静岡市歴史博物館のすべて:家康と駿府の歴史を未来へつなぐ拠点

2023年1月、徳川家康が愛した地・駿府(現在の静岡市)に、待望の歴史文化施設「静岡市歴史博物館」がグランドオープンしました。駿府城公園に隣接するこの新しい博物館は、単に古いものを展示する場所ではありません。静岡の豊かな歴史を探求し、学び、そして未来へとつなぐための拠点として、大きな期待が寄せられています。本記事では、静岡市歴史博物館の魅力から設立の背景、展示内容、そして未来への展望まで、そのすべてを詳しく解説します。

静岡市歴史博物館とは?設立の背景と役割

静岡市歴史博物館の誕生は、長年にわたる市民の願いと、郷土の歴史を見つめ直そうという機運の高まりの結晶です。その設立背景と、博物館が目指す役割について掘り下げてみましょう。

なぜ歴史博物館が必要だったのか

静岡市には、登呂遺跡や久能山東照宮など、個別の歴史を伝える施設は存在していましたが、市全体の通史を体系的に学び、発信する総合的な歴史博物館がありませんでした。1990年代から市民や学会から建設を望む声が高まり、特に1998年のNHK大河ドラマ『徳川慶喜』をきっかけに、郷土の歴史への関心が一気に高まったことが、構想を具体化させる大きな力となりました。静岡市文化財協会などが早期建設を要望し、歴史ブームを文化振興へとつなげようとする動きが活発化したのです。

博物館が担う3つの役割

静岡市歴史博物館は、その設立にあたり3つの大きな役割を掲げています。静岡近代史研究会による見学会報告でも言及されているように、これらの機能が博物館の活動の核となっています。

    • 歴史探求:徳川家康や今川氏をはじめとする静岡の歴史を、多角的かつ深く調査・研究し、その成果を発信する学術的拠点としての役割。
    • 地域学習:市民や教育機関と連携し、子どもから大人までが歴史を学び、郷土への愛着を育む「学びの場」を提供する役割。

観光交流:

    駿府城公園エリアの歴史観光の拠点として、静岡の歴史的魅力を国内外に発信し、人々が集い交流するハブとしての役割。

建築とコンセプト

アルミエキスパンドメタルの現代的な外観が印象的な博物館の建物は、過去と現在、そして未来をつなぐというコンセプトを体現しています。設計段階では、歴史を美化したり過大評価したりすることなく、客観的な歴史的事実に基づいて展示を構成することが最も重視されました。乃村工藝社のインタビュー記事「『静岡市歴史博物館』誕生の軌跡」では、プロジェクト関係者が「歴史的事実を逸脱しない冷静な視点」の重要性を語っており、学術的な信頼性を確保しつつ、来館者が楽しめる展示を目指すという、難しいバランスへの挑戦がうかがえます。

フロア別に見る展示の魅力

館内は3つのフロアで構成され、それぞれ異なるテーマで静岡の歴史を深く掘り下げています。時空を超えた歴史の旅へご案内します。

1階(無料エリア):発掘された歴史の断片に触れる

博物館の最大の見どころの一つが、1階の無料エリアにあります。ここは、博物館建設前の発掘調査で発見された「戦国時代末期の道と石垣の遺構」が、発掘された状態のまま保存・公開されている圧巻の空間です。静岡市歴史博物館の資料情報によれば、この遺構は家康が駿府城を築き、城下町を整備した1580年代のものと考えられています。目の前に広がる本物の歴史の痕跡は、静岡の街が幾重にも歴史を積み重ねてきたことを実感させてくれます。

1階で公開されている、発掘されたままの「戦国時代末期の道と石垣の遺構」

また、同フロアの「歴史体感展示」では、静岡市各地の史跡が資料と結びつけて紹介されており、これから市内の歴史スポットを巡る際の出発点としても最適です。

2階:徳川家康と今川氏の時代へ

2階の有料展示室は、静岡の歴史の主役である徳川家康と、彼を育んだ今川氏の時代に焦点を当てています。公式サイトの基本展示案内によると、展示は3つのテーマで構成されています。

  • 家康の一生:75年の生涯のうち、幼少期と大御所時代を合わせて約25年を駿府で過ごした家康。その人生と人となりを、花押(サイン)の変遷や肖像画などの資料からたどります。
  • 家康を育んだ地 駿府:「桶狭間の戦い」の敗将というイメージが強い今川義元ですが、実際には駿府に高度な文化を築いた優れた領主でした。家康の人格形成に大きな影響を与えた今川氏の文化と実力に迫ります。
  • 「首都」駿府と世界:大御所として駿府に戻った家康は、ここを拠点にスペインやオランダなど海外との交流を積極的に行いました。当時の駿府が、事実上の「首都」として国際的な役割を担っていた様子を紹介します。

3階:江戸時代から近代静岡への変遷

3階では、家康が礎を築いた駿府が、江戸時代を経て近代都市・静岡へと発展していくダイナミックな歴史をたどります。

  • 東海道と駿府の賑わい:家康が整備した東海道により、駿府の城下町は多くの人や物が行き交う活気あふれる街へと発展しました。「駿府城下町絵図」などから、現在の静岡市中心市街地の原型となった町の姿や、人々の暮らしぶりを知ることができます。
  • 静岡藩と新生静岡:明治維新後、徳川宗家が移住してきたことで「静岡藩」が誕生。勝海舟や前島密といった旧幕府の優秀な人材が集い、教育や産業の面で先進的な取り組みが行われました。日本の近代化を支えた静岡の役割を浮き彫りにします。
  • 昭和30年代の静岡市街地模型:市民から提供された1,000点以上の写真を基に精巧に再現された昭和30年代の街並み模型は、多くの来館者の郷愁を誘います。当時の活気ある街の様子を立体的に体感できる人気の展示です。

注目の収蔵品と企画展

常設展示だけでなく、博物館が誇る貴重な収蔵品や、時期ごとに開催される企画展も見逃せません。

常設展示の目玉

数ある展示品の中でも、特に注目すべきものをいくつかご紹介します。

  • 東海道図屏風(静岡県指定有形文化財):江戸時代前期に描かれたとされ、江戸から京都までの宿場や名所、大名行列や朝鮮通信使の様子が生き生きと描かれています。当時の街道の賑わいを伝える一級の歴史資料です。
  • 家康所用甲冑(復元模造品):今川義元から贈られたと伝わる初陣の鎧「紅糸威腹巻」と、天下人となった家康を象徴する「伊予札黒糸威胴丸具足(歯朶具足)」。2つの甲冑(いずれも復元模造品)は、家康の生涯の始まりと終わりを象徴する展示として人気を集めています。

話題を呼ぶ企画展

静岡市歴史博物館では、常設展に関連するテーマや、新たな切り口で静岡の歴史文化に光を当てる企画展が定期的に開催されます。例えば、江戸の出版文化をテーマにした「十返舎一九と蔦屋重三郎」展や、市内に伝わる仏像を集めた「しずおかの古仏たち」展(2025年10月25日~)など、多彩な企画が来館者を楽しませています。博物館の公式Instagramなどで最新情報をチェックして訪れるのがおすすめです。企画展の観覧料は、その都度設定されます。

課題と展望:未来へ歴史をつなぐために

開館から2年余り、多くの市民に親しまれる一方で、博物館はいくつかの課題にも直面しています。その現状と未来への展望を見ていきましょう。

入館者数の課題

総事業費約62億円を投じて建設され、当初は年間50万人の来館者数を見込んでいましたが、現代ビジネスの報道によると、2023年度の有料入館者数は約8万人と、目標を大きく下回る結果となりました。この背景には、「展示品にレプリカが多い」といった批判や、大河ドラマ『どうする家康』のブームを十分に取り込めなかったことなどが指摘されています。

未来への展望

こうした課題に対し、博物館側も様々な対策を講じています。2025年には、徳川家康ゆかりの刀剣を約1,800万円で購入するなど、本物の資料収集に力を入れ、展示の魅力を高める努力を続けています。SBS NEWSの報道では、こうした目玉企画によって新たな来館者を呼び込もうとする意図が伝えられています。また、市民参加型のイベントや、学校との連携プログラムを充実させることで、地域に根ざした博物館としての役割を強化していくことが期待されます。歴史研究の拠点として、そして市民の誇りを育む場として、静岡市歴史博物館が真価を発揮するのはこれからです。

利用案内:博物館を訪れる前に

静岡市歴史博物館を訪れる際に必要な基本情報をまとめました。お出かけの前にご確認ください。

開館時間・休館日・観覧料

公式サイトの利用案内に基づき、主要な情報を以下に示します。

開館時間 9:00~18:00(展示室への入場は17:30まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始(12月29日~1月3日)
※展示替えによる臨時休館あり
基本展示観覧料
  • 一般:600円
  • 高校生・大学生:420円
  • 小・中学生:150円
  • ※静岡市内在住の70歳以上の方、静岡市内在住・通学の小中学生、未就学児は無料。
  • ※1階のみの利用は無料です。
  • ※企画展の料金は別途設定されます。
その他 身体障害者手帳などをお持ちの方とその介助者1名は無料など、各種減免制度があります。詳細は公式サイトをご確認ください。

アクセスと駐車場

博物館は静岡市の中心部に位置し、公共交通機関でのアクセスが便利です。

所在地 〒420-0853 静岡県静岡市葵区追手町4-16
公共交通機関
  • JR静岡駅北口から:徒歩約15分
  • 静岡鉄道 新静岡駅から:徒歩約8分
  • バス利用:しずてつジャストラインバス「県庁・静岡市役所葵区役所前」下車、徒歩約6分
駐車場 専用駐車場はありません。近隣の有料駐車場をご利用ください。
※歩行が困難な方向けの「ゆずりあい駐車場」(2台・要事前予約)はあります。

静岡の過去を学び、今を知る。そして、未来を考える。静岡市歴史博物館は、私たちの先人が築いた歴史の積み重ねにより、現在のまちの姿があることを踏まえ、静岡市ならではの大切な歴史的・文化的資源の価値と魅力を発信する場所です。

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