静岡県浜松市。この街の名を耳にして、多くの人が思い浮かべるのが「うなぎ」ではないでしょうか。市内には80軒近くのうなぎ専門店が軒を連ね、その香ばしい香りは環境省の「かおり風景100選」にも選ばれるほど、街の文化に深く根付いています。しかし、なぜ浜松のうなぎはこれほどまでに人々を魅了するのでしょうか?
この記事では、うなぎ養殖発祥の地としての歴史から、関東風と関西風が共存する独特の食文化、そして地元民や観光客から絶大な支持を集める名店の数々まで、浜松うなぎの魅力を徹底的に解き明かします。2025年の最新情報とランキングを基に、あなたの知らない浜松の奥深い世界へご案内します。
なぜ浜松のうなぎは特別なのか?歴史と魅力に迫る
浜松が「うなぎの聖地」と称されるのには、単に美味しい店が多いというだけではない、歴史的・地理的な背景があります。その秘密を3つの視点から探ってみましょう。
うなぎ養殖発祥の地・浜名湖の125年
浜松のうなぎ文化の根幹をなすのが、うなぎ養殖発祥の地としての歴史です。その起源は120年以上前の1900年(明治33年)に遡ります。東京出身の服部倉次郎が、温暖な気候、豊富な地下水、そして稚魚(シラスウナギ)が遡上する浜名湖の環境がうなぎの養殖に最適であると見抜き、大規模な養鰻池を築いたのが始まりとされています。
この成功は日本全国に広がり、浜名湖は近代養鰻の礎を築きました。昭和40年代には静岡県のうなぎ生産量が全国の7割を占めるほどに成長。生産量こそ他県に譲る現在は、長年培われた技術と情熱が、味も品質も良い「浜名湖うなぎ」ブランドを支え続けています。
関東風 vs 関西風:二つの味を楽しめる食文化の交差点
うなぎの蒲焼には、調理法が大きく異なる「関東風」と「関西風」の二大流派が存在します。そして、地理的に東西の文化が交わる浜松は、この両方の味を一つの街で楽しめる、全国でも非常に珍しい場所なのです。
「実はまったく違う食べ物だと思ってくれた方がいい」
― 炭火焼 うなぎの松葉 店主・加藤三晴氏
二つのスタイルの違いは、食感や風味に決定的な差を生み出します。浜松を訪れた際は、ぜひ両方を食べ比べて、その奥深い違いを堪能してみてください。
特徴 | 関東風 | 関西風 |
---|---|---|
開き方 | 背開き(武士の文化で「腹を切る」を嫌ったため) | 腹開き(商人の文化で「腹を割って話す」を良しとしたため) |
調理工程 | 素焼き → 蒸す → タレ焼き | 蒸さずに地焼きのみ |
食感・仕上がり | ふわっと、とろけるように柔らかい | 皮はパリッと香ばしく、身はジューシーで弾力がある |
伝統と革新の融合:新ブランドうなぎ「でしこ」の誕生
125年の歴史を誇る浜名湖のうなぎ養殖は、伝統を守るだけでなく、進化も続けています。その象徴が、2024年に誕生した新ブランドうなぎ「浜名湖うなぎ でしこ」です。
「でしこ」は、「(で)伝統を守り、(し)進化を続け、(こ)幸福を届ける」という理念のもと、特別な飼料を用いるなどの新しい養鰻技術によって育てられた、肉厚で脂乗りの良い雌(メス)のうなぎです。この新ブランドは、産地の未来を担う挑戦として注目されており、2025年度にはグッドデザイン賞も受賞しています。
【2025年最新調査】食べに行ってみたい浜松うなぎ名店ランキング
数ある名店の中から、今最も注目されているのはどのお店なのでしょうか。2025年6月に実施された最新のアンケート調査(有効回答数1,491票)によると、全国の食通たちが「食べに行ってみたい」と考える浜松のうなぎ店には、興味深い傾向が見られます。
第2位には、備長炭で焼き上げる本格的な味わいが人気の「本場備長炭火焼 うな炭亭」がランクイン。創業以来守り続ける秘伝のタレと、炭火ならではの香ばしさが多くのファンを惹きつけています。
この結果は、品質への信頼性やアクセスの良さといった実用的な側面に加え、炭火焼きといった伝統的な調理法への根強い人気を浮き彫りにしています。これらの店は、浜松うなぎの魅力を体現する代表格と言えるでしょう。
目的別!浜松うなぎの名店ガイド
ランキングもさることながら、本当に良い店選びは「誰と、どんな風に楽しみたいか」で変わるもの。ここでは、様々なシーンに合わせた浜松の名店を厳選してご紹介します。
【老舗】創業100年超えの伝統を味わう「うなぎ料理 あつみ」
1907年(明治40年)創業。100年以上の長きにわたり浜松の食文化を支えてきた、まさに名店中の名店です。「食べログ うなぎ 百名店」の常連でもあり、その人気は絶大。国産・浜名湖産にこだわったうなぎを備長炭で香ばしく焼き上げます。
調理法は蒸しを入れる関東風ですが、焼きを強めにすることで皮のパリッとした食感も残しており、関東と関西の「いいとこ取り」とも評される絶妙な仕上がりです。歴史が育んだ本物の味を、心ゆくまで堪能してください。
- 住所: 静岡県浜松市中央区千歳町70
- アクセス: 新浜松駅から徒歩約5分
- 特徴: 創業1907年、食べログ百名店選出、関東風と関西風のハイブリッド
【駅近・関西風】炭火の香りがたまらない「本場備長炭火焼 うな炭亭」
浜松駅南口から徒歩5分という好立地にありながら、本格的な関西風地焼きが楽しめる人気店。店名が示す通り、最上級の備長炭を使い、職人が一串ずつ丁寧に焼き上げます。
高温の炭火で一気に焼き上げることで、うなぎの表面はパリッと香ばしく、中は旨味を閉じ込めてふっくらジューシーな仕上がりに。創業以来継ぎ足されてきた秘伝のタレとの相性も抜群で、炭火焼きならではの醍醐味を存分に味わえます。
- 住所: 静岡県浜松市中央区砂山町354
- アクセス: JR浜松駅南口から徒歩5分
- 特徴: 関西風地焼き、備長炭使用、駅近
【駅近・直営店】漁協直営ならではの品質「浜名湖うなぎ 丸浜」
浜名湖養魚漁業協同組合の直営店として、品質と価格の両面で高い評価を得ているお店です。JR浜松駅の駅ビル内にあり、新幹線を降りてすぐに立ち寄れる手軽さが魅力。カウンター席もあり、一人でも気軽に利用できます。
漁協直営だからこそ提供できる、厳選された浜名湖うなぎを安定した品質で味わえます。平日ランチ限定の「うな丼ランチ」や「まぶし茶漬け」は、コストパフォーマンスも高く特に人気です。
- 住所: 静岡県浜松市中央区砂山町6-1 メイワンエキマチウエスト1F
- アクセス: JR浜松駅直結
- 特徴: 浜名湖養魚漁協直営、駅直結、コストパフォーマンス
【関西風・人気店】地元民も推す行列店「鰻丸(まんまる)」
「浜松で関西風ならここ」と地元民からも名前が挙がるほどの人気を誇る専門店。注文を受けてから一尾一尾その場で開き、備長炭で一気に焼き上げるスタイルを貫いています。
焼き上げられたうなぎは、皮のパリパリ感と身の香ばしさ、そしてジューシーな食感が絶品と評判。タレに使う醤油や山椒も浜松産にこだわるなど、地産地消への意識も高いお店です。宮内庁御用達「山田平安堂」の漆器で提供されるという、器へのこだわりも特別感を演出します。
- 住所: 静岡県浜松市中央区大瀬町1626-1
- アクセス: 浜松駅から車で約20分
- 特徴: 関西風炭火焼き、注文後に捌く、地産地消
【個性派】ここでしか味わえない逸品がある名店
浜松のうなぎ文化の奥深さは、定番のうな重だけにとどまりません。他ではなかなか味わえない、個性豊かなメニューを提供する名店も存在します。
- うなぎ専門の店 志ぶき: 舘山寺温泉にあり、数量限定の「うなぎ姿寿司」が名物。うなぎ一匹を丸ごと使った贅沢な押し寿司は、見た目のインパクトも味も格別です。
- 肴町 魚魚一(とといち): 浜松が誇る珍味「うなぎの刺身」が味わえる数少ない店。特別な処理を施した新鮮なうなぎだからこそ提供できる逸品で、コリコリとした独特の食感が楽しめます。
- ひつまぶし 長楽 浜松店: 名古屋名物として知られる「ひつまぶし」の専門店。皮をカリッと硬めに焼き上げたうなぎと甘めのタレが特徴で、薬味やお茶漬けで多彩な味の変化を楽しめます。
特に「ひつまぶし 長楽」は、ホットペッパーグルメの口コミによると、来店者の約半数が「家族・子供と」利用しており、ファミリー層にも人気の高さがうかがえます。多彩な食べ方ができるひつまぶしは、世代を問わず楽しめるメニューとして支持されているようです。
浜松うなぎをもっと楽しむ!「浜名湖うなぎまつり」
浜松のうなぎ文化を肌で感じるなら、年に一度の祭典「浜名湖うなぎまつり」は絶好の機会です。2025年は、第23回目となる祭りが開催されます。
会場では、地元の名店が出店するうなぎ弁当の限定販売や、うなぎのつかみ取り体験、全長50メートルにも及ぶ「うなぎの長巻寿し」づくりなど、うなぎ尽くしのイベントが盛りだくさん。香ばしい香りに包まれながら、浜松のうなぎの魅力を五感で満喫できる一日となるでしょう。
- イベント名: 第23回浜名湖うなぎまつり
- 開催日時: 2025年11月2日(日) 9:30~15:30
- 会場: 浜名湖ガーデンパーク イベント広場周辺
- 主な内容: うなぎ弁当販売(1000食限定)、うなぎのつかみ取り、長巻寿しづくり体験など
まとめ:あなたにぴったりの一軒が浜松で待っている
うなぎ養殖発祥の地としての深い歴史、関東風と関西風が共存する多様な食文化、そして伝統を守りながらも革新を続ける職人たちの情熱。これらすべてが融合し、「浜松のうなぎ」という唯一無二のブランドを築き上げています。
この記事でご紹介した名店は、その魅力のほんの一端に過ぎません。100年続く老舗の重厚な味、駅前で気軽に楽しめる確かな品質、職人技が光る関西風の逸品、そして常識を覆す個性派メニュー。あなたの好みやシーンにぴったりの一軒が、浜松には必ずあります。
浜松を訪れることは、単に美味しいうなぎを食べるだけでなく、日本の食文化の奥深さに触れる旅でもあります。ぜひ、あなただけのお気に入りの名店を見つけに、この「うなぎの聖地」へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
コメント