【2024年完全版】三島ラーメン全方位ガイド！行列店から謎の「揚子江」まで徹底解剖

序章：なぜ今、三島ラーメンが熱いのか？「水の都」が誇るラーメン激戦区の深淵へ

静岡県東部、富士山の雪解け水が湧き出る「水の都」三島。多くの人がこの街の名を聞いて思い浮かべるのは、清らかな水で締めた絶品のうなぎ、あるいはご当地グルメの代表格「みしまコロッケ」かもしれない。しかし、食通やラーメン愛好家の間では、近年、三島は全く別の顔で注目を集めている。それが、「ラーメン激戦区」としての顔だ。

新幹線の停車駅であり、伊豆・箱根への玄関口として多くの人々が行き交うこの街には、都内の有名店で腕を磨いた店主が営む新進気鋭の店から、地元で何十年も愛され続ける老舗まで、驚くほど多様なラーメン店がひしめき合っている。それは単なる店舗の集合体ではない。それぞれの店が独自の哲学とこだわりを持ち、互いにしのぎを削ることで、ひとつのダイナミックな「生態系」を形成しているのだ。

本記事は、そんな三島のラーメンシーンの深淵を解き明かすための、現時点で最も包括的なガイドである。単なる人気店の羅列ではない。なぜこの街でこれほどまでにラーメン文化が花開いたのか、その背景を分析し、各店の個性をジャンル別に徹底解剖する。あなたがもし「三島 ラーメン」というキーワードでこのページに辿り着いたのなら、その期待に120%応えることを約束しよう。王道のつけ麺から、中毒性の高いソウルフード、洗練された淡麗系、そして家族で楽しめる一杯まで、あなたの求めるラーメンが必ずここに見つかるはずだ。

さらに、本記事では三島のラーメンシーンを語る上で避けては通れない、二つの大きな謎に迫る。

謎1：三島ラーメンの多様性
なぜ三島には、濃厚魚介豚骨つけ麺、伝統的な醤油ラーメン、本格家系、そして貝出汁や焦がし味噌といった個性派まで、これほど多種多様なジャンルが共存し、それぞれが高いレベルで支持されているのか？その勢力図と文化的背景を解き明かす。

謎2：「揚子江」とは何者か？
三島周辺のラーメン情報を検索すると、時折その名を目にする「揚子江」。一方で、ラーメン好きならば大阪の伝説的な老舗「揚子江ラーメン」を思い浮かべるだろう。これらは一体何者で、どのような関係にあるのか？我々はこの謎を徹底的に追跡調査した。

この記事は、「三島ラーメン勢力図の徹底解剖」「謎の店『揚子江』の追跡調査」「ラーメン文化を深掘りするコラム」という三部構成で、あなたを三島ラーメンの世界の奥深くへと誘う。読み終えたとき、あなたは単なるラーメン店のリストではなく、自分だけの一杯を見つけ出すための確かな「羅針盤」を手にしていることだろう。さあ、水の都が育んだ珠玉の一杯を探す旅を始めよう。

第一部：【ジャンル別徹底ガイド】ラーメン激戦区・三島の名店20選！あなた好みの一杯はこれだ

1. 三島ラーメンシーンの全体像：新旧が共存する多様性の坩堝

三島がなぜこれほどまでに魅力的なラーメン激戦区となったのか。その答えは、単一の理由に帰結するものではない。地理的、歴史的、そして文化的な要因が複雑に絡み合い、この地に多様なラーメン文化を根付かせたのである。

第一に、地理的優位性が挙げられる。伊豆半島や箱根といった日本有数の観光地への玄関口であり、東海道新幹線の停車駅でもある三島は、常に人の流動性が高い。観光客やビジネス客といった「一見客」と、地元住民という「常連客」の両方を満足させる必要があるため、一過性のブームに終わらない、本質的なクオリティが求められる土壌が形成された。この人の流れが、新しいラーメン文化が流入し、定着する素地となった。

第二に、関東圏からの文化的影響が色濃い点も見逃せない。特に東京や神奈川といったラーメン先進エリアからのアクセスが良いことから、それらの地域で修行を積んだ店主が独立・開業するケースが少なくない。例えば、2024年に開業し、瞬く間に行列店となった『一条流中華そば 智颯』は都内からの移転組であり、神奈川の伝説的名店「中村屋」のDNAを受け継ぐ店がかつて三島に存在したという事実も、この地のラーメンシーンのレベルの高さを物語っている。

これらの外部要因に加え、三島には古くから地元に根付いた食文化を受け入れる歴史的土壌があった。東海道の宿場町として栄えた歴史は、旅人をもてなす文化、すなわち多様な食を受け入れる寛容さを育んだ。この気質が、新しいラーメンの潮流と、地元で長年愛される伝統的な味とが共存する、現在の多様なシーンを生み出したと言えるだろう。

結果として、三島のラーメンシーンは主に以下の4つの勢力がしのぎを削る、ダイナミックな坩堝（るつぼ）となっている。

• 濃厚魚介豚骨つけ麺勢力： 静岡県東部エリア全体で強い影響力を持つジャンル。『麺屋 明星』を筆頭に、シーンを牽引する存在感を放つ。
• 本格家系ラーメン勢力： 横浜発祥の濃厚豚骨醤油ラーメン。中毒性の高い味わいで、三島でも『魂心家』や『捲り家』などが確固たる地位を築いている。
• 地元密着の老舗・町中華勢力： 『鈴福』や『味のなかむら』に代表される、何十年も市民の胃袋を満たしてきたソウルフード。懐かしさと安定感で根強い人気を誇る。
• 新進気鋭の個性派勢力： 貝出汁、鶏白湯、焦がし味噌、背脂チャッチャ系進化形など、独自のコンセプトで新たなファン層を開拓する新世代。シーンの多様性と活性化を担う重要な存在である。

これらの勢力が互いに競い合い、影響を与え合うことで、三島のラーメン文化は日々進化を続けている。次章からは、この魅力的な生態系を構成する代表的な名店を、一軒一軒詳しく見ていこう。

2. 【絶対王者】行列必至！三島を代表するトップランナーたち

数多のラーメン店がひしめく三島において、味、知名度、影響力のすべてにおいて「別格」と評される店が存在する。ここでは、三島のラーメンシーンを語る上で絶対に外すことのできない、トップランナーたちを深掘りする。初めて三島を訪れるなら、まずはここから攻めるのが定石だ。

麺屋 明星：濃厚魚介豚骨つけ麺の絶対王者

「三島・沼津エリアでつけ麺といえば？」この問いに、多くの人が真っ先に挙げる名が『麺屋 明星』だろう。単なる人気店という言葉では表現しきれない、まさに「絶対王者」と呼ぶにふさわしい一軒だ。「本当に美味しいつけめんを創りたい」という店主の執念が、5年の歳月をかけて生み出した一杯は、訪れる者を圧倒する完成度を誇る。

その神髄は、まずスープにある。豚・鶏・野菜を10時間以上かけて煮込み、動物系の重厚な旨味を抽出。そこに、京都の高級干物や節系を低温で18時間かけてじっくりと煮出した魚介系の出汁を絶妙なバランスで配合する。結果として生まれるのは、ドロリと高い粘度を持ちながらも、塩分や油分は控えめで、素材本来の旨味が凝縮された超濃厚スープだ。このスープが、明星のもう一つの主役である極太麺に余すところなく絡みつく。

特筆すべきは、その麺の提供方法だ。昆布出汁に浸された状態で供される麺は、それ自体がひとつの完成された料理。店が推奨する食べ方は、まず麺だけを味わい、次に添えられた塩やスダチで麺本来の風味と昆布出汁の繊細な旨味を楽しむというもの。この段階を経てから、ようやく濃厚なつけ汁へとダイブさせる。この一連のシークエンスは、単なる食事ではなく、ひとつの体験として設計されており、最後まで客を飽きさせない工夫が凝らされている。まさに王者と呼ぶにふさわしい、計算され尽くした一杯である。

鈴福：ニンニク香る手打ち麺が癖になるソウルフード

国道136号線沿いに、長年変わらぬ姿で佇む『鈴福』。1976年創業のこの店は、三島市民にとって単なるラーメン店ではない。「三島市民のソウルフード」とまで言われる、特別な存在だ。その魅力は、一度食べたら忘れられない、強烈な個性にある。

看板メニューは、ニンニクがガツンと効いた味噌ラーメンや手打ちラーメン。スープはややしょっぱめに仕上げられた味噌味で、そこに強烈なニンニクの風味が加わり、食欲を暴力的に刺激する。このスープを受け止めるのが、黄色がかった色合いが特徴的な自家製の中太手打ち麺だ。機械製麺では決して出せない、モチモチとした不均一な食感が、スープと一体となって独特の世界観を創り出す。

丼には、たっぷりのもやしと玉ねぎ、そして豚肉が乗り、ボリュームも満点。洗練や上品さとは対極にある、パワフルでジャンクな魅力。しかし、その裏には長年の経験に裏打ちされた確かなバランス感覚が存在する。流行り廃りとは無縁の場所で、今日も地元の人々の胃袋と心を満たし続ける。『鈴福』は、三島のラーメン文化の「深さ」を象徴する一軒と言えるだろう。

麺や 桜風：トロトロ炙りチャーシューと和風スープの芸術的調和

濃厚さと繊細さ。一見、相反する二つの要素を、一杯の丼の中で見事に調和させているのが『麺や 桜風（おうふう）』だ。三島のラーメン激戦区において、常に人気上位にランクインし続けるその実力は、細部にまで宿るクオリティの高さに支えられている。

スープは、ブシ（節系）と魚介を駆使したWスープ。見た目は濃厚だが、口に含むと意外にも後味はあっさりしており、魚介の風味が上品に香る。この絶妙なバランスのスープに合わせるのは、ツルツルとした喉越しの良い自家製麺。スープとの相性は抜群で、互いの良さを引き立て合っている。

しかし、『桜風』を語る上で最大のハイライトは、何と言ってもそのチャーシューだろう。「箸で切れるほど柔らかい」と評される肩ロースの炙りチャーシューは、まさに絶品。提供直前に丁寧に炙られることで、香ばしさが加わり、口の中でホロリととろける。このチャーシューを目当てに訪れるファンも少なくない。スープ、麺、具材のすべてが高いレベルで融合した、芸術的な一杯。それが『桜風』のラーメンだ。

味のなかむら & 味の終着駅 次郎長：地元に根付く伝説の老舗

最新のトレンドを追いかけるだけがラーメンの楽しみではない。その土地の歴史と共に歩んできた老舗の味には、時代を超えて愛される理由がある。三島には、そんな「伝説」とも呼べる店が二つ存在する。

一つは『味のなかむら』。40年以上続くこの店は、『鈴福』と並び「三島市内で食べておくべき老舗」として名前が挙がる、まさに三島を代表する存在だ。派手さはないが、長年地元民に支持され続けてきたその味は、三島のラーメン史そのものと言っても過言ではない。

もう一つは、国道1号線沿いに黄色い看板を掲げる『味の終着駅 次郎長』。ここは、ラーメン主体の定食屋でありながら、テレビ番組で紹介されたことで「裏メニューのチャーハン」が一番人気というユニークな店だ。もちろん、本業のラーメンも絶品。昔ながらの優しい味わいの醤油ラーメンは、どこか懐かしさを感じさせ、デカ盛りのチャーハンと共にガッツリ食べたい日の頼れる存在として、多くのファンに愛されている。

3. 【個性派の饗宴】ここでしか味わえない！こだわりの一杯

王道のラーメンがシーンの幹を成す一方で、その枝葉を豊かに彩るのが個性派の存在だ。三島には、独自の哲学とこだわりを武器に、唯一無二の味でファンを魅了する店が数多く存在する。ここでは、そんな「ここでしか味わえない」特別な一杯を提供する店々を紹介する。

貝出汁らぁ麺 燈や：貝の旨味が凝縮された淡麗系スープの極み

ラーメンスープの素材として、近年注目度が高まっている「貝」。そのポテンシャルを極限まで引き出し、一杯の芸術に昇華させているのが『貝出汁らぁ麺 燈や（あかりや）』だ。アサリやホタテ、昆布から丁寧に、そして贅沢に炊き出したスープは、丼が運ばれてきた瞬間から芳醇な香りを放つ。一口飲めば、あっさりとした口当たりの中に、深く、そして多層的な貝の旨味が凝縮されていることに驚かされる。最後の一滴まで飲み干したくなるほどの美味しさとは、まさにこのスープのためにある言葉だろう。三島駅南口と萩に店舗を構え、アクセスが良いのも魅力。上品で繊細な味わいを求めるならば、間違いなく筆頭候補となる一軒だ。

横浜家系ラーメン 魂心家 & 会心のラーメン 捲り家：三島で味わう本格家系

濃厚な豚骨醤油スープに、鶏油（チーユ）のコク、そして力強い中太麺。一度ハマると抜け出せない魅力を持つ「家系ラーメン」は、三島でも確固たる人気を築いている。その代表格が『魂心家（こんしんや）』と『捲り家（まくりや）』だ。

全国チェーン展開する『魂心家』は、クリーミーで濃厚ながらも後味の良い「濃まろ豚骨スープ」が特徴。ランチタイムのライスおかわり自由や、毎月22日の「魂心家の日」割引など、サービス精神旺盛な点も人気の理由だ。一方、『捲り家』は地元で「家系ならここ」という声も多い実力店。モチモチの太麺と濃厚スープのコンビネーションは王道そのもので、女性一人でも入りやすいと評判の雰囲気の良さも特筆すべき点。どちらも本格的な家系ラーメンを求めるファンの期待に応えるクオリティを誇る。

麺処 七転八起：焦がし風味が食欲をそそる創作味噌ラーメン

味噌ラーメンという定番ジャンルに、「焦がし」という一手間を加えることで独創的な一杯を創り出しているのが『麺処 七転八起』だ。複数の味噌をブレンドしたタレを中華鍋で香ばしく焦がすことで、独特の風味と、コクがありながらもスッキリとした後味を生み出している。この香ばしい風味が食欲を強烈に刺激する。また、三島産の野菜をふんだんに使ったメニューも提供しており、地元の恵みを活かした地産地消への意識も感じられる。定番に一捻りを加えた、店主の探究心が光る創作ラーメンだ。

めんりすと：お洒落空間で味わうモダンな鶏白湯

「ここは本当にラーメン屋？」と、思わず口にしてしまうほどモダンでお洒落な内装。それが『めんりすと』の第一印象だ。カフェやビストロと見紛う空間は、女性客やカップルにも絶大な人気を誇る。しかし、その魅力は雰囲気だけではない。看板メニューである鶏の旨味が凝縮された「白湯（しろどり）」スープは、クリーミーで優しい味わいながら、しっかりとしたコクと深みを持つ本格派。柚子塩や醤油など、多彩なバリエーションも用意されており、訪れるたびに新しい発見がある。ラーメン店のイメージを覆す、新世代の感性が光る一軒だ。

一条流中華そば 智颯：ラーメンマニア注目の東京からの移転組

2024年、突如として三島に現れ、県内外のラーメンマニアたちの注目を一身に集めているのが『一条流中華そば 智颯（ちそう）』だ。都内からの移転組であるこの店は、ラーメン界にその名を轟かせる「一条流がんこラーメン」の系譜を汲む実力店。提供するのは、醤油ベースのスープに背脂をチャッチャと振りかけた、いわゆる「背脂チャッチャ系」だが、その味わいは決してオールドスタイルではない。キレのある醤油ダレと上質な背脂の甘みが融合したスープは、「背脂チャッチャの進化系」と評される洗練された味わい。このハイレベルな一杯が、三島のラーメンシーンに新たな刺激を与えていることは間違いない。

4. 【シーン別】旅の途中でも家族とでも！三島の頼れるラーメン店

「美味しいラーメンが食べたい」という動機は同じでも、その時の状況は様々だ。ここでは、出張や観光の合間にサクッと立ち寄りたい時や、小さなお子様連れで安心して食事を楽しみたい時など、特定のシチュエーションで輝きを放つ、頼れるラーメン店を紹介する。

駅近で便利！出張・観光の味方

ラーメン酒場 福の軒
三島駅の改札を出てすぐ、伊豆箱根鉄道の駅構内という、これ以上ないほどの好立地を誇るのが『ラーメン酒場 福の軒』だ。この店の最大の強みは、その圧倒的な利便性と対応力の広さにある。朝7時から営業しており、静岡中部の文化として知られる「朝ラー」を三島駅前で体験できるのは貴重だ。昼は、臭みがなくマイルドな本格博多豚骨ラーメンをリーズナブルな価格で提供しており、新幹線の待ち時間などに素早く食事を済ませたい時に最適。そして夜は、静岡おでんなどをつまみに一杯飲める「ラーメン酒場」へと姿を変える。一杯のラーメンからちょい飲みまで、あらゆるニーズに応えてくれる、まさに旅の味方と呼べる一軒だ。

家族で楽しめる！広々空間と豊富なメニュー

一番亭
静岡県東部を中心に店舗を展開し、地元で長年愛されている中華ファミリーレストランが『一番亭』だ。昭和26年創業の老舗であり、その安定感は抜群。看板メニューは、発売から40年以上も売上No.1を誇るという「肉ピリラーメン」。たっぷりの野菜と豚肉をピリ辛のスープでまとめた一杯は、食欲をそそり、世代を問わず人気が高い。ラーメン以外にも餃子や定食メニューが非常に充実しており、座敷席も完備されているため、小さなお子様連れの家族でも安心して利用できる。好き嫌いが分かれにくく、誰もが満足できるメニュー構成は、ファミリー層にとって何よりの魅力だろう。

喜多方ラーメン 坂内
全国的にその名を知られる有名チェーン『喜多方ラーメン 坂内』も、三島で家族連れに支持される一軒だ。その理由は、何と言ってもその「安心感」にある。豚骨の旨味をじっくりと引き出した、あっさりしながらもコク深い透明な醤油スープは、刺激が少なく、子どもからお年寄りまで誰もが美味しく味わえる。そして名物の「焼豚ラーメン」は、手作りのとろけるようなチャーシューが丼を埋め尽くす圧巻のビジュアル。このチャーシューは子どもにも大人気だ。平打ちの熟成多加水麺のつるりとした食感も心地よく、家族みんなで楽しめる王道の美味しさを提供してくれる。

第二部：【徹底追跡】「揚子江ラーメン」の謎 ― 大阪の伝説と三島エリアの町中華、その関係は？

1. 発端：検索結果に現れる二つの「揚子江」

本稿の執筆にあたり、「三島 ラーメン」というキーワードでウェブ検索を重ねる中で、我々は奇妙な現象に直面した。検索結果の中に、明らかに系統の異なる二つの「揚子江（ようすこう）ラーメン」の情報が混在して表示されるのだ。一つは、ラーメン好きなら誰もが知る、大阪で伝説的な人気を誇った老舗。もう一つは、三島の隣町である駿東郡長泉町にひっそりと佇む、地元密着型の町中華。屋号は同じ「揚子江」。しかし、ウェブサイトや口コミから垣間見えるその姿は、あまりにも対照的である。

この現象は、情報を求めるユーザーに混乱をもたらしかねない。果たして、これらは同じ系列店なのだろうか？あるいは、のれん分けや修行といった関係性があるのだろうか？それとも、全くの無関係なのだろうか？この素朴な疑問こそが、我々を「揚子江」の謎を追う調査へと駆り立てた。この章では、二つの「揚子江」のルーツ、アイデンティティ、そして味の核心をそれぞれ徹底的に調査・分析し、両者の関係性についての結論を導き出すことを目的とする。

2. File.1：大阪の伝説「揚子江ラーメン」― 澄み切ったスープの記憶

歴史とオリジン

大阪の「揚子江ラーメン」の歴史は、1964年に大阪・梅田で創業した一軒の店に遡る。その前身は「揚子江飯店」という中華料理店であり、そこで提供されていた中華スープをベースに、唯一無二のラーメンが誕生した。創業以来、その透き通ったスープのラーメンは多くの大阪人に愛され、特に飲んだ後の「シメの一杯」として絶大な支持を集めた。しかし、その源流である総本店は、多くのファンに惜しまれつつも2020年4月に閉店。半世紀以上にわたる歴史に幕を下ろした。だが、その伝説の味と魂は、総本店で修行した人々によって「名門」や「林記」といったのれん分け店に確かに受け継がれ、今もなお大阪の地で生き続けている。

味のアイデンティティ

大阪「揚子江ラーメン」のアイデンティティを決定づけるのは、何と言ってもそのスープである。どんぶりの底が見えるほどに澄み切った清湯（ちんたん）スープは、鶏ガラと豚骨を丁寧に炊き出した塩味がベース。見た目は極めてあっさりしているが、口に含むと滋味深い旨味がじんわりと広がる。これは、素材の仕入れによって日々変わるダシの強弱を見極め、絶妙なバランスを保つという職人技の賜物だ。

この繊細なスープに合わせるのは、しなやかで喉越しの良い細ストレート麺。あっさりしたスープにもよく絡むようにと、計算されて選ばれたものだ。具材は、水菜（元々は春菊（菊菜）が使われていた）、もやし、薄切りのチャーシュー、ネギという非常にシンプルな構成。すべてがスープの繊細な味わいを邪魔しないように配慮されている。

そして、このラーメンを唯一無二の存在たらしめているのが、「揚げタマネギ（フライドオニオン）」という味変アイテムの存在だ。別皿または卓上にて提供されるこれをスープに加えると、玉ねぎの香ばしい風味が瞬く間に広がり、あっさりとしたスープに劇的な奥行きとパンチを与える。この味の変化こそが、「揚子江ラーメン」の真骨頂であり、多くの人々を虜にしてきた最大の魅力と言えるだろう。

受け継がれるDNA：現存する主要店舗

総本店がなき今、その味を体験できる代表的な店舗が『揚子江ラーメン 名門』と『揚子江ラーメン 林記』だ。

• 揚子江ラーメン 名門： 総本店のスタイルである底が浅く平たい丼を受け継ぎ、あの透明なスープを忠実に再現している。一方で、大ぶりの豚バラ煮込みが乗った「排骨（パイコー）メン」のような、よりパワフルで食べ応えのあるメニューも展開しており、伝統を守りつつも独自の進化を遂げている。
• 揚子江ラーメン 林記： こちらも総本店の味を受け継ぐ人気店。兎我野町という少しディープな場所にありながら、ランチタイムにはお得な定食セットを求めて多くの客で賑わう。こちらも卓上のフライドオニオンが健在で、伝説の味変を存分に楽しむことができる。

これらの店舗は、メニュー構成や店の雰囲気に若干の違いはあれど、澄み切った塩スープ、細ストレート麺、そして揚げタマネギという「揚子江ラーメン」の核となるDNAを確かに共有している。大阪のラーメン史に刻まれた伝説は、形を変えながらも、今なお人々の舌を魅了し続けているのだ。

3. File.2：三島エリアの隠れた名店・長泉「揚子江」― 地元に愛される町中華の温もり

店舗のロケーションと雰囲気

一方、静岡県に存在する「揚子江」は、三島市の隣、駿東郡長泉町にその店を構える。最寄り駅はJR御殿場線の下土狩駅。駅前の路地裏にひっそりと佇むその店構えは、「地元民でなければ入りづらい雰囲気」と評される、典型的な「町中華」のそれである。店内はカウンター席が5席ほどのみというこぢんまりとした空間。壁には手書きのメニューがずらりと貼られ、長年地元の人々に愛されてきた歴史が滲み出ている。大阪の洗練された専門店とは全く異なる、温かく、どこか懐かしい空気がそこには流れている。

味のアイデンティティ

長泉「揚子江」の味の核心は、大阪のそれとは全く異なるベクトルを向いている。その特徴は以下の通りだ。

• スープ： 昔ながらの生姜がほのかに香る、鶏ガラ・豚骨ベースの醤油スープ。大阪の透き通った「塩」とは対照的だ。適度な油分があり、多くの日本人にとって「中華そば」と聞いて思い浮かべるような、安心感と懐かしさを覚える味わいである。
• 麺： スープに合わせるのは、プリプリとした食感が楽しい細めの縮れ麺。これもまた、大阪のしなやかな「細ストレート麺」とは明確に異なる特徴だ。
• 人気メニュー：
  • らーめん： バランスの取れた、まさに「ど真ん中の中華そば」。奇をてらわない王道の味が、常連客の心を掴んで離さない。
  • ちゃあはん： 「チャーハン」ではなく「ちゃあはん」と表記されるこの店のもう一つの名物。見た目に反して意外にも薄味で、フワフワとした食感が特徴。チャーシューからほのかに香る八角が、プロの仕事を感じさせるアクセントとなっている。
  • 豊富なメニュー： 基本のラーメンに加え、もやしラーメン、にんにくラーメン、五目ラーメンといったバリエーションや、一品料理も充実。ホワイトボードにはその日のおすすめも書かれており、「居酒屋使いもOK」な懐の深さも魅力である。

大阪の「揚子江」が、ラーメンという一品を突き詰めた「専門店」であるとすれば、長泉の「揚子江」は、ラーメンもチャーハンも美味しい、地域住民の日常に寄り添う「万能型の町中華」と言えるだろう。

地元での評価

グルメサイトの口コミを分析すると、長泉「揚子江」が地元でいかに深く愛されているかが見えてくる。「オイリーで満足、飲みにも良さそう」「スープは自分好みで美味しかった」「チャーハンはしっとり系で、こちらも自分好み」といった声が並び、多くのリピーターに支えられていることがわかる。派手な宣伝もなく、路地裏で長年営業を続けてこられたのは、ひとえにその味と居心地の良さが地元民に固く支持されているからに他ならない。

4. 考察と結論：「揚子江」は繋がっているのか？

さて、二つの「揚子江」の調査ファイルが出揃った。ここからは、両者を比較分析し、我々の当初の疑問に対する結論を導き出そう。

上の比較チャートを見ても明らかなように、大阪の「揚子江」と長泉の「揚子江」は、その核心部分において全く異なるアイデンティティを持っている。スープのベースは「塩清湯」と「醤油」、麺は「細ストレート」と「細縮れ」、そして味の決め手となる特徴は「揚げタマネギ」と「生姜風味」。これらは単なるバリエーションの違いではなく、ラーメンとしての設計思想そのものが異なっていることを示している。

では、なぜ同じ「揚子江」という屋号なのか。この謎を解く鍵は、屋号そのものの意味にある。「揚子江」とは、ご存知の通り、中国最大の大河である「長江」の別名だ。この雄大な川の名は、中華料理の世界では縁起の良い、象徴的な言葉として広く用いられてきた歴史がある。例えば、東京・神保町には明治39年（1906年）創業の老舗『揚子江菜館』が存在し、また、関東を中心に展開するチェーン店『中国ラーメン揚州商人』も、その名は揚子江流域の都市・揚州に由来する。つまり、「揚子江」という屋号は、特定の系列を示す固有名詞というよりも、「本格的な中華の味」を標榜する一般名称に近い側面を持っているのだ。

第三部：【深掘りコラム】ラーメンを100倍楽しむための豆知識

三島のラーメン店を巡り、謎を追う旅は、我々に多くの発見をもたらした。しかし、ラーメンの世界は知れば知るほど奥深い。この章では、これまでの調査で得られた知見を基に、あなたのラーメンライフをさらに豊かにするための三つのコラムをお届けする。

1. 静岡ラーメン文化論：東部・中部・西部の違いと三島の立ち位置

「静岡ラーメン」と一括りに語ることは、実は非常に難しい。広大な県土を持つ静岡県では、エリアごとに全く異なるラーメン文化が育まれてきたからだ。専門メディアでも指摘されるように、静岡のラーメンシーンは大きく「西部」「中部」「東部」の三つの勢力圏に大別できる。

• 西部エリア（浜松市など）： このエリアのラーメン文化は、浜松餃子との強い結びつきを持つ。ラーメン専門店というよりは、餃子と共にラーメンを提供する中華料理店が多く、スープは豚骨や鶏ガラをベースにした、比較的あっさりとした醤油味が主流。老舗の『中華そば一力』や、地元チェーンの『五味八珍』などがその代表格だ。穏やかで優しい味わいが特徴と言える。
• 中部エリア（静岡市、藤枝市、焼津市など）： 静岡中部を語る上で欠かせないのが、全国的にも極めて珍しい「朝ラーメン（朝ラー）」の文化だ。特に藤枝市では、1919年創業の老舗を発祥とし、お茶の取引などで朝早くから働く人々のためにラーメンが提供される文化が根付いた。「温かいラーメン」と「冷たいラーメン」をセットで食べるのが藤枝流で、スープはカツオ出汁ベースの甘めの醤油味。「朝から食べても胃にもたれない」ように工夫されているのが最大の特徴だ。この文化は近年、藤枝市外にも広がりを見せている。
• 東部エリア（三島市、沼津市、富士市など）： 本稿の主役である東部エリアは、地理的に首都圏に近いことから、関東圏のラーメン文化の影響を色濃く受けている。横浜家系ラーメンや、東京発の濃厚魚介豚骨つけ麺といった、パンチの効いた濃厚系のラーメンが強い人気を誇る。神奈川の超有名店『らぁ麺 飯田商店』が沼津市に支店を出したり、東京の実力店が三島市に移転してきたりと、常に最新のトレンドが流入し、シーンは非常に流動的でレベルが高い。

この三大勢力図の中で、三島の立ち位置は非常に興味深い。東部エリアに属し、濃厚系が強いという基本特性を持ちながらも、本稿で見てきたように、地元民に愛される老舗のあっさり醤油ラーメン（『次郎長』など）や、中毒性の高い独自のソウルフード（『鈴福』）、さらには貝出汁や鶏白湯といった新世代の個性派までが共存している。これは、三島が単なる「関東文化の受け皿」ではなく、流入してきた文化を咀嚼し、自らの土壌で独自の生態系を育む力を持った、「多様性のハブ」としての特異なポジションを確立していることを示している。この懐の深さこそが、三島を日本有数のラーメン激戦区たらしめている最大の理由なのである。

2. 名脇役「メンマ」の世界：自家製メンマに挑戦してみよう

ラーメンに当たり前のように乗っている「メンマ」。コリコリとした食感のアクセントとして欠かせない存在だが、その正体について深く考えたことがあるだろうか。実はメンマは、ラーメンの世界をより深く楽しむための、興味深い扉の一つなのだ。

メンマの基礎知識

メンマの正体は、タケノコを発酵させた食品である。原料として主に使われるのは、中国や台湾が産地の「麻竹（マチク）」という種類のタケノコで、これを塩漬けにして乳酸発酵させ、天日で乾燥させるという伝統的な製法で作られる。つまり、メンマは漬物や納豆、キムチなどと同じ発酵食品の仲間なのだ。この発酵プロセスを経ることで、タケノコは独特の風味と旨味、そしてあの特徴的な食感を持つようになる。「麺の上にのせる麻竹」が語源となり、「メンマ」という名が生まれたと言われている。

自家製メンマ・レシピ：家庭でできる簡単版

本格的な発酵メンマを家庭で作るのはハードルが高いが、市販の「水煮タケノコ」を使えば、驚くほど簡単に「メンマ風」の美味しい常備菜を作ることができる。ラーメンのトッピングはもちろん、お酒のつまみやご飯のお供にも最適だ。

【水煮タケノコで簡単！自家製メンマ】

材料：

• 水煮タケノコ（穂先または根元） … 1袋（約200g）
• ごま油 … 大さじ1
• [A] 醤油 … 大さじ2
• [A] みりん … 大さじ1
• [A] 砂糖 … 大さじ1
• [A] 中華スープの素（顆粒） … 小さじ1/2
• [A] 水 … 50ml
• ラー油 … お好みで

作り方：

1. 水煮タケノコは軽く水洗いし、繊維に沿って5mm程度の厚さに切る。
2. フライパンにごま油を熱し、タケノコを加えて中火で軽く炒める。
3. タケノコに油が回ったら、[A]の調味料をすべて加える。
4. 時々混ぜながら、煮汁がほとんどなくなるまで弱火～中火で煮詰める。
5. 火を止め、お好みでラー油を回しかければ完成。粗熱が取れたら保存容器に移す。

ポイント：火を止めてから一度冷ます過程で味が染み込むため、時間に余裕があれば一晩寝かせるとさらに美味しくなる。コリコリした食感が好きなら厚めに、柔らかい食感が好きなら薄めに切るなど、切り方で食感を調整できるのも自家製ならではの楽しみだ。

メンマがラーメンに与える影響

メンマの役割は、単なる食感のアクセントに留まらない。発酵食品特有の複雑な旨味成分は、ラーメンスープに溶け出すことで、スープ全体に深みと奥行きを与える。特に、あっさりとした醤油ラーメンや塩ラーメンにおいて、メンマの存在はスープの輪郭をよりくっきりとさせる効果を持つ。また、チャーシューの脂の甘みとメンマの塩気・旨味は味覚上の見事なコントラストを生み出し、互いを引き立て合う。名脇役「メンマ」に少しだけ注目してみることで、いつもの一杯が、より立体的で多層的な味わいを持っていることに気づかされるはずだ。

3. 三島ラーメン最前線：進化するシーンの注目トピック

三島のラーメンシーンは、決して停滞していない。常に新しい動きが生まれ、進化を続けている。ここでは、現在の三島ラーメンシーンを象徴する、二つの注目すべきトピックを取り上げる。

新世代の台頭とシーンの活性化

近年、三島のラーメンシーンを最もエキサイティングなものにしている要因は、間違いなく「新世代の台頭」である。その象徴が、前述した『一条流中華そば 智颯』のような東京からの実力店の移転や、『らぁ麺 飯田商店』（沼津市）のような全国区の超有名店の近隣エリアへの出店だ。これらの店の出現は、地元のラーメン店にとって脅威であると同時に、大きな刺激となっている。ハイレベルな競争が生まれることで、既存店もクオリティの向上を迫られ、結果としてシーン全体のレベルが底上げされる。また、これらの店を目指して県外から訪れるラーメンファンが、他の地元の店にも足を運ぶという波及効果も生まれている。新世代の黒船は、三島のラーメン文化を新たなステージへと引き上げる起爆剤となっているのだ。

地域との共創：ラーメンによる地域活性化

もう一つの興味深い動きは、ラーメンが単なる食文化に留まらず、「地域活性化のツール」として機能し始めている点だ。その好例が、2025年3月に実現した、日大三島高校の生徒たちと地元の人気店「ラーメンやんぐ」とのコラボレーションである。

生徒たちが地域活性化をテーマにした探究学習の一環として、三島の特産品である「三島馬鈴薯」と「丹那牛乳」を使ったラーメンを考案。そのアイデアを「ラーメンやんぐ」が受け止め、試作を重ねて「三島馬鈴薯ラーメン」として完成させ、2025年3月23日に限定販売するに至った。この取り組みは、若い世代が地域の食文化に関心を持ち、地元の名店と協力して新たな価値を創造するという、理想的な地域共創のモデルケースと言える。うなぎやコロッケに続く、新たな「三島名物」がラーメンから生まれる日も、そう遠くないのかもしれない。この動きは、三島のラーメンシーンが持つ未来への大きな可能性を示唆している。

終章：さあ、あなただけの一杯を探す旅へ

本稿を通じて、我々は静岡県三島市が、単なる「水の都」ではなく、驚くほど豊かで多様なラーメン文化が根付く、日本有数の「ラーメンの都」でもあることを明らかにしてきた。長時間かけて旨味を凝縮した濃厚つけ麺の絶対王者から、何十年も市民の魂を支えてきたニンニク香るソウルフード、洗練された貝出汁が光る淡麗系の一杯、そして東京から乗り込んできた進化系背脂ラーメンまで。新旧の実力店が互いに高め合い、しのぎを削るこの街のダイナミズムは、訪れるラーメン好きの心を捉えて離さない。

また、「揚子江ラーメン」の謎を追う旅は、我々にラーメンという食文化の奥深さを教えてくれた。大阪の伝説と長泉の町中華。二つの「揚子江」は直接繋がってはいなかった。しかし、それぞれが異なる場所で、異なる形で、人々に愛され続けるかけがえのない存在であることを確認できた。屋号に込められた歴史や、地域に根ざした味の進化。一杯のラーメンの向こう側には、常に豊かな物語が広がっているのだ。

この記事は、あくまで羅針盤に過ぎない。本当の旅は、あなたが三島の街に降り立ち、その一歩を踏み出すところから始まる。

絶対王者の行列に並び、その完成度に打ち震えるもよし。
地元民に混じって老舗の暖簾をくぐり、変わらぬ味に安らぎを覚えるもよし。
お洒落な空間で、新世代の感性が生み出す一杯に驚きを感じるもよし。
あるいは、少し足を延ばして、謎の町中華「揚子江」の扉を開け、その温かい雰囲気に身を委ねるもよし。

選択肢は無限にある。そして、そのどれもが正解だ。このガイドを片手に、ぜひあなた自身の舌と足で、三島のラーメンの深淵を探求してほしい。きっと、あなたにとっての「最高の一杯」が、この水の都のどこかで、あなたを待っているはずだから。