【2025年最新版】退職代行と上場企業:労働者と企業、双方の視点で徹底解剖

退職代行ヤメドキ

  1. 【総論】退職代行は上場企業も無縁ではない新常識 – 労働者と企業、双方の視点で徹底解剖
    1. 問題提起と現状分析
    2. 本記事の対象読者と目的
    3. 記事構成の紹介
  2. 【第1部】退職代行サービスの基本と法的リスク – なぜ「業者選び」が最重要なのか?
    1. 退職代行とは?3つの運営主体とサービス内容の違い
    2. 最大の法的論点「非弁行為」とは?
    3. 業界を揺るがす最新動向:「労働組合提携」の罠と摘発事例
  3. 【第2部】データで見る「上場企業と退職代行」のリアル – なぜ従業員は直接言わずに代行を選ぶのか?
    1. 上場企業における退職代行の利用実態
    2. 利用者が口にする「建前」の退職理由
    3. 隠された「本音」の退職理由:リアルな声から見える組織の問題点
    4. 小括:退職代行は「組織のSOS」
  4. 【第3部】労働者向け完全ガイド:上場企業で退職代行を賢く使うための実践マニュアル
    1. 上場企業でも退職代行は問題なく使える?
    2. 【最重要】後悔しないための業者選び:あなたの状況に最適な選択肢は?
      1. 状況別・最適な退職代行サービス選択フロー
    3. 上場企業で退職代行を利用する際の特有の注意点とチェックリスト
    4. 退職完了までの具体的なステップとQ&A
      1. よくある質問(FAQ)
  5. 【第4部】企業向け実践ガイド:従業員に退職代行を使われた際の法的対応と実務マニュアル
    1. 大原則:退職代行は拒否できない
    2. 【初動対応マニュアル】連絡を受けたら、まず何をすべきか?
    3. 【事務手続きマニュアル】淡々と、しかし確実に行うべきこと
    4. 絶対にやってはいけない「5つの禁じ手」
  6. 【第5部】「退職代行ゼロ」の組織へ – 根本原因を断ち、従業員が定着する会社になるために
    1. 退職代行は「組織の健康診断結果」である
    2. なぜ従業員はSOSを出せなかったのか?原因分析の視点
    3. 明日からできる、退職代行を防ぐための具体的な打ち手
      1. ① 採用・オンボーディングの改善
      2. ② コミュニケーションの活性化と心理的安全性の醸成
      3. ③ 公正な評価とキャリア支援
      4. ④ 労働環境の整備と「辞めやすさ」の制度化
    4. 結論:未来への投資としての組織改革

【総論】退職代行は上場企業も無縁ではない新常識 – 労働者と企業、双方の視点で徹底解剖

「退職代行サービス」という言葉が、もはや一部の特殊な労働者のためのものではなく、日本の労働市場における一つの選択肢として定着しつつあります。かつては「ありえない」とされたこのサービスが、今や上場企業に勤務する従業員にも広く利用され、企業の人事・経営層にとって無視できない経営課題となっています。本稿では、この「退職代行」という現象を、労働者と企業の双方の視点から深く掘り下げ、その実態、法的背景、そして未来に向けた対策までを網羅的に解剖します。

問題提起と現状分析

近年、退職代行サービスの市場は急速に拡大しています。ある調査では、2025年にはその市場規模が60億円に達すると予測されており、ビジネスとしての成長性も注目されています。この背景には、単に「退職を言い出しにくい」という個人の心理的な問題だけでなく、労働環境やコミュニケーションのあり方といった、より構造的な問題が存在します。

その広がりは、もはや中小企業に留まりません。帝国データバンクの2025年の調査によれば、大企業の15.7%が退職代行サービスの利用を経験しており、マイナビの調査では企業全体の約4社に1社(23.2%)が2024年上半期に利用経験があると回答しています。これは、退職代行が一部の特殊なケースではなく、あらゆる組織で起こりうる「職場の新常識」となったことを明確に示しています。

特に深刻なのは、若手社員、とりわけ新卒社員における利用の急増です。ある退職代行サービスの調査では、2025年度の新卒社員の利用者数が前年比で大幅に増加し、退職を決意するタイミングもゴールデンウィーク明けの5月から、入社直後の4月へと前倒しになる傾向が見られます。入社後わずか数日、場合によっては研修期間中に退職代行を利用するケースも報告されており、これは単なるミスマッチでは片付けられない、採用活動や組織文化の根深い問題を浮き彫りにしています。

本記事の対象読者と目的

この記事は、異なる立場から退職代行という現象に向き合う、二つの読者層を想定しています。

【労働者の方へ】
上場企業という安定した、あるいはコンプライアンス意識が高いとされる環境で働きながらも、退職を考え、代行サービスの利用を検討している方々。本記事は、そうした方々が抱える「本当に辞められるのだろうか?」「会社から訴えられたりしないか?」「複雑な手続きはどうなるのか?」といった具体的な不安を解消することを目的とします。法的に安全なサービスの選び方から、上場企業特有の注意点、そして退職完了までの一連の流れを具体的かつ実践的に提示し、あなたが安心して次のキャリアへ踏み出すための羅針盤となることを目指します。

【企業の人事・経営層の方へ】
ある日突然、代行業者から従業員の退職通知を受け、戸惑いや憤りを感じている、あるいは、そうした事態を未然に防ぎたいと考えている方々。本記事は、なぜ従業員が直接対話を選ばず、外部のサービスに頼るのか、その背景にある組織課題をデータと事例から解明します。そして、突然の連絡にも慌てず、法的に正しく、かつ実務的にスムーズに対応するためのマニュアルを提供します。さらに、一過性の対応に終わらせず、この事象を組織改善の好機と捉え、従業員が定着し、エンゲージメント高く働ける環境を構築するための予防策を具体的に解説します。

記事構成の紹介

本記事は、以下の5部構成で、退職代行を多角的に掘り下げていきます。

  • 第1部では、退職代行サービスの基本的な仕組みと、その核心にある「非弁行為」という法的リスクを解説します。なぜ業者選びが最も重要なのか、その理由を明らかにします。
  • 第2部では、最新の調査データを基に、特に上場企業における退職代行の利用実態を可視化します。従業員が代行サービスを選ぶ「建前」と、その裏に隠された「本音」の理由に迫ります。
  • 第3部は、労働者向けの完全ガイドです。上場企業で退職代行を賢く、安全に利用するための具体的な手順と注意点を、チェックリストやQ&Aを交えて詳しく解説します。
  • 第4部は、企業向けの実践マニュアルです。従業員から退職代行を使われた際の法的な対応と、実務的な手続きの流れをステップ・バイ・ステップで示し、やってはいけないNG対応についても警告します。
  • 第5部では、より根本的な解決策を探ります。退職代行の利用を組織からの「SOS」と捉え、その根本原因を断ち切り、従業員が定着する魅力的な会社になるための組織改革について提言します。

この一枚の文書が、退職という人生の岐路に立つ労働者と、人材という最も重要な経営資源に向き合う企業の双方にとって、有益な知見となることを願っています。

【第1部】退職代行サービスの基本と法的リスク – なぜ「業者選び」が最重要なのか?

退職代行サービスは、一見すると「辞めたいと伝えてくれるだけのシンプルなサービス」に見えるかもしれません。しかし、その運営主体によって提供できるサービスの範囲は法律で厳格に定められており、この違いを理解しないまま利用すると、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。本章では、サービスの基本構造と、その根幹にある法的リスク「非弁行為」について徹底的に解説します。ここを理解することこそ、安全な退職への第一歩です。

退職代行とは?3つの運営主体とサービス内容の違い

退職代行サービスの基本的な機能は、「労働者本人に代わって、勤務先の会社へ退職の意思を伝え、必要な事務連絡を代行すること」です。上司への恐怖、強い引き止め、あるいは精神的な不調により、自ら退職を切り出すことが困難な労働者にとって、会社と直接やり取りするストレスから解放されるという大きなメリットがあります。

しかし、「代行」できる業務の範囲は、サービスの運営主体によって大きく異なります。運営主体は主に「民間企業」「労働組合」「弁護士」の3つに分類され、それぞれに異なる法的根拠と権限を持っています。この違いが、料金やサービスの質、そして何より「安全性」を左右します。

運営主体 対応可能な業務範囲 料金相場(税込) メリット デメリット
① 民間企業 退職意思の「伝達」のみ。事務連絡の取次ぎ。 20,000円前後 ・料金が最も安い
・手続きが手軽(LINE完結など)
「交渉」は一切不可
・有給消化や退職日の調整で会社が拒否した場合、対抗できない
・非弁行為のリスクが最も高い
② 労働組合 退職意思の伝達に加え、労働組合法に基づく「団体交渉」が可能(有給消化、退職日調整など)。 25,000円~35,000円 ・合法的に「交渉」が可能
・弁護士より費用が安い
・会社は正当な理由なく団体交渉を拒否できない
・未払い賃金請求などの金銭請求の交渉は可能だが、訴訟代理は不可
・組合への一時的な加入が必要
③ 弁護士 退職に関する全ての「法律事務」に対応可能。伝達、交渉、未払い賃金・残業代・退職金・慰謝料の請求、損害賠償請求への対応、訴訟代理など。 50,000円~ ・対応範囲が最も広く、法的安心感が最も高い
・あらゆる法的トラブルに対応可能
・非弁行為のリスクがゼロ
・料金が最も高額になる傾向がある

この表からわかるように、単に「辞める」という目的は同じでも、その過程で会社との間に何らかの調整や交渉が必要になる可能性がある場合、民間企業のサービスでは対応しきれないのです。そして、その「交渉」こそが、退職代行における最大の法的論点となります。

最大の法的論点「非弁行為」とは?

退職代行の合法性を語る上で、避けて通れないのが「非弁行為(ひべんこうい)」の問題です。これは、弁護士法第72条によって厳しく規制されています。

弁護士法 第七十二条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

簡単に言えば、「弁護士資格を持たない者が、お金をもらって、法律トラブルに関する交渉や手続きを代行してはいけない」というルールです。これに違反した場合、行為者は「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。

では、退職代行において何が「非弁行為」にあたるのでしょうか。ポイントは「伝達」と「交渉」の境界線です。

  • 伝達(合法): 依頼者の意思をそのまま相手に伝える行為。「使者」としての役割です。
    • 例:「〇〇さんが、来月15日をもって退職したいと申しております」
    • 例:「未消化の有給休暇が10日あるので、全て消化したいとの希望です」
  • 交渉(違法 ※弁護士・労組以外): 相手方と駆け引きを行い、依頼者の利益になるよう合意形成を目指す行為。「代理人」としての役割です。
    • 例:会社が「繁忙期だから来月末まで働け」と拒否したのに対し、「法的には2週間前の通知で十分なはずです。15日での退職を認めてください」と法的主張を交えて反論し、日程を調整する。
    • 例:会社が「未払い残業代はない」と主張するのに対し、「こちらの計算では〇〇円になります。支払いに応じない場合は法的措置も検討します」と金銭の支払いを要求する。

東京弁護士会も、未払い残業代の請求やパワハラに対する慰謝料請求などは明確な「法律的な問題」であり、弁護士資格のない業者がこれらを扱うことは非弁行為にあたる可能性があると繰り返し注意喚起しています。

つまり、料金の安さだけで民間企業の退職代行を選び、会社から有給消化を拒否されたり、退職日を引き延ばされたりした場合、その業者は「交渉」ができないため、結局労働者自身が対応するか、泣き寝入りするしかなくなってしまうのです。これが、「業者選びが最重要」である最大の理由です。

業界を揺るがす最新動向:「労働組合提携」の罠と摘発事例

この「非弁行為」のリスクを回避するため、一部の民間企業は「労働組合との提携」を謳うビジネスモデルを展開してきました。これは、表向きの窓口は民間企業が担い、交渉が必要になった場合のみ提携する労働組合が「団体交渉権」を行使するというものです。しかし、この手法は以前から法的なグレーゾーンとして問題視されていました。

東京弁護士会は、たとえ提携の形であっても、依頼者から報酬を受け取るのが民間業者である以上、その業者が法律事務(交渉)を他者(労働組合)に「斡旋」していると見なされ、弁護士法第72条に違反する可能性があると明確に指摘しています。つまり、交渉の主体が誰であるかだけでなく、契約と報酬の流れ全体が問われるのです。

この問題が社会的に大きくクローズアップされたのが、2025年10月に報じられた大手退職代行サービス「モームリ」運営会社への家宅捜索です。報道によれば、弁護士法違反(非弁提携:無資格で顧客を弁護士に紹介し、報酬を得た疑い)の容疑で警視庁の強制捜査が入り、業界に衝撃が走りました。

この事件は、単なる一つの企業の不祥事にとどまりません。これまで曖昧だった退職代行サービスの「グレーゾーン」に対し、司法・行政が本格的にメスを入れ始めたことを象徴しています。これにより、利用者はこれまで以上に、サービスの運営主体とその法的権限を厳しく見極める必要に迫られています。

結論として、トラブルなく確実に退職を遂げるためには、以下の点を肝に銘じる必要があります。

第1部の要点
  • 退職代行には「民間企業」「労働組合」「弁護士」の3種類があり、法的に「交渉」できるのは労働組合と弁護士のみである。
  • 弁護士資格のない民間企業が「交渉」を行うことは「非弁行為」という犯罪にあたる可能性がある。
  • 「労働組合提携」を謳う民間企業も、契約主体が民間企業である場合は非弁行為のリスクを払拭できず、実際に摘発事例も発生している
  • 安全な退職のためには、有給消化や退職日調整などの「交渉」が少しでも発生する可能性を考慮し、最初から法的権限を持つ「労働組合」または「弁護士」が運営するサービスを選ぶことが絶対条件である。

【第2部】データで見る「上場企業と退職代行」のリアル – なぜ従業員は直接言わずに代行を選ぶのか?

退職代行の利用は、もはや一部のブラック企業だけの問題ではありません。コンプライアンス体制が整っているはずの上場企業においても、このサービスは静かに、しかし確実に浸透しています。本章では、各種調査データを基に、上場企業における退職代行の利用実態を解き明かし、従業員が「直接言わずに代行を選ぶ」深層心理と、その背景にある組織の構造的問題に迫ります。

上場企業における退職代行の利用実態

「うちのような上場企業に限って、退職代行など使われないだろう」という考えは、もはや過去の幻想です。データは、その厳しい現実を突きつけています。

東京商工リサーチの2025年の調査では、大企業の15.7%が退職代行を利用した従業員の退職を経験していることが明らかになりました。これは中小企業の6.5%と比較して2倍以上の水準であり、企業規模が大きいほど、従業員との直接対話によらない退職が常態化している実態が伺えます。

さらに、業種別に見るとその傾向はより顕著になります。マイナビの調査によれば、退職代行の利用経験がある企業の割合は、「金融・保険・コンサルティング」で31.4%、「IT・通信・インターネット」で29.8%と、特定の業界で極めて高い数値を示しています。これらの業界は、高い専門性や厳しい業績目標、そして人材の流動性が高いといった共通の特徴を持っており、従業員が退職を切り出しにくい、あるいは引き止めに遭いやすい環境が存在することを示唆しています。

利用者層に目を向けると、20代の利用率が18.6%と突出して高く、年代が下がるほど利用への心理的ハードルが低いことがわかります。さらに衝撃的なのは、新卒社員の動向です。退職代行サービス「モームリ」のデータによると、2025年度の新卒入社者のうち、4月から6月の3ヶ月間だけで1,072名がサービスを利用して退職しており、これは前年の同期間(805名)から33%以上の増加です。特に、退職のピークが入社後わずか1ヶ月の「4月」にあり、早期離職の深刻化と、入社直後から企業への信頼を失っている新入社員の姿が浮かび上がります。

利用者が口にする「建前」の退職理由

では、なぜ彼ら、彼女らは、直接「辞めます」と伝える代わりに、数万円の費用を払ってまで代行業者に依頼するのでしょうか。調査データは、その直接的な理由を明らかにしています。

ある調査で退職代行の利用理由を尋ねたところ、最も多かった回答は「退職を引き留められた(引き留められそうだった)」(40.7%)でした。次いで、「自分から退職を言い出せる環境ではない」(32.4%)、「退職を伝えた後にトラブルになりそう」(23.7%)と続きます。

これらの理由は、一見すると個人のコミュニケーション能力や勇気の問題のようにも見えます。しかし、その根底には、労働者の正当な権利である「退職の自由」を行使することさえ躊躇させるような、職場の強い同調圧力や、上司との権力勾配、そして「辞めることは裏切りである」といった旧態依然とした企業文化が存在することを示唆しています。

特に「引き止め」は深刻な問題です。人手不足を背景に、上司が感情的に慰留したり、後任が見つかるまでといった非現実的な条件を提示したりすることで、労働者は精神的に追い詰められていきます。退職代行は、こうした不毛な交渉や精神的消耗を回避し、確実かつ迅速に雇用関係を終了させるための「防衛手段」として機能しているのです。

隠された「本音」の退職理由:リアルな声から見える組織の問題点

しかし、利用者が口にする「言い出しにくい」という理由は、あくまで「建前」に過ぎないケースが多々あります。エン・ジャパンの調査では、退職経験者の半数以上(54%)が「会社に伝えなかった本音の退職理由がある」と回答し、その理由として「話しても理解してもらえないと思ったから」(46%)を挙げています。これは、組織内に対話のチャネルが存在しない、あるいは機能不全に陥っていることの証左です。

では、その「本音」とは何なのでしょうか。退職代行サービスに寄せられる新卒社員のリアルな声は、上場企業が抱える根深い問題点を生々しく映し出しています。

1. 採用時の約束との乖離(採用詐欺)
最も多いのが、入社前に聞いていた話と現実とのギャップです。これは「心理的契約の違反」とも呼ばれ、特に公正さや透明性を重視する若手社員の信頼を一瞬で失わせます。

  • 「大学の求人票では基本給16万円+手当だったが、実際は12万8千円で最低賃金を下回っていると感じた」(運送業・男性)
  • 「入社前の労働条件通知書には『退職金あり』と書かれていたが、入社後に『退職金なし』となっていた」(営業・男性)
  • 「IT業界の面談で使う業務経歴書に、新卒なのに『1年間現場で働いていた』と経歴詐称をさせられそうになった」(IT関連・女性)

2. ハラスメントと劣悪な人間関係
コンプライアンス研修が実施されていても、現場レベルではハラスメントが横行しているケースは後を絶ちません。

  • 「新年会で複数の上司から『彼女ともうしたの?』などセクハラ発言を受けた」(建築・建設業・男性)
  • 「研修中に人事担当者から『前からタチの悪いやつだと思ってた』など人格を否定する発言をされ、同期からも馬鹿にされるようになった」(営業・男性)

3. 時代錯誤な研修・労働環境
合理性のない精神論や、人権意識の低い研修が、新入社員の不信感を増幅させています。

  • 「研修会場の端から端まで聞こえる声での挨拶を強要され、経営理念を暗唱させられる。講師は叫んでいるだけで軍隊のようだった」(IT関連・女性)
  • 「3泊4日の研修合宿で、7時間以内に約30キロ歩かされた。両足の皮がめくれ血豆ができたが、何のための研修か理解できなかった」(営業・女性)
  • 「研修の教室が地下で窓がなく息苦しい。『講義中は水分補給も禁止』と言われ、新入社員を大切にしていると思えなかった」(IT関連・男性)

さらに、特定の業界には構造的な問題が潜んでいます。ある退職代行サービスの調査では、利用された企業ランキングの上位40社のうち16社(40%)を人材派遣会社が占めるという異常な実態が報告されています。これは、派遣労働者が「派遣元」と「派遣先」の板挟みになり、労働環境の改善を訴えても責任の所在をたらい回しにされ、孤立無援の状態に陥りやすい「三角関係の罠」が背景にあると分析されています。

小括:退職代行は「組織のSOS」

これらのデータと事例が示すのは、従業員が退職代行を選ぶ行為は、決して単なる「甘え」や「非常識」といった個人の資質の問題で片付けられるものではない、ということです。それは、採用時の約束不履行、ハラスメントの放置、非合理的な労働環境、そして何よりも従業員の声に耳を傾けない、あるいは聞く仕組みすらない「対話が機能不全に陥った組織」に対する、最後のコミュニケーション手段なのです。

退職代行からの1本の電話は、氷山の一角に過ぎません。その背後には、声なき声で助けを求め、あるいは静かに会社を見限っていった、何十倍もの従業員が存在する可能性があります。したがって、企業はこの1本の電話を、自社の組織課題を映し出す「鏡」であり、深刻な「SOS」のシグナルとして真摯に受け止める必要があります。

第2部の要点
  • 上場大企業でも退職代行の利用は常態化しており、特に金融・IT業界や20代の若手、新卒社員で顕著である。
  • 利用者が挙げる「引き止めが面倒」といった理由は建前であり、その本音には「話しても無駄」という組織への諦めが存在する。
  • 本音の退職理由には「採用時の約束との乖離」「ハラスメント」「時代錯誤な研修」など、企業のコンプライアンスや組織文化の根幹に関わる深刻な問題が潜んでいる。
  • 退職代行の利用は、個人の問題ではなく、対話が機能しない組織が発する「SOS」であり、経営課題として捉えるべきシグナルである。

【第3部】労働者向け完全ガイド:上場企業で退職代行を賢く使うための実践マニュアル

「上場企業だから、変な辞め方をしたら後々面倒なことになるのでは…」「手続きが複雑そうで不安だ」。退職を決意し、代行サービスの利用を検討する際、このような不安を抱くのは当然です。しかし、正しい知識と手順を踏めば、上場企業であっても安全かつ確実に退職することは可能です。本章では、労働者の視点に立ち、退職代行を賢く利用するための具体的な方法を徹底解説します。

上場企業でも退職代行は問題なく使える?

結論から言えば、上場企業相手であっても、退職代行サービスの利用は法的に全く問題ありません。

その最大の根拠は、日本の民法で保障されている労働者の「退職の自由」です。期間の定めのない雇用契約(正社員など)の場合、労働者はいつでも退職の申し入れをすることができ、その申し入れから2週間が経過すれば、会社の承諾がなくても雇用契約は終了します。

民法 第六百二十七条第一項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

この権利は、会社の規模や上場の有無にかかわらず、すべての労働者に平等に適用されます。退職代行業者は、この法的な権利行使をあなたに代わって「伝達」または「交渉」する存在であり、その利用自体が違法になることはありません。

むしろ、上場企業には特有の特徴があり、それが退職代行の利用において有利に働く側面もあります。

  • コンプライアンス意識の高さ: 上場企業は株主や社会からの厳しい目に晒されており、労働法規の遵守に対する意識が一般的に高いです。そのため、違法な引き止めやハラスメントといった露骨な退職妨害に遭うリスクは、コンプライアンス意識の低い企業に比べて低い傾向にあります。
  • 手続きのマニュアル化: 人事部門の機能が確立しており、退職手続きがシステム化・マニュアル化されていることが多いです。そのため、代行業者から法的に正当な通知があれば、感情的な反発よりも、規定に沿った事務処理が淡々と進められる可能性が高いです。

したがって、「上場企業だから」と過度に恐れる必要はありません。重要なのは、後述する適切な業者を選び、正しい手順を踏むことです。

【最重要】後悔しないための業者選び:あなたの状況に最適な選択肢は?

第1部で解説した通り、退職代行の成否は「業者選び」で9割決まると言っても過言ではありません。自分の状況を正しく把握し、最適な運営主体のサービスを選ぶことが極めて重要です。以下のフローチャートを参考に、あなたに合った選択肢を見つけてください。

状況別・最適な退職代行サービス選択フロー

Case 1: 会社との間にトラブルはなく、ただ「辞めたい」と伝えてもらうだけでよい。
→ この場合、最も費用を抑えられる「民間企業」運営のサービスで十分な可能性があります。会社がすんなり退職を認めることが予想され、有給消化などでも揉めそうにない状況であれば、交渉の必要がないためです。ただし、万が一会社が退職を拒否したり、条件面で難色を示したりした場合、民間企業はそれ以上対応できないリスクがあることを理解しておく必要があります。

Case 2: 残っている有給休暇をすべて消化したい、あるいは希望の退職日で辞めたいが、会社が拒否する可能性がある。
→ このように会社との「交渉」が必要になる可能性が高い場合は、「労働組合」が運営するサービスが最適です。労働組合は労働組合法に基づく「団体交渉権」を持っており、会社に対して有給休暇の取得や退職日の調整などを合法的に交渉できます。弁護士に依頼するよりも費用を抑えつつ、交渉力を確保できるため、最もコストパフォーマンスに優れた選択肢と言えます。

Case 3: 未払いの残業代や退職金を請求したい。あるいは、パワハラやセクハラに対する慰謝料を請求したい。
→ 金銭の請求や法的な損害賠償が絡む場合は、「弁護士」が運営するサービス一択です。これらの行為は弁護士法で定められた「法律事務」にあたり、弁護士資格を持つ者しか代理で行うことができません。会社が支払いを拒否した場合でも、法的手続きや訴訟を見据えた強力な交渉が可能です。費用は高くなりますが、回収できる金額を考えれば、十分に元が取れる可能性があります。

上場企業で退職代行を利用する際の特有の注意点とチェックリスト

上場企業からの退職では、特に情報管理と手続きの正確性が求められます。以下のチェックリストを参考に、慎重に準備を進めましょう。

上場企業向け・退職準備チェックリスト
  • ☐ 情報管理の徹底:
    • 会社の機密情報や顧客データを私物のPCやUSBメモリにコピー・保存していないか確認する。これは不正競争防止法違反や就業規則違反に問われる重大なリスク行為です。
    • 退職代行実行後は、会社のネットワーク、メール、各種システムには一切アクセスしない。不正アクセス禁止法に抵触する恐れがあります。
  • ☐ 貸与物の完全返却:
    • 会社から借りているものを全てリストアップする(PC、スマートフォン、社員証、セキュリティカード、社章、制服、名刺、経費精算用カードなど)。
    • 返却方法は、業者の指示に従い、必ず追跡可能な方法(書留、ゆうパック、宅配便など)を利用する。「送った」「届いていない」という水掛け論を防ぐため、発送伝票の控えは必ず保管してください。
  • ☐ 退職届の作成と提出:
    • 宛名は「代表取締役社長 〇〇 殿」とします。直属の上司宛ではありません。
    • 退職理由は「一身上の都合により」で十分です。詳細な理由を書く必要はありません。
    • 提出方法は、業者から指示がある場合が多いですが、最も確実なのは「内容証明郵便」で会社の代表者宛に郵送することです。これにより、「いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれます。
  • ☐ やり取りの全記録:
    • 退職代行業者とのやり取りは、すべてメールやLINEなど、文面で記録が残る形で行う。電話での重要なやり取りは避け、もし話した場合はその内容を改めてテキストで送ってもらい、確認の証拠とします。

退職完了までの具体的なステップとQ&A

適切な業者を選び、上記の準備を整えれば、あとはスムーズに手続きを進めるだけです。一般的な流れは以下の通りです。

Step 1: 相談・依頼
気になる業者にLINEやメールで無料相談。現在の状況、会社の雰囲気、希望する退職条件などを伝えます。この段階で、サービス内容、料金体系(追加料金の有無)、返金保証の条件などをしっかり確認しましょう。

Step 2: ヒアリングと打ち合わせ
正式に依頼(契約・支払い)すると、業者から詳細なヒアリングシートが送られてきます。希望する退職日、有給消化の希望、会社に伝えてほしいこと、返却物リストなどを正確に記入します。

Step 3: 退職代行実行
指定した日時に、業者が会社(通常は人事部や直属の上司)へ連絡し、あなたの退職意思を伝えます。この瞬間から、あなたは会社と直接連絡を取る必要はなくなります。多くの利用者が「『明日から会社に行かなくて大丈夫です』と言われ、心が軽くなった」と語る、最も重要な局面です。

Step 4: 退職手続き(在宅)
業者の指示に従い、自宅で退職届を作成して郵送したり、貸与品を梱包して発送したりします。会社との事務的なやり取りは、すべて業者が仲介してくれます。

Step 5: 必要書類の受領
退職日から数週間後、会社から「離職票」「源泉徴収票」「年金手帳」などの重要書類が郵送で届きます。これらの書類は、失業保険の受給や転職先での手続きに必要です。万が一届かない場合は、依頼した業者に連絡し、会社へ督促してもらいます。アフターフォローが無期限の業者を選ぶと、この点で安心です。

よくある質問(FAQ)

Q. 会社から訴えられたり、損害賠償請求されたりしませんか?
A. 適法な手続き(民法627条に則った2週間前の通知など)を踏んで退職する限り、退職代行を利用したという事実だけで訴えられ、それが認められる可能性は極めて低いです。退職は労働者の権利だからです。ただし、あなたが重要なプロジェクトを故意に放棄して会社に多大な損害を与えた、機密情報を持ち出した、などの特殊な事情がある場合はリスクがゼロではありません。不安な場合は、損害賠償請求への対応を保証している労働組合や弁護士のサービスを選ぶとより安心です。
Q. 懲戒解雇になりませんか?
A. 退職代行を利用したこと自体を理由とする懲戒解雇は、社会通念上不当であり、無効となる可能性が非常に高いです。ただし、代行依頼後に会社からの連絡を一切無視し、業務の引き継ぎにも全く協力しないなど、労働者側の対応が悪質と判断された場合は、無断欠勤を理由とした懲戒処分が検討されるリスクはあります。業者の指示に従い、誠実に対応することが重要です。
Q. 退職金や最後の給料はちゃんともらえますか?
A. 労働の対価である給与は、労働基準法第24条により全額支払うことが義務付けられており、退職代行を利用しても必ず支払われます。退職金については、会社の就業規則や退職金規程によります。もし会社が不当に支払いを拒否するような場合は、交渉権を持つ労働組合や弁護士運営の業者であれば、あなたに代わって支払いを請求してくれます
Q. 離職票や源泉徴収票などの必要書類はもらえますか?
A. はい、もらえます。離職票は労働者が請求した場合、会社は発行する義務があります(雇用保険法第76条3項)。源泉徴収票も同様です。これらの書類発行を拒否することは違法行為にあたります。労働組合や弁護士運営の業者であれば、これらの書類請求も代行してくれ、会社が渋った場合でも法的に請求が可能です。契約前に、書類の受領までサポートしてくれるか(アフターフォローの有無)を確認しておきましょう。

【第4部】企業向け実践ガイド:従業員に退職代行を使われた際の法的対応と実務マニュアル

ある日、人事部に一本の電話が鳴る。「株式会社〇〇(退職代行業者)の者です。貴社従業員の△△様より依頼を受け、退職の意思をお伝えします」。この瞬間、多くの人事担当者や経営者は、驚き、戸惑い、時には憤りを感じるかもしれません。しかし、ここで感情的な対応を取ることは、企業の法的リスクを高め、事態を悪化させるだけです。本章では、企業側の視点に立ち、突然の退職代行通知に冷静かつ適切に対処するための法的知識と実務マニュアルを詳説します。

大原則:退職代行は拒否できない

まず、企業として認識すべき最も重要な大原則は、「適法な退職の意思表示は、たとえ代行業者を通じて伝えられたものであっても、拒否できない」ということです。

前述の通り、民法第627条は、期間の定めのない労働者(正社員など)に「退職の自由」を保障しています。意思表示から2週間が経過すれば、会社の承諾の有無にかかわらず、雇用契約は法的に終了します。この意思表示は、必ずしも本人が直接行う必要はなく、代理人や使者を通じて行うことも有効と解されています。

したがって、企業が取るべきでないNG対応は明確です。

  • 退職の拒否: 「人手不足だから認めない」「後任が見つかるまで辞めさせない」といった主張は法的に無効です。
  • 感情的な叱責: 「非常識だ」「裏切り者だ」といった感情的な言葉は、パワーハラスメントと見なされるリスクがあります。
  • 本人への執拗な連絡強要: 従業員は会社との直接対話を避けるために代行サービスを利用しています。本人への度重なる電話やメール、自宅訪問などは、退職妨害やプライバシー侵害にあたる可能性があります。

これらの行為は、問題をこじらせ、SNSでの告発や労働審判といった、より深刻なトラブルに発展する火種となります。最初の連絡を受けた際は、まず冷静に事実を受け止めることが肝心です。

【初動対応マニュアル】連絡を受けたら、まず何をすべきか?

突然の連絡に慌てず、以下の3ステップで冷静に初動対応を行いましょう。この初期対応が、その後の手続きをスムーズに進めるための鍵となります。

Step 1: 冷静に受領し、相手の身元を確認する
電話を受けた際は、その場で詳細な議論や交渉に応じる必要はありません。まずは以下の2点を確認し、一旦電話を終えるのが賢明です。

  1. 受領の意思を伝える: 「△△様の退職のご連絡の件、承知いたしました。内容を受領しました」と、冷静に伝えます。ここで反論や質問攻めは禁物です。
  2. 相手の身元を確認する: 業者の正式名称、担当者名、連絡先、そして最も重要な「運営主体(弁護士事務所か、労働組合か、それ以外の民間企業か)」を明確に確認します。「確認後、改めてこちらからご連絡します」と伝え、一度電話を切りましょう。その後、ウェブサイト等で実在する正規の組織かを確認します。

Step 2: 本人の意思を確認する(委任状の要求)
次に、その連絡が本当に従業員本人の意思に基づくものかを確認する必要があります。これは、第三者によるなりすましや嫌がらせといった万が一のリスクを排除するために不可欠なプロセスです。本人に直接連絡するのではなく、業者に対して、従業員本人の署名・捺印がある「委任状」や身分証明書の写しをメールやFAXで送付するよう要求します。正規の業者であれば、通常これらの書類は準備しています。

Step 3: 相手の権限に応じて対応窓口を分ける
委任状で本人の意思が確認できたら、相手の運営主体(法的権限)に応じて、企業の対応方針を明確に切り分けます。これが最も重要なポイントです。

  • 相手が「民間企業」の場合:
    彼らに法的な「交渉権」はありません。したがって、企業は交渉に応じる義務もありません。「退職の意思は確かに受領しました。ただし、有給休暇の消化や退職日の調整といった条件に関する交渉は、非弁行為にあたる可能性があるため、貴社とは行えません。必要な事務手続きのご案内はさせていただきます」と、毅然とした態度で、しかし丁寧に対応の範囲を限定します。
  • 相手が「労働組合」の場合:
    労働組合には、労働組合法で保障された「団体交渉権」があります。企業が正当な理由なく団体交渉を拒否することは「不当労働行為」と見なされ、法的な罰則の対象となる可能性があります。したがって、企業は誠実に交渉に応じる義務があります。人事・労務担当者が窓口となり、要求内容について協議を進める必要があります。
  • 相手が「弁護士」の場合:
    弁護士は、本人の完全な「代理人」です。弁護士からの連絡は、本人からの連絡と法的に同等に扱われます。有給消化や未払い賃金の請求など、あらゆる法的交渉に対応する権限を持っています。この場合、本人への直接連絡は絶対に避けるべきです(弁護士法違反のリスク)。企業の法務部門や顧問弁護士に速やかに相談し、弁護士を窓口として正式な交渉に臨む必要があります。

【事務手続きマニュアル】淡々と、しかし確実に行うべきこと

初動対応が完了したら、あとは社内規定と法律に則り、事務手続きを淡々と、しかし確実に進めます。感情を挟まず、プロセスを遵守することがトラブル回避の鍵です。

  1. 雇用契約の確認: まず、対象従業員の雇用契約書や就業規則を確認し、雇用形態(無期雇用か有期雇用か)を把握します。無期雇用であれば民法627条(2週間ルール)、有期雇用であれば民法628条(やむを得ない事由がある場合の即時解約)が基本となります。
  2. 退職日の確定: 従業員の有給休暇の残日数を確認します。退職日までの期間で残日数を消化できるよう、本人の希望を踏まえて退職日を確定します。代替要員の確保が困難といった「事業の正常な運営を妨げる」明白な理由がない限り、企業は有給休暇の取得を拒否できません。実務上は、申出があった分は消化させるのが一般的です。
  3. 退職関連書類の処理:
    • 提出を求めるもの: 「退職届」の原本を郵送で提出するよう、業者を通じて依頼します。これが退職意思の最終的な証拠となります。
    • 返却を求めるもの: 健康保険証、社員証、PC、スマートフォン、制服、その他貸与品のリストを作成し、業者を通じて返却を依頼します。返却方法は着払いでの郵送を指定するのが一般的です。
    • 交付するもの: 企業には以下の書類を交付する義務があります。本人が指定する住所へ、遅滞なく郵送します。
      • 離職票(本人が希望する場合。59歳以上の場合は必須)
      • 源泉徴収票(退職後1ヶ月以内)
      • 雇用保険被保険者証
      • 年金手帳(会社預かりの場合)
  4. 引き継ぎの依頼: 従業員に出社を強制することはできません。そのため、対面での引き継ぎは期待できないと考えるべきです。業務に必要なデータや資料の保管場所、作業の進捗状況、顧客リストなどを、簡単なメモやメールで送ってもらうよう、業者を通じて依頼するのが現実的な対応です。

絶対にやってはいけない「5つの禁じ手」

退職代行という事態に直面した際、企業が感情的になったり、誤った知識で対応したりすると、法的・社会的なリスクを著しく高めることになります。以下の5つの行為は、いかなる理由があっても避けるべき「禁じ手」です。

  1. 退職届の受理拒否:
    前述の通り、無期雇用従業員の退職の自由は法律で保障されています。企業に受理を拒否する権利はなく、この行為自体が違法と見なされます。
  2. 損害賠償や懲戒解雇をちらつかせた脅し:
    「突然辞めて会社に損害が出たから賠償請求する」「こんな辞め方は懲戒解雇だ」といった脅しは、悪質な退職妨害(ハラスメント)であり、場合によっては強要罪に問われるリスクすらあります。実際に退職によって生じた損害を法的に立証し、賠償を勝ち取るハードルは極めて高く、安易な請求は企業の評判を落とすだけです。
  3. 自宅への訪問など過度な干渉:
    本人が出社や連絡を拒否している状況で、説得のために自宅を訪問する行為は、プライバシーの侵害であり、従業員にさらなる精神的苦痛を与える逆効果な行為です。ストーカー規制法に抵触する可能性も指摘されています。
  4. 給与や退職金の不当な不払い・減額:
    「退職代行を使ったから」という理由で、支払うべき賃金や、規程に基づき支払われるべき退職金を支払わない、あるいは減額することは、明確な労働基準法違反です。これは企業にとって最もリスクの高い行為の一つであり、労働基準監督署の是正勧告や訴訟に発展する可能性が非常に高いです。
  5. 交渉権のない民間業者との条件交渉(非弁行為への加担):
    良かれと思って民間業者の担当者と退職日の調整や有給消化について話し合ってしまうと、企業側が「非弁行為」に加担したと見なされるリスクがあります。これにより、合意した内容が無効になったり、企業のコンプライアンス意識が問われたりする可能性があります。交渉は、必ず法的権限を持つ労働組合か弁護士とのみ行うという原則を徹底すべきです。

これらの禁じ手は、いずれも「辞めさせたくない」という企業の感情から生じますが、法的にはほとんど意味をなさず、むしろ企業の法的・社会的リスクを増大させるだけの結果を招くことを、経営層は肝に銘じる必要があります。

【第5部】「退職代行ゼロ」の組織へ – 根本原因を断ち、従業員が定着する会社になるために

従業員に退職代行を使われたという事実は、企業にとって痛みを伴う出来事です。しかし、これを単なる「厄介事」として処理し、去った従業員個人の問題として片付けてしまうならば、同じ過ちが繰り返されるだけです。真に学ぶべき企業は、この出来事を組織の深層部に潜む問題点を映し出す「リトマス試験紙」と捉え、根本的な組織改革への第一歩とします。本章では、対症療法に終わらない、未来の退職代行利用を防ぐための本質的なアプローチを提言します。

退職代行は「組織の健康診断結果」である

退職代行からの1本の電話は、単に1人の従業員が去るという事象ではありません。それは、「この組織では、従業員が自身のキャリアに関する重大な決断を、安心して上司や人事に相談することができない」という事実を突きつける、極めて重い「組織の健康診断結果」です。

なぜ、従業員は最後のSOSとして、外部の有料サービスに頼らざるを得なかったのか。その問いに向き合うことこそ、経営者や管理職に課せられた最も重要な責務です。この現象を個人の「甘え」や「非常識」と切り捨てるのは簡単ですが、それでは何も解決しません。むしろ、その背景にあるコミュニケーションの断絶、心理的安全性の欠如、キャリアパスの不透明性、あるいはハラスメントの黙認といった構造的な課題の表出として真摯に受け止め、組織改善の貴重な機会と捉える経営姿勢が不可欠です。

なぜ従業員はSOSを出せなかったのか?原因分析の視点

退職代行の利用を防ぐためには、まずその根本原因を正確に分析する必要があります。以下の視点から自社を客観的に見つめ直してみましょう。

  • 退職者データの分析:
    退職代行の利用が、特定の部署や特定の管理職の下で集中して発生していないでしょうか?あるいは、入社1年未満の若手社員や、特定の職種に偏りはないでしょうか?データを分析することで、問題が全社的なものなのか、局所的なものなのかを切り分けることができます。特に、特定のマネージャーの下で離職が頻発している場合、そのマネジメントスタイルに深刻な問題が潜んでいる可能性があります。
  • 対話の欠如と形骸化:
    定期的な1on1面談制度を導入していても、それが機能しているとは限りません。上司が一方的に話すだけの「指導」の場になっていたり、業務の進捗確認だけで終わっていたりしないでしょうか。Kakedasの調査によれば、部下は「昇進・昇格」や「人間関係」について上司に本音を言えていない割合が高く、対話の場が心理的安全性の低いものであれば、従業員は口を閉ざしてしまいます。
  • キャリアの閉塞感:
    「この会社にいても成長できない」「将来のキャリアが見えない」という不安は、特に優秀な若手社員の離職動機に直結します。社内でのキャリアパスが不明確であったり、異動の希望が通らない硬直的な人事制度であったりすると、従業員は社内での成長を諦め、社外に活路を求め始めます。
  • 採用のミスマッチと期待値のズレ:
    第2部で見たように、新卒社員の退職理由のトップは「入社前の契約内容と勤務実態の乖離」です。採用活動において、良い面ばかりを強調し、厳しい現実(残業時間、配属リスク、泥臭い業務内容など)を伝えない「採用広報」は、入社後の急速なエンゲージメント低下を招きます。従業員と企業双方の調査で、「採用選考時に職務内容をより詳しく説明する」ことが、離職防止と入社後の満足度向上の両面で最も重要な施策として挙げられています。

明日からできる、退職代行を防ぐための具体的な打ち手

原因分析を踏まえ、企業は具体的なアクションプランに落とし込む必要があります。以下に、明日からでも着手できる具体的な打ち手を4つの領域で提案します。

① 採用・オンボーディングの改善

  • RJP(Realistic Job Preview)の徹底: 採用段階で、仕事の良い面だけでなく、大変な面や厳しい現実も包み隠さず伝える。これにより、入社後の「こんなはずじゃなかった」というギャップを最小限に抑えます。
  • 情報開示の透明性向上: 従業員が求める「企業の離職率や転職者の割合の開示」に応えるなど、企業の透明性を高める努力が信頼醸成に繋がります。
  • オンボーディングの強化: 入社後の数ヶ月間、新入社員が組織にスムーズに溶け込み、早期に活躍できるよう支援するプログラム(メンター制度、定期的な人事面談など)を充実させます。

② コミュニケーションの活性化と心理的安全性の醸成

  • 1on1面談の質の向上: 管理職に対し、一方的に話すのではなく、部下の話を深く聞く「傾聴」や、相手の気づきを促す「コーチング」のスキル研修を実施します。1on1は評価の場ではなく、信頼関係を築く対話の場であることを徹底します。
  • 多様な相談チャネルの設置: 直属の上司には話しにくい内容(人間関係の悩み、ハラスメントなど)を相談できるよう、人事部内の専門窓口や、外部のEAP(従業員支援プログラム)サービスを導入し、従業員に周知します。
  • 経営層との直接対話: 社長や役員が従業員の生の声を聞く「タウンホールミーティング」や、匿名で質問や不満を投稿できるSlackチャンネルなどを設け、風通しの良い組織文化を醸成します。

③ 公正な評価とキャリア支援

  • 評価制度の透明化: 評価基準を明確にし、フィードバックの際には具体的な根拠を示すことで、評価に対する従業員の納得感を高めます。
  • キャリア自律の支援: 社内公募制度や、従業員が自らの意思で異動希望を申告できる「セルフ申告制度」などを導入し、従業員が主体的にキャリアを築ける選択肢を提供します。

④ 労働環境の整備と「辞めやすさ」の制度化

  • 働きやすい環境の追求: 残業時間の削減や有給休暇の取得を、単なる努力目標ではなく、会社として具体的な目標を掲げて推進します。
  • 退職プロセスの明確化: 退職の意思表示から承認、事務手続き完了までのプロセスを就業規則などで明確に定め、簡素化します。「辞める際に煩雑な手続きや引き止めがある」というイメージを払拭し、いつでもフェアに辞められるという安心感が、逆説的に従業員の定着に繋がります。

結論:未来への投資としての組織改革

退職代行への対策は、単なる離職率低下のためのリスク管理ではありません。それは、従業員一人ひとりが尊重され、安心して本音を語り、自らのキャリアに希望を持って働ける組織を作るための、本質的な組織改革そのものです。

従業員の声に真摯に耳を傾け、コミュニケーションの断絶を修復し、公正で透明な制度を構築する努力は、従業員エンゲージメントの向上、生産性の改善、そして優秀な人材を惹きつけ、長く活躍してもらうための最も確実な道筋です。退職代行という痛みを伴う「診断結果」を、より強く、より健康な組織へと生まれ変わるための「未来への投資」と捉えることができるか。今、すべての上場企業にその覚悟と実行力が問われています。

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