント向上による離職率の低下。
  • リスクの低減: ステークホルダーとの良好な関係構築によるレピュテーションリスクの軽減。
  • 顧客ロイヤリティの向上: ブランドへの共感を通じた、長期的な顧客生涯価値(LTV)の向上。

CSR動画は、これらの無形資産を形成するための重要な投資であり、その効果測定も、こうした多角的な視点から行うことが不可欠です。

具体的な効果測定(KPIトラッキング)手法

SROIのような包括的な価値を念頭に置きつつ、日々の活動レベルでは、Step1で設定したKPIを具体的に追跡していくことが重要です。幸い、デジタルツールを活用することで、多くの指標をデータとして可視化できます。

1. ウェブ解析ツールの活用

専門家が推奨するように、Google Analyticsのような無料のアクセス解析ツールを導入することは、効果測定の第一歩です。動画を埋め込んだ自社ウェブサイトのCSRページや特設サイトで、以下の指標を定点観測します。

  • ページビュー(PV)数・ユニークユーザー数: 動画公開後にどれだけ関心が高まったか。
  • 平均ページ滞在時間: 視聴者がコンテンツにどれだけ深く関与しているか。動画が埋め込まれたページの滞在時間が長ければ、動画が視聴されている可能性が高いと推測できます。
  • 直帰率: ページを訪れたユーザーが、他のページに移動せずに離脱した割合。直帰率が低ければ、動画がきっかけで企業の他の情報にも興味を持ったことを示します。
  • コンバージョン率: 動画視聴後に、設定した目標(資料請求、問い合わせなど)に至ったユーザーの割合。

2. SNSプラットフォームの分析機能

YouTube, Facebook, X (旧Twitter), LinkedInなどのプラットフォームは、それぞれ詳細な動画分析機能を提供しています。これらを活用することで、視聴者の反応をより深く理解できます。

  • 視聴者維持率: 動画のどの部分で視聴者が最も惹きつけられ、どの部分で離脱しているかを秒単位で分析できます。離脱率が高い箇所は、内容が退屈、または難解である可能性があり、次回の改善点となります。
  • エンゲージメント率: 再生回数に対する「いいね」「コメント」「シェア」の割合。高いエンゲージメントは、コンテンツが視聴者の心に響いた証拠です。
  • 視聴者層データ: 視聴者の年齢、性別、地域などを把握し、意図したターゲットに届いているかを確認します。
  • コメントのセンチメント分析: コメントの内容を分析し、ポジティブな反応、ネガティブな反応、疑問点などを把握します。これは、社会が自社の活動をどう受け止めているかを知る貴重なフィードバックとなります。

3. アンケート調査の実施

数値データだけでは測れない「意識の変化」を捉えるためには、アンケート調査が有効です。動画視聴前と視聴後で、同じ質問を投げかけ、回答の変化を比較します。

  • ブランドイメージ調査: 「〇〇社に対して、どのようなイメージを持っていますか?(例:革新的、信頼できる、社会貢献意識が高い)」
  • 活動理解度調査: 「〇〇社の△△という活動について、どの程度理解していますか?」
  • 共感度調査: 「〇〇社のCSR活動に、どの程度共感しますか?」

これらの調査により、動画が視聴者の認識や感情にどのような影響を与えたかを、より直接的に測定することができます。

PDCAサイクルによる継続的な改善

効果測定は、単に結果を眺めるために行うのではありません。その目的は、得られたデータ(Check)からインサイトを抽出し、次なる行動(Act)に繋げ、コミュニケーション戦略全体を継続的に改善していくことです。これがPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルです。

例えば、視聴者維持率の分析から「専門用語を多用したCEOのメッセージ部分で離脱が急増した」というインサイトが得られたとします。この場合、次回の動画では「CEOのメッセージはより平易な言葉で、短くまとめる」「社員や受益者のインタビューを主体にする」といった改善策(Act/Plan)を立てることができます。

また、SNSのコメント分析で「この活動に参加する方法はないのか?」という声が多く見られたなら、それは新たな施策のチャンスです。次回の動画では、ボランティア募集の案内や関連商品の購入ページへの導線を設けることで、視聴者のエンゲージメントをさらに深めることができるでしょう。

このように、CSR動画を一度きりの施策で終わらせず、効果測定を通じて得られた学びを次の企画に活かし、PDCAサイクルを回し続けること。それこそが、CSR動画という投資のリターンを最大化し、企業のコミュニケーションを常に進化させていくための鍵なのです。

まとめ:企業の「想い」を「価値」に変えるために

本記事では、企業のCSR活動を伝える動画制作について、その戦略的重要性から具体的な制作プロセス、成功事例の分析、そして効果測定に至るまで、多角的に掘り下げてきました。

本記事の要点

  • 戦略的ツールの認識: CSR動画は、もはや単なる活動報告ではなく、SDGsやESGが重視される現代において、ブランド価値、ステークホルダーとの関係、採用力を強化する極めて有効な戦略的ツールです。
  • 成功の三要素: 成功するCSR動画の鍵は、①「誰に、何を伝え、どう動かすか」を定める明確な『戦略設計』、②視聴者の心を動かす『共感を呼ぶストーリー』、そして③メッセージを増幅させるドローンやVR、AIなどの『表現技術』の三位一体にあります。
  • 継続的改善の重要性: 制作して終わりではなく、KPIを設定し、効果を多角的に測定・分析し、その学びを次の施策に活かす「PDCAサイクル」を回し続けることで、投資対効果は最大化され、企業のコミュニケーションは進化し続けます。

貴社が真摯に取り組んでおられる素晴らしい社会貢献活動。その背景にある情熱、乗り越えてきた困難、そして活動を通じて描く未来への希望。それらの「想い」は、まだ社会に、そしてステークホルダーに十分に伝わっているでしょうか。

その尊い「想い」を、映像の力で、
共感を呼び、未来を動かす「価値」に変えませんか?

CSR動画の制作には、企業の理念や活動の本質を深く理解し、それを最も効果的な映像表現に落とし込むための、専門的な知見と技術が不可欠です。

「何から手をつければいいか分からない」
「自社の活動の魅力を、どう伝えれば最も響くのか悩んでいる」
「最新技術も取り入れて、他社とは違う印象的な動画を作りたい」

このようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ私たちにご相談ください。企画の構想段階から、具体的な戦略設計、そして心を動かす映像制作、さらには効果測定と改善提案まで、ワンストップでサポートいたします。

私たち合同会社KUREBAは、企業の「想い」に徹底的に寄り添い、それを「伝わる価値」へと昇華させる動画制作のプロフェッショナル集団です。貴社の挑戦を、映像の力で全力で後押しします。

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