官公庁・公社・団体におけるLINE公式アカウント活用術:住民サービス向上と業務効率化の最前線
官公庁・公社・団体におけるLINE公式アカウント活用術:住民サービス向上と業務効率化の最前線
KUREBA
行政サービスのデジタル化が国全体の重要課題となる中、多くの官公庁や地方自治体が住民との新たなコミュニケーションハブとしてLINE公式アカウントの活用を急速に進めています。2025年2月時点で、全国1,788自治体のうち1,500以上が導入済みであり、その用途は広報や防災情報の発信から、各種申請手続きのオンライン化まで多岐にわたります。
「持ち運べる役所」の実現。これは、LINEヤフーが掲げるコンセプトであり、住民がいつでもどこでもスマートフォン一つで行政サービスにアクセスできる世界の到来を象徴しています。LINEヤフーは、自治体のDX推進を支援する『LINEスマートシティ推進パートナープログラム』を創設し、2024年1月時点で500以上の自治体が参加する一大コミュニティを形成しています。
本記事では、官公庁・公社・団体がLINE公式アカウントをどのように活用し、住民サービスの向上と業務効率化を実現しているのか、具体的な事例と成功のポイントを深く掘り下げて解説します。
なぜ今、官公庁でLINE公式アカウント活用が加速するのか?
自治体がこぞってLINE公式アカウントを導入する背景には、他のメディアにはないLINEならではの強力なメリットが存在します。住民との距離を縮め、行政サービスをより身近なものに変える可能性を秘めているのです。
住民とのダイレクトな接点:プッシュ型情報発信の威力
自治体が発信する情報は、防災・災害といった緊急性の高いものから、イベント告知、子育て支援まで多岐にわたります。従来の広報誌やホームページでは、住民が自ら情報を取りに行く「プル型」が中心でしたが、LINEは情報を直接個人のスマートフォンに届ける「プッシュ型」のコミュニケーションを可能にします。
ある調査では、LINEのメッセージを「すぐに見た」人が2割、「その日のうちに見た」人は8割にものぼるとされています。この即時性と高い開封率は、特に地震や台風などの緊急時に避難情報を迅速に伝達する上で絶大な効果を発揮します。住民の安全確保に直結するツールとして、その価値は計り知れません。
「持ち運べる役所」の実現:24時間対応と窓口業務のDX
「ごみの分別方法が知りたい」「子育て支援の手続きは?」といった住民からの問い合わせは、従来、電話や窓口で対応するのが一般的でした。しかし、これには開庁時間という制約があり、職員の大きな負担にもなっていました。
LINE公式アカウントにAIチャットボットを組み合わせることで、これらの「よくある質問」に24時間365日自動で応答することが可能になります。宇都宮市や尼崎市など多くの自治体では、子育てやごみの分別といった暮らしに関する問い合わせにAIが自動応答し、住民の利便性向上と職員の負担軽減を両立させています。これにより、職員はより専門的な相談対応や本来の行政サービスに集中できるようになります。
ペーパーレス化とコスト削減への貢献
多くの自治体で発行されている紙の広報誌は、重要な情報伝達手段である一方、印刷や配布にかかるコスト、そして環境負荷が課題でした。LINE公式アカウントで市政情報やイベント情報を配信することで、紙媒体の使用を減らし、ペーパーレス化を推進できます。これは、単なるコスト削減に留まらず、SDGsの観点からも自治体が取り組むべき重要な施策と言えるでしょう。
【機能別】LINE公式アカウント活用最前線:具体的な導入事例
LINE公式アカウントの活用方法は、単なる情報発信に留まりません。セグメント配信、AIチャットボット、そしてマイナンバーカードとの連携など、先進的な機能を駆使することで、行政サービスは新たなステージへと進化しています。
情報発信:セグメント配信で「必要な情報」を「必要な人」へ
「不要な情報が多い」「配信頻度が高い」ことは、アカウントがブロックされる主な原因です。これを避けるために不可欠なのが、住民が自ら受信したい情報を選択できる仕組みと、自治体側が対象を絞って配信する「セグメント配信」です。
例えば、福岡市では、友だち登録後に「子育て」「防災」「ごみの日」など関心のある分野を登録してもらうことで、パーソナライズされた情報を提供しています。また、熊本県氷川町では、セグメント配信の導入により、以前の課題であったブロック率の高さが改善され、本当に情報を必要とする住民に届けられるようになったと報告されています。
問い合わせ対応:AIチャットボットで24時間365日稼働する窓口
AIチャットボットの活用は、住民サービスの質を飛躍的に向上させます。特に新型コロナウイルス感染症が拡大した際には、厚生労働省のLINE公式アカウントがその威力を発揮しました。発生状況、予防法、相談窓口などの膨大な情報に関する問い合わせに対し、AIチャットボットが24時間体制で対応。刻々と変わる状況に合わせてFAQ(よくある質問とその回答)を迅速に更新し、国民の不安解消に大きく貢献しました。
また、福岡市では粗大ごみの申し込みにチャットボットを導入。電話やウェブサイトでの予約よりも短時間で手続きが完了し、住民の利便性を大幅に向上させました。その結果、驚くべき変化が数字に表れています。
2018年8月には電話が74.2%を占めていた申し込み方法が、導入後には49.5%まで減少し、代わりにLINEからの申し込みが32.1%を占めるに至りました。さらに、LINEでオンライン決済を利用したユーザーの約98%が「便利だった」と回答しており、住民満足度の向上に直結していることがわかります。
行政手続きのDX:マイナンバーカード連携で実現するオンライン申請
LINE活用の最先端と言えるのが、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)と連携したオンライン行政手続きです。これにより、従来は窓口への来庁や書類の郵送が必須だった各種申請が、LINE上で完結できるようになりました。
LINE上でマイナンバーカードをスマートフォンで読み取るだけで厳格な本人確認が完了するため、なりすまし等の不正を防ぎ、安全かつ効率的な手続きを実現します。
この仕組みは、すでに多くの自治体で目覚ましい成果を上げています。
- 東京都渋谷区:「ハッピーマザー出産助成金」の申請にLINEを活用。申請者の約8割がLINEを利用し、利用者アンケートでは98%が好意的な評価をしました。「子供が生まれたばかりで区役所に行く手間が省けて助かった」といった声が寄せられています。
- 富山県魚津市:住民票の写しや税証明書の申請、転出届などをLINEで受け付け。満足度は98%に達し、全国初の取り組みとして注目されました。
- 秋田県湯沢市:学生向けの帰省支援事業でLINE申請を導入。手続きの簡単さに関する満足度は88%に達し、事務作業を約7割削減する効果も実証されました。
- 岩手県:災害時の避難所受付にLINEとJPKIを活用。紙の受付簿では3分以上かかっていた作業が、LINEによるチェックインではわずか13秒に短縮され、職員の負担を93%削減しました。
これらの事例は、LINEとマイナンバーカードの連携が、住民の利便性向上と行政の劇的な業務効率化を同時に実現する強力なソリューションであることを示しています。
成功への道筋:LINE公式アカウント運用のKPI設計と効果測定
LINE公式アカウントの導入はゴールではありません。その効果を最大化するためには、明確な目標設定(KPI設計)と、データに基づいた継続的な改善(PDCAサイクル)が不可欠です。専門家の支援を受けながら、戦略的に運用を進めることが成功の鍵となります。
運用のフェーズで変化する重要KPI
LINE公式アカウントの運用におけるKPIは、アカウントの成長フェーズによって重点を置くべき指標が異なります。
- 立ち上げ期:まずは住民との接点を持つことが最優先です。この段階での最重要KPIは「友だち追加数」と、実際にメッセージを届けられる「ターゲットリーチ数」になります。
- 活用・成長期:友だち数が一定数に達したら、次はエンゲージメントの向上が目標です。「メッセージ開封率」「クリック率」「サイト訪問数」などをKPIとし、住民が情報にどれだけ関心を持っているかを測定します。
- 成熟・最適化期:最終的には、行政サービスへの貢献度を可視化します。オンライン申請の「コンバージョン(CV)数」や、窓口業務・電話対応の「削減時間・コスト」などをKPIに設定し、費用対効果を評価します。
特に、住民一人ひとりに合わせた情報提供の基盤となる「ID連携数」は、立ち上げ初期から継続して追いかけるべき重要な指標です。ID連携により、住民の属性や過去のサービス利用履歴に基づいた、より高度なセグメント配信が可能になります。
ブロック率との向き合い方:住民エンゲージメントの指標
「ブロック率」は、多くの運用担当者が気にする指標です。高いブロック率は、配信内容や頻度が住民のニーズと合っていない可能性を示唆します。しかし、闇雲にブロックを恐れる必要はありません。
熊本県氷川町の事例のように、受信設定機能やセグメント配信を導入し、住民が情報の取捨選択をできるようにすることで、ブロック率は改善できます。ブロック率は「量より質」への転換を促すシグナルと捉え、住民にとって価値のある情報とは何かを常に問い続けることが重要です。
例えば、ある自治体のイベントでは、1年目に友だち追加キャンペーンを行ったものの、インセンティブ目的の登録が多く、すぐにブロックされてしまいました。しかし2年目には、友だちであり続けるメリット(抽選への参加など)を明確に伝えることで、友だち追加数を目標の1,400人から2,428人へと大幅に伸ばしつつ、ブロック率を改善することに成功しました。
分析ツールを活用したPDCAサイクルの確立
効果的な運用には、データ分析が欠かせません。LINE公式アカウントには標準で「LINE Official Account Manager(LOAM)」という分析機能が備わっています。
このツールを使えば、「友だち追加経路」「メッセージごとの開封・クリック率」「属性データ(年代・性別・地域)」などを確認できます。どの経路からの友だち登録が多いのか、どんなメッセージが住民の関心を引くのかを分析し、次の施策に活かすことで、PDCAサイクルを回していくことができます。さらに詳細な分析には、Google AnalyticsやLステップのような外部ツールとの連携も有効です。
成功を支援するパートナーの存在
LINE公式アカウントの多岐にわたる機能を最大限に活用し、戦略的な運用を行うには、専門的な知見やノウハウが求められます。特に、KPI設計、コンテンツ企画、データ分析、そしてシステム連携といった領域では、専門企業のサポートが成功の確度を大きく高めます。
例えば、合同会社KUREBAのようなLINE公式アカウント運用支援を専門とする企業は、自治体の目的や課題に合わせた最適な運用プランを提案します。彼らは、友だち集めからエンゲージメント向上、さらには業務効率化に至るまで、豊富な実績とノウハウに基づいたコンサルティングを提供し、自治体のDX推進を強力にバックアップします。
また、LINEヤフー自身も「Govtech Partner制度」を設け、技術力やサポート体制が優れた企業を認定しています。こうした認定パートナーは、セキュリティ基準(ISO27001など)を満たしている場合も多く、安心して運用を任せることができます。
LINE公式アカウントは、もはや単なる情報発信ツールではありません。住民一人ひとりに寄り添い、行政サービスをより身近で便利なものへと変革する「デジタル社会基盤」です。そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、明確な戦略と、それを支える信頼できるパートナーとの連携が不可欠と言えるでしょう。