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【事例:カメヤ食品様】静岡の老舗わさびメーカーはITでどう変わったか?DX推進の課題と成功の鍵

2025年7月20日

【事例:カメヤ食品様】静岡の老舗わさびメーカーはITでどう変わったか?DX推進の課題と成功の鍵

KUREBA

伝統産業が直面する「変革の波」

少子高齢化による人手不足、グローバル化に伴う品質管理基準の厳格化、そして消費者の多様化するニーズ。日本の食品製造業は、多くの構造的な課題に直面しています。特に、長年の伝統と職人技を強みとしてきた中小企業にとって、これらの変化への対応は喫緊の経営課題です。

このような状況下で、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、企業の持続的成長の鍵として注目されています。しかし、「何から手をつければ良いかわからない」「投資対効果が見えない」といった声が多いのも事実です。

本記事では、静岡県でわさび製品の製造・販売を手がける老舗企業、カメヤ食品株式会社の事例を取り上げます。伝統を重んじる同社が、いかにしてITを導入し、具体的な課題を解決したのか。その成功の軌跡を紐解きながら、静岡県内の中小食品メーカーがDXを推進するためのヒントを探ります。

食品製造業が抱える共通の課題とDXの現状

カメヤ食品の事例を詳しく見る前に、まずは食品製造業全体が置かれている状況を整理します。業界特有の課題を理解することが、DXの必要性をより深く把握することにつながります。

人手不足と生産性の壁

日本の食品製造業は、全産業の中でも特に労働集約的な側面が強く、労働人口の減少は深刻な影響を及ぼしています。農林水産省の調査によると、食品産業は事業継承を考えていない事業者の割合が半数以上にのぼるなど、後継者不足も大きな課題です。

また、品質管理の水準は年々高まっており、2021年からは原則すべての食品等事業者に対してHACCPに沿った衛生管理が制度化されました。これにより、製造工程における継続的な監視・記録業務が増加し、現場の負担は増大しています。こうした背景から、生産性の向上は待ったなしの状況です。

DX導入を阻む3つの要因

生産性向上の切り札として期待されるDXですが、その導入は決して平坦な道のりではありません。富士電機が実施した調査によると、食品製造業がIoT/ITの導入・活用を進める上での阻害要因として、以下の3点が上位に挙げられています。

この結果は、多くの企業がDXの必要性を感じつつも、「人材」「コスト」「効果の不透明性」という3つの壁に直面していることを示しています。特に、従業員100名未満の企業ではIoT/ITに「現在取り組んでいる」割合が18.8%にとどまり、企業規模が小さいほど導入のハードルが高い傾向が見られます。

事例紹介:カメヤ食品株式会社とは?

こうした業界全体の課題を踏まえた上で、カメヤ食品の取り組みを見ていきましょう。

伊豆の恵みと共に歩む、わさび一筋の老舗

カメヤ食品株式会社は、1947年(昭和22年)に静岡県駿東郡清水町で創業した食品メーカーです。名水百選に選ばれた柿田川湧水群の豊かな水資源を生かし、わさび漬をはじめとする漬物、おろしわさび、佃煮、ふりかけなど、多岐にわたる製品を製造・販売しています。

同社の強みは、原料への徹底したこだわりにあります。自社農園「カメヤ農園」を設立し、わさびの栽培から手がけるだけでなく、その栽培方法「静岡の水わさびの伝統栽培」は世界農業遺産にも認定されています。伝統的な製法と地域の恵みを守りながら、安全で美味しい製品を食卓に届けることを使命としています。

近年では、カナダに現地法人を設立するなど海外展開も積極的に進めており、伝統を守りつつも常に新しい挑戦を続ける企業です。

カメヤ食品が挑んだDX:具体的な取り組みと成果

伝統と品質を重んじるカメヤ食品が、なぜ、そしてどのようにしてDXに取り組んだのでしょうか。その具体的なプロセスと成果を追います。

課題:紙文化からの脱却と品質管理の高度化

海外展開を加速させる中で、カメヤ食品にとって国際的な食品安全マネジメントシステムの認証である「ISO22000」の取得は重要な経営課題でした。しかし、認証取得には、製造工程における厳格な記録管理が求められます。

当時の同社では、多くの記録業務が紙の帳票で行われていました。その結果、以下のような課題が顕在化していました。

  • 製造現場での記録漏れや記入ミスが多発
  • 紙帳票の内容をPCに転記する作業や、承認のための回覧に時間がかかり、工場長など管理職の残業が常態化

これらの課題は、業務効率を低下させるだけでなく、品質管理上のリスクにもつながりかねません。ISO22000取得という目標達成のためにも、紙ベースの業務フローからの脱却が急務でした。

解決策:IT導入補助金を活用した「現場帳票の電子化」

この課題を解決するため、カメヤ食品が選択したのが、現場帳票を電子化するツールの導入でした。具体的には、タブレット端末などを活用して現場で直接データを入力し、記録・承認・保管までを一気通貫でデジタル管理できるシステムです。

導入にあたっては、中小企業庁が実施する「IT導入補助金」を活用。これにより、初期投資の負担を大幅に軽減することに成功しました。この補助金は、中小企業がITツールを導入する際の経費の一部を補助する制度で、DX推進の大きな後押しとなります。

同社が導入したツール「カミナシ」の事例報告によると、この電子化によって、紙の帳票を扱う煩雑さから解放され、記録作業が大幅に効率化されたとされています。

成果:業務効率化と国際標準への対応

帳票の電子化がもたらした成果は、単なる業務効率化にとどまりませんでした。

主な成果
1. ミスの削減と品質向上:手書きによる記入ミスや転記エラーがなくなり、データの正確性が向上。
2. 管理職の負担軽減:承認プロセスがオンラインで完結し、管理職の残業時間が大幅に削減。
3. ISO22000認証取得:データ管理体制が整備されたことで、2023年10月に平成台工場でISO22000認証を無事取得。
4. 海外ビジネスの加速:国際認証の取得は海外バイヤーからの信頼を高め、商談を有利に進める要因に。亀谷泰一社長は「(認証取得後)海外の展示会で明らかに反応が変わった」と語っています。

このように、現場の課題解決から始まった小さなDXが、最終的には企業の国際競争力を高めるという大きな成果につながったのです。

なぜカメヤ食品はDXに成功したのか?中小食品メーカーが学ぶべき3つのポイント

カメヤ食品の事例は、他の多くの中小食品メーカーにとって貴重な示唆に富んでいます。成功の背景には、以下の3つの重要なポイントがあったと考えられます。

ポイント1:明確な目的意識

カメヤ食品のDXは、「流行りだからIT化する」というものではありませんでした。「管理職の残業を減らす」「記録ミスをなくす」という現場の具体的な課題解決と、「ISO22000を取得して海外展開を加速させる」という明確な経営目標が直結していました。この目的意識の明確さが、ツール選定から導入、定着までの一連のプロセスをぶれさせない軸となりました。

ポイント2:スモールスタートと外部リソースの活用

同社は、いきなり工場全体のシステムを刷新するような大規模な投資は行いませんでした。まずは「紙帳票の電子化」という、課題が最も顕著な領域に絞ってスモールスタートを切りました。さらに、IT導入補助金という公的支援を最大限に活用することで、コスト面のハードルをクリアしました。これは、体力に限りがある中小企業がDXを推進する上で非常に現実的かつ効果的なアプローチです。

ポイント3:経営層のリーダーシップと現場の巻き込み

亀谷社長自らが海外展開の重要性を認識し、そのために必要なISO認証取得とDX推進を主導したことが、成功の大きな要因です。経営トップの強いコミットメントがあったからこそ、全社的な取り組みとして推進することができました。同時に、導入されたシステムは工場長をはじめとする現場の管理職の「残業」という切実な悩みを解決するものであったため、現場からの抵抗も少なく、スムーズな定着につながったと推察されます。

静岡県内企業が活用できる支援制度

カメヤ食品が活用したIT導入補助金のように、国や自治体は企業のDXを後押しする様々な支援制度を用意しています。静岡県内の中小企業が活用を検討できる制度には、以下のようなものがあります。

  • IT導入補助金:中小企業・小規模事業者がITツール(ソフトウェア、サービス等)を導入する経費の一部を補助する国の制度。インボイス対応やセキュリティ対策など、目的に応じた複数の枠があります。
  • 中小企業等デジタル活用事業補助金(静岡市):静岡市が市內の中小企業を対象に、経営効率化や生産性向上に資するデジタル活用事業の経費を補助する制度です。
  • しずおか食の仕事人地域活動支援事業補助金(静岡県):県産農林水産物を活用して地域の課題解決を図る団体の活動を支援する補助金。商品開発や販路開拓だけでなく、DXに関連する取り組みも対象となる可能性があります。

これらの制度をうまく活用することで、コストの懸念を和らげ、DXへの第一歩を踏み出しやすくなります。最新の情報や申請要件については、各公式サイトでご確認ください。

まとめ:伝統と革新の両立を目指して

カメヤ食品の事例は、伝統ある中小食品メーカーであっても、明確な目的のもとで段階的にIT導入を進めれば、大きな成果を生み出せることを証明しています。彼らの成功は、単なる技術導入の物語ではありません。それは、現場の課題に真摯に向き合い、経営目標と結びつけ、利用可能なリソースを賢く活用するという、普遍的な経営戦略の成功例です。

人手不足や品質管理の高度化といった課題は、今後ますます深刻化することが予想されます。静岡の豊かな食文化を未来につなぐためにも、伝統を守りながら新しい技術を取り入れる「伝統と革新の両立」が、これからの食品メーカーに求められる姿ではないでしょうか。


合同会社KUREBAでは、静岡県内の中小企業様のDX推進をサポートしています。「何から始めればいいかわからない」「自社に合ったITツールが知りたい」「補助金を活用したい」など、どんなお悩みでもお気軽にご相談ください。貴社の課題に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

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