DXで生産性向上！静岡の中小企業が取り組んだ業務改善の具体例

DXは遠い話ではない、静岡県内企業の身近な一手

「人手不足が深刻だ」「もっと業務を効率化したい」「コストを削減したい」——。これらは、静岡県内の中小企業経営者の多くが抱える共通の悩みではないでしょうか。こうした根深い課題を解決する強力な手段として注目されているのが、DX（デジタルトランスフォーメーション）です。

しかし、「DX」と聞くと、「大企業の話だろう」「多額の投資が必要そうだ」「何から手をつければいいか分からない」といったイメージが先行しがちです。しかし、実際には県内でも多くの企業が、身近なツールや少しの工夫で大きな成果を上げています。

この記事では、静岡県内の中小企業が実際にどのようにDXに取り組み、生産性向上や業務改善を実現したのか、具体的な事例を交えながら徹底解説します。自社と似た課題を持つ企業の取り組みから、DX推進のヒントを見つけてください。

静岡県における中小企業DXの現状と課題

具体的な事例を見る前に、まずは静岡県内の中小企業が置かれているDXの現状を客観的に把握しましょう。データは、県内企業が直面する課題と可能性の両方を示唆しています。

全国比較で見るDX推進率

帝国データバンクが実施した調査によると、静岡県内でDXに「取り組んでいる」と回答した企業の割合は、全国平均をやや下回る傾向にあります。しかし、注目すべきは「言葉の意味を理解し、取り組みたいと思っている」と回答した企業の割合です。これを含めると、DXに対して前向きな姿勢を示す企業は全体の7割を超え、全国平均とほぼ同水準にあります。これは、多くの企業がDXの必要性を認識し、変革への意欲を持っていることの表れです。

推進を阻む共通の壁

一方で、DX推進には課題も存在します。同調査では、多くの企業が「スキル・ノウハウの不足」や「人材不足」を最大の障壁として挙げています。デジタル技術を導入したくても、それを使いこなせる人材が社内にいない、あるいは何から学べば良いのか分からないという状況が、多くの企業でDXへの第一歩をためらわせる原因となっています。

追い風となる静岡県の強力なDX支援体制

こうした課題に対し、静岡県や各市町は中小企業のDXを後押しするための強力な支援体制を構築しています。その中核となるのが、2022年3月に策定された「ふじのくにDX推進計画」です。この計画に基づき、県は多角的な支援策を展開しています。

「誰にも優しく、誰もが便利に、安全・安心、そして豊かに」を基本理念とし、地域社会、市町、県庁の三つのフィールドでDXを推進する。
— ふじのくにDX推進計画

具体的な支援策には、以下のようなものがあります。

• 専門家派遣事業： 静岡県産業振興財団などが実施する「中小企業DX化支援事業」では、無料で専門家（DX推進アドバイザー）の派遣を受け、現状分析から改善計画の策定、ITベンダー選定まで伴走支援してもらえます。
• 補助金・助成金： デジタルツールの導入やシステム開発にかかる費用の一部を補助する制度が多数用意されています。「中小企業等収益力向上事業費補助金」など、DXに特化した枠も設けられています。
• 人材育成プログラム： 社員のITリテラシー向上やDX推進リーダーを育成するための研修・講座が県や市によって開催されています。「ふじのくにデジタル人材育成プログラム」などがその一例です。
• 事例集の公開： 静岡市をはじめとする自治体は、市内の成功事例をまとめた「DXモデル事例集」を公開しており、他社の取り組みから学ぶ機会を提供しています。

これらの支援策は、スキルやノウハウ、資金面に不安を抱える中小企業にとって、DX推進の大きな追い風となります。

【業種別】静岡県内中小企業のDX成功事例

ここからは、静岡市が公開している「中小企業等DX支援事業 DXモデル事例集」などを基に、県内企業が実際にどのような課題を、どういったデジタル技術で解決したのかを具体的に見ていきましょう。

製造業：AIと自動化で現場の負担を劇的改善

多品種少量生産や複雑な工程管理など、多くの課題を抱える製造業では、身近なツールの自動化やAIの活用が大きな効果を発揮しています。

岩本工業株式会社（製造業）

課題：加工指示業務で使う3種類の帳票作成と在庫データ作成が手作業で行われ、時間がかかり、ミスも発生しやすかった。
解決策：生成AI（ChatGPT）とExcelマクロ（VBA）を組み合わせ、帳票作成とデータ連携を自動化。AIが指示内容を解釈し、VBAがそれを基に各帳票を自動生成する仕組みを構築しました。
成果：これまで担当者が多くの時間を費やしていた定型業務が大幅に削減され、コア業務である品質管理や工程改善に集中できる時間を確保しました。

八木工業株式会社（金属製品製造業）

課題：顧客からテキストファイルとExcelファイルという異なる形式で提供される2種類の需要量内示データを手作業で集計し、報告書を作成するのに手間がかかっていた。
解決策：Excel VBAを活用し、異なる形式のデータを自動で読み込み、集計して、指定の報告書フォーマットに出力するシステムを構築しました。
成果：データ集計と転記作業が自動化されたことで、作業時間が大幅に短縮され、ヒューマンエラーも防止。担当者はより付加価値の高い分析業務に時間を使えるようになりました。

小売・サービス業：顧客満足度と業務効率を両立

顧客との接点が多い小売・サービス業では、顧客体験の向上とバックオフィス業務の効率化がDXの鍵となります。

有限会社百町森（小売業）

課題：レジ業務において、顧客の誕生日確認や特典利用履歴の確認がスムーズに行えず、顧客を待たせてしまうことがあった。
解決策：既存のPOSシステムを改修し、レジで会員情報を読み込むと、誕生日情報や特典利用履歴が自動で表示されるようにしました。
成果：レジ業務が迅速化し、顧客へのきめ細やかなサービス提供が可能になったことで、顧客満足度の向上と業務効率化を同時に実現しました。

かちどき特許事務所（専門サービス業）

課題：交通費精算や請求書発行といったバックオフィス業務が煩雑で、本来注力すべき専門業務の時間を圧迫していた。
解決策：クラウド型の経費精算システムや請求書発行システムを導入。また、営業ツールを効率的に作成する仕組みも構築しました。
成果：バックオフィス業務にかかる時間が削減され、生産性が向上。専門家がより多くの時間を顧客対応や専門業務に充てられるようになりました。

建設業：情報共有の円滑化で生産性を向上

現場作業が多く、関係者間の情報共有が重要な建設業では、施工管理ツールの導入が効果的です。

有限会社ウッド.クラフト.カゴシマ（建設業）

課題：施工管理や請求業務がアナログな紙ベースで行われており、情報の共有に遅れが生じたり、書類の管理が大変だった。
解決策：施工管理DXツール「サクミル」を選定・導入。現場の写真や進捗状況、請求書などをクラウド上で一元管理できるようにしました。
成果：関係者間でのリアルタイムな情報共有が可能になり、業務効率が大幅に向上。ペーパーレス化も実現し、コスト削減と環境負荷の低減にも繋がりました。

株式会社高栄塗装（建設業）

課題：将来的な施工管理システムの導入を見据えているが、どのツールが自社に最適か分からなかった。
解決策：いきなり導入するのではなく、まず23種類の候補ツールを徹底的に調査・比較検討。各ツールの機能、コスト、操作性を評価し、自社の業務フローに最適なツールの選定に向けた土台作りを行いました。
成果：自社に必要な機能や導入の際の課題が明確になり、将来的なシステム導入の失敗リスクを低減。計画的かつ効果的なDX推進の基礎を築きました。

明日から始めるDX推進の3ステップ

これらの成功事例は、決して特別なものではありません。正しいステップを踏めば、どの企業でもDXの第一歩を踏み出すことができます。

ステップ1：経営課題を明確にする

最も重要なのは、「DXの導入」そのものを目的にしないことです。まずは自社が抱える「本当の課題」は何かを突き詰めます。「残業が多いのはなぜか」「顧客からのクレームが多い原因は何か」「なぜ生産性が上がらないのか」など、具体的な課題を洗い出すことから始めましょう。DXは、あくまでこれらの課題を解決するための手段です。

ステップ2：身近なツールでスモールスタートを切る

最初から大規模なシステムを導入する必要はありません。静岡市の事例にもあったように、多くの企業がExcelマクロやVBA、あるいはOffice365の共有機能といった、既に導入済みの身近なツールを活用して業務改善を実現しています。まずはコストをかけずに始められる「スモールスタート」で成功体験を積み、社内のDXに対するアレルギーを克服することが重要です。

ステップ3：公的な支援制度を積極的に活用する

自社だけでは難しいと感じたら、迷わず公的な支援制度を活用しましょう。前述の静岡県産業振興財団の専門家派遣は、無料で課題整理から支援してもらえるため、何から手をつければ良いか分からない企業にとって最適なサービスです。また、各種補助金を活用すれば、ツール導入の金銭的負担を大幅に軽減できます。

まとめ：成功事例に学び、自社ならではのDXを

本記事で紹介したように、静岡県内では既に多くの中小企業が、自社の課題解決のためにDXを活用し、着実な成果を上げています。その手法は、AIのような最先端技術から、Excelマクロのような身近なツールの活用まで多岐にわたります。

重要なのは、他社の成功事例をそのまま真似るのではなく、その中から自社の課題解決に繋がるヒントを見つけ出し、自社ならではの形で実践していくことです。静岡県には、意欲ある企業を支える手厚い支援体制と、参考にすべき多くの先駆者がいます。この記事が、貴社の生産性向上と持続的な成長に向けた、DX推進の第一歩となれば幸いです。