【2025年版】銀行・証券業界のLINE公式アカウント活用事例|顧客体験を変えるDX戦略
【2025年版】銀行・証券業界のLINE公式アカウント活用事例|顧客体験を変えるDX戦略
KUREBA
金融DXの主戦場となりつつあるLINE
金融業界において、デジタルトランスフォーメーション(DX)はもはや選択肢ではなく、生き残りをかけた必須戦略となっています。特に、顧客との接点(タッチポイント)のデジタル化は喫緊の課題です。その中で、国内月間利用者数9,900万人を誇るコミュニケーションアプリ「LINE」が、金融機関にとって極めて重要なチャネルとして急速に存在感を増しています。
従来の電話や対面、メールといった手段では難しかった、迅速かつパーソナルなコミュニケーションを可能にするLINEは、若年層へのアプローチ、既存顧客のエンゲージメント向上、さらには業務効率化といった、金融機関が抱える多くの課題を解決するポテンシャルを秘めています。事実、LINEヤフー社のデータによれば、約80%のユーザーが公式アカウントからのメッセージを当日中に開封するとされており、そのリーチ力と即時性は他のメディアを圧倒します。
本記事では、最新の消費者動向調査と具体的な企業事例を基に、銀行・証券業界におけるLINE公式アカウント活用の最前線を徹底解説します。単なる情報発信ツールに留まらない、顧客体験を根底から変革し、ビジネス成果に直結させるための戦略的アプローチを探ります。
LINE活用の現在地:消費者動向から見る金融機関の勝ち筋
効果的なLINE活用戦略を立てるには、まずユーザーが何を求めているのかを正確に理解する必要があります。モビルス株式会社が2025年9月に発表した「消費者のLINE公式アカウント利用実態調査2025」は、そのための貴重な示唆を与えてくれます。
消費者が本当に求めるコミュニケーションとは?
調査によると、ユーザーがLINE公式アカウントを友だち追加する最大の動機は「クーポン・LINEスタンプの入手」(約5割)ですが、その内実は年代によって大きく異なります。特に注目すべきは、20代の若年層が「チャットでの問い合わせ」を目的として友だち追加する傾向が他年代に比べて高い点です。
実際に友だち追加後に行った行動を見ても、20代は「有人チャットでの問い合わせ」(20%)や「チャットボット利用」(25.6%)、「ID連携を通じた手続き」(21.8%)といった能動的なアクションを積極的に行っています。これは、若年層にとってLINEが単なる情報受信ツールではなく、問い合わせから手続きまでを完結できる「双方向プラットフォーム」として認識されていることを示しています。
さらに、全年代の約6割(57%)が「LINE公式アカウント上でチャット相談を利用したい」と回答しており、特に20代では75.2%、30代では70.2%と、そのニーズは極めて高いことがわかります。この結果は、金融機関が顧客サポートのチャネルとして、LINEのチャット機能を積極的に導入すべき強力な根拠となります。
ブロック回避と継続利用の鍵
一方で、調査では全体の7割が「LINE公式アカウントをブロックした経験がある」と回答しており、その理由の上位は「情報配信頻度の多さ」と「アカウント整理」でした。これは、企業からの一方的な情報発信がユーザーに嫌厭されるリスクを浮き彫りにしています。
では、どうすればブロックされずに使い続けてもらえるのでしょうか。同調査で「ブロックせず使い続けたい条件」を尋ねたところ、以下の3つのポイントが浮かび上がりました。
- 定期的・継続的なクーポン配布:お得感という直接的なメリット。
- 情報配信の適切さ:自分に関心のある有益な情報が、適切な頻度(週1回、月2〜3回程度)で届くこと。
- 実用性・利便性:再配達依頼や各種手続き、チャットでの問い合わせなど、生活に密着した機能が使えること。
これらの結果から、金融機関のLINE活用における成功の鍵は、「一方的な宣伝」から脱却し、顧客一人ひとりのニーズに寄り添った「価値提供」と「利便性向上」を実現することにあると言えるでしょう。
【銀行業界】LINE活用事例:業務効率化から海外展開まで
銀行業界では、LINEの活用が顧客コミュニケーションの変革と業務効率化を両輪で進める原動力となっています。その活用法は、単純な情報配信に留まらず、より高度で戦略的な領域へと拡大しています。
顧客接点のデジタル化と業務効率化
多くの銀行が、従来の電話やメール中心のコミュニケーションからの脱却を目指しています。その代表的なツールが、ビジネス向けチャットツール「LINE WORKS」です。
例えば、山梨中央銀行は2025年12月1日から全営業支店でLINE WORKSを導入しました。これにより、顧客個人のLINEアカウントと営業担当者が直接つながることが可能になり、迅速かつ円滑なコミュニケーションを実現しています。金融機関に適した高度なセキュリティが担保されている点も導入の決め手となりました。
同様に、肥後銀行もLINE WORKSを活用し、顧客との距離を縮めることで成果を上げています。特に住宅ローン審査において、ハウスメーカーの担当者とのやり取りをLINEに切り替えたことで、審査完了までの時間が大幅に短縮。これが信頼感の向上につながり、優先的に顧客を紹介されるケースも増えたといいます。
さらに、LINEのAPIを活用して業務プロセス自体を自動化する動きも活発です。あかぎ信用組合では、経営者コミュニティ「健山会」の運営にLINEマーケティングツール「Lステップ」を導入。これまで渉外担当者が個別に行っていたセミナーの案内や出欠確認をLINEの回答フォームで自動化した結果、関連業務の工数を最大30%削減することに成功しました。また、会員同士のビジネスマッチング要望を受け付ける「スケダチBOX」をリッチメニューに設置し、コミュニティの活性化にも貢献しています。
マーケティングとブランディングの新潮流
顧客とのエンゲージメントを高めるため、各行はLINE上でユニークなコンテンツ配信を展開しています。
一つの潮流は、「地域密着型コンテンツ」です。例えば、友だち増加率で高い成果を上げた長野銀行は、地元の飲食店情報を配信。また、京葉銀行は千葉県内の魅力的なスポットを紹介する「日本百選ofちば」というコンテンツを定期的に配信しています。これらは、銀行という信頼性の高い主体が発信する地域情報としてユーザーに受け入れられ、単なる金融商品の案内とは一線を画した価値を提供しています。
「キャラクター活用」も有効な戦略です。みずほ銀行の「あおまる」や三井住友銀行の「ミドすけ」、岩手銀行の「いわぷぅ」など、オリジナルキャラクターを前面に出すことで、金融機関特有の堅いイメージを払拭し、親しみやすさを演出しています。岩手銀行では、LINE上でキャラクター総選挙を実施し、選ばれたキャラクターがメッセージを発信するなど、ユーザー参加型の企画でファンを育成しています。
さらに一歩進んだ活用法が、「ID連携によるパーソナライズ」です。三井住友カードは、LINE上で利用明細やポイント残高を確認できる「LINEミニアプリ」を導入。利用にはVpass IDとの連携が必須ですが、これにより顧客ごとのカード利用状況に基づいた最適なメッセージ配信が可能になりました。その結果、メッセージ開封率70%、クリック率13%という驚異的な数値を達成することもあります。ID連携数はLINEミニアプリのリリース後、従前の約5倍のペースで推移しており、パーソナライズ施策の基盤を着実に固めています。
海外の先進事例:タイ「LINE BK」が示す未来
LINEの金融活用を語る上で、タイの「LINE BK」は欠かせない存在です。これは、LINE Financialとタイの大手銀行カシコン銀行が共同で設立した、LINEアプリ内で完結する「バーチャルバンク」です。
「LINEの延長線上で銀行が使える」という新しい金融体験を、タイの人々に届けたい。
LINE BKの最大の特徴は、LINEの非金融データ(行動データ)と従来の金融データを組み合わせた独自の信用評価モデルにあります。これにより、フリーランスや小規模事業者など、これまで安定した収入証明が難しく、銀行ローンを利用しにくかった人々にも融資の道を開きました。現在、85.5万人以上がローンサービスを利用しており、その多くが25〜34歳の若年層です。
申請から審査、融資、返済まで、すべてのプロセスがLINEアプリ内で完結するシームレスなUX(顧客体験)は、タイで熱狂的に受け入れられ、口座数は800万を突破。AIを活用し、ユーザーの行動履歴から最適なタイミングでリマインダーやキャンペーン情報を配信するなど、高度なパーソナライズも実現しています。
LINE BKは、単なる銀行サービスのデジタル化に留まらず、LINEというプラットフォームの力を最大限に活用し、金融サービスから取り残されがちな人々(アンダーバンク層)を包摂する「金融包摂」を実現した点で、日本の金融機関にとっても大きな示唆を与える事例と言えるでしょう。
【証券業界】LINE活用事例:若年層獲得と投資体験の革新
証券業界では、長年の課題であった「若年層の取り込み」と「投資の裾野拡大」に向けた切り札として、LINE活用が進められています。特に、スマートフォンでの情報収集や取引に慣れ親しんだ世代へのアプローチに大きな成果を上げています。
若年層・投資初心者への戦略的アプローチ
その先駆けとなったのが、2019年に野村ホールディングスとLINEが共同で設立したLINE証券です。「1株から取引可能」といった手軽さを武器に、口座数は150万を突破するなど、特に若年層の顧客獲得に成功しました。その後、事業再編により株式取引サービスからは撤退しましたが、LINEプラットフォームが持つ投資初心者への訴求力の高さを証明した形です。
この流れを汲み、成功を収めているのがSBI証券です。同社はLINE公式アカウント上で、キーワードや銘柄コードを送ると株価情報を返信するサービスを提供。さらに、LINEアカウントと証券口座を連携(コネクト)することで、リアルタイム株価の照会や、LINEのトーク画面から株式発注(新規買い・成行注文のみ)までを可能にしました。
この取り組みの結果、LINE経由での口座開設者のうち、20代が約2割を占めるという成果が出ています。これは、SBI証券全体の口座保有者層における20代の比率(1割未満)を大きく上回るものであり、LINEが若年層獲得の有効なチャネルであることを明確に示しています。「どん兵衛」と入力すると日清食品の株価が表示されるなど、初心者でも直感的に使える工夫が、投資への心理的ハードルを下げています。
情報提供とエンゲージメントの進化
各社は、単なる取引ツールとしてだけでなく、顧客との関係性を深めるためのエンゲージメント施策にもLINEを活用しています。
三菱UFJ信託銀行は、相続・不動産・資産運用に関するお悩み解決コンテンツや、人気キャラクター「ピーターラビット」のオリジナル壁紙などを配信。お友だち登録時のアンケートに基づき、顧客の興味関心に合わせた情報を配信するパーソナライズも計画しています。将来的にはLINE上でチャット形式の相談機能も拡充する予定で、顧客との継続的な接点を構築しようとしています。
また、AI技術との連携も進んでいます。楽天証券は、24時間いつでも投資に関する相談ができる生成AI搭載のチャットサービス「投資AIアシスタント」を提供しています。このようなAIチャットをLINE公式アカウントに組み込むことで、投資初心者が時間や場所を問わずに気軽に質問できる環境を整え、顧客満足度の向上とサポート業務の効率化を両立させることが期待されます。
成功への羅針盤:金融機関が設定すべきKPIと戦略
LINE公式アカウントの運用を成功させるためには、やみくもに施策を打つのではなく、明確な目的意識と、その達成度を測るための適切なKPI(重要業績評価指標)設定が不可欠です。
目的別KPI設計:何を指標に成果を測るか
LINE活用の目的は、金融機関の戦略によって様々です。目的に応じて、重視すべきKPIも異なります。
例えば、「新規顧客獲得」が目的ならば、友だち追加数だけでなく、そこから口座開設や資料請求に至ったコンバージョン数(CV数)や、友だち追加広告の費用対効果を測るCPA(顧客獲得単価)が重要になります。「既存顧客のエンゲージメント向上」を目指すなら、メッセージ開封率やクリック率、リッチメニューの利用率、さらには顧客情報とLINEアカウントを紐づけるID連携数を追跡すべきです。ID連携が進めば、前述の三井住友カードのように、より高度なパーソナライズ施策が可能となり、顧客生涯価値(LTV)の向上にも繋がります。
LINE活用を成功に導く3つの鍵
KPIを達成し、LINE活用を成功させるためには、以下の3つの戦略的視点が重要です。
- 双方向コミュニケーションの徹底
消費者がLINEに求めるのは、一方的な広告ではなく、対話です。アフラック生命保険がチャットボットを導入し、見積もりから手続きまでを自動化したように、チャット機能を活用して顧客の疑問や手続きに24時間対応できる体制を築くことが、顧客満足度と信頼感を高めます。 - シームレスなUX(顧客体験)の設計
三井住友カードのLINEミニアプリやタイのLINE BKの事例が示すように、ユーザーがLINEアプリから離脱することなく、サービスを完結できる体験は非常に強力です。ID連携を前提とし、残高照会、各種手続き、問い合わせなどをLINE内でシームレスに行えるように設計することが、顧客の離脱を防ぎ、利用を促進します。 - セキュリティと信頼性の担保
金融情報を扱う上で、セキュリティは最も重要な要素です。三菱UFJ信託銀行は、アンケートや個人情報を入力する画面は自社管理下のサイトへ遷移させることで、LINE社に情報提供しない方針を明記しています。こうした取り組みをユーザーに明確に伝えることが、安心してサービスを利用してもらうための信頼の基盤となります。
まとめ:専門的知見が導く次世代の金融コミュニケーション
本記事で見てきたように、銀行・証券業界におけるLINE活用は、単なる情報発信チャネルから、顧客獲得、エンゲージメント向上、業務効率化、そして新たな金融体験の創出までを実現する戦略的中核へと進化しています。
銀行業界では、LINE WORKSによる顧客対応の迅速化や、地域情報・キャラクター活用による親近感の醸成、さらにはLINE BKのようなプラットフォーム化が潮流となっています。一方、証券業界では、若年層・投資初心者へのアプローチとして、LINE上での手軽な取引体験の提供や、AIを活用した投資相談などが鍵を握っています。
これらの高度な活用を実現し、競争優位性を確立するためには、消費者インサイトの深い理解、目的に応じたKPI設計、そして金融業界特有のセキュリティ要件を踏まえたシステム構築が不可欠です。しかし、これらをすべて自社で賄うのは容易ではありません。
このような課題に対し、合同会社KUREBA(kureba.co.jp)のような専門的な知見を持つパートナーの存在が重要になります。同社は、金融業界におけるLINE公式アカウント活用の豊富な実績を持ち、戦略立案からKPI設計、コンテンツ制作、さらにはID連携や外部システムとのAPI連携といった高度な開発まで、一貫した運用支援を提供しています。専門家のサポートを得ることで、金融機関はより効果的かつ安全にLINE活用のポテンシャルを最大限に引き出し、次世代の顧客コミュニケーションを築くことができるでしょう。