退職代行で訴えられるは誤解?損害賠償請求の真のリスクと安全な業者の選び方を弁護士が監修

退職代行ヤメドキ

  1. 退職代行で「訴えられる」という不安の正体
  2. 【結論】退職代行サービスの利用「だけ」で訴えられることはない
  3. 損害賠償請求の真実:会社が「訴える」のはどんな時?
    1. 原則:損害賠償請求のハードルは非常に高い
    2. 損害賠償が認められる可能性のある具体的なケース
      1. ケース1:引き継ぎを全く行わない無断欠勤や突然の退職による実害
      2. ケース2:秘密保持義務・競業避止義務違反
      3. ケース3:会社への直接的な加害行為
    3. 「懲戒解雇」と「損害賠償」は別の問題
  4. 最大の落とし穴「非弁行為」:違法業者を選ぶとトラブルは悪化する
    1. 「非弁行為」とは何か?(弁護士法72条)
    2. 退職代行業者の3つの種類と業務範囲の比較
    3. 違法(非弁)業者に依頼してしまった場合のリスク
  5. トラブル回避のための実践ガイド:安全な退職代行サービスの選び方
    1. ステップ1:まず「交渉」が必要か自己診断する
    2. ステップ2:ウェブサイトで「運営主体」を必ず確認する
    3. ステップ3:「弁護士監修」の言葉に惑わされない
  6. 退職代行と法的トラブルに関するQ&A
      1. Q1. 退職代行を使ったら、懲戒解雇になりますか?
      2. Q2. 会社から「損害賠償するぞ」と脅されたらどうすればいいですか?
      3. Q3. 未払い給与やハラスメントの慰謝料も請求したいのですが、どの業者に頼めばいいですか?
      4. Q4. 会社が「代行業者とは話さない」と交渉を拒否したらどうなりますか?
  7. まとめ:法的リスクを正しく理解し、自分の状況に合った依頼先を選ぼう

退職代行で「訴えられる」という不安の正体

近年、労働環境の変化に伴い、「退職代行サービス」の利用が急速に一般化しています。慢性的な人手不足、ハラスメントの横行、あるいは「お世話になった上司に言い出しにくい」といった心理的な障壁など、労働者が自らの口で退職の意思を伝えることが困難な状況は、もはや珍しいものではなくなりました。パーソル総合研究所の調査などでも、こうした背景が指摘されています。

退職代行は、このような状況に置かれた労働者にとって、まさに「駆け込み寺」のような存在となりつつあります。しかし、その利便性の裏側で、多くの利用希望者が共通の大きな不安を抱えています。それは、「退職代行を使ったら、会社から訴えられるのではないか?」という懸念です。

インターネット上には「退職代行 訴えられる」「損害賠償」といったキーワードが溢れ、漠然とした恐怖心を煽る情報も少なくありません。この法的なリスクに対する不透明さが、退職という正当な権利の行使をためらわせる一因となっているのです。

本稿では、この根深い不安を解消するため、法的な観点から退職代行にまつわるリスクを徹底的に解剖します。具体的には、以下の3つの軸で専門的に解説を進めます。

  1. 「訴えられる」リスクの真実:退職代行の利用自体が、損害賠償請求の理由となるのか。
  2. 本当に注意すべき「非弁行為」の問題:利用者が直接訴えられるリスクよりも遥かに現実的で重大な、違法業者を選んでしまうリスクとは何か。
  3. 安全なサービスの選び方:法的トラブルを回避し、確実に退職を成功させるための具体的な業者選定基準。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは退職代行に関する法的な誤解から解放され、自身の状況に最適な選択を自信を持って下せるようになるでしょう。

【結論】退職代行サービスの利用「だけ」で訴えられることはない

読者の皆様が最も懸念されているであろう問いに、まず明確な結論からお答えします。**退職代行サービスを利用したという事実「だけ」を理由として、会社が労働者を訴え、損害賠償請求が認められることは、法的に見てまずあり得ません。**

この結論の根拠は、日本の法律が労働者に保障する強力な権利、「退職の自由」にあります。期間の定めのない雇用契約(多くの正社員がこれに該当)の場合、労働者はいつでも解約の申し入れをすることができ、その申し入れから2週間が経過すれば、会社の承諾がなくとも雇用契約は終了します。これは民法第627条第1項に明確に定められた権利です。

民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第1項 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

重要なのは、この「退職の意思表示」が会社に到達すれば効力が生じるという点です。その意思を誰が伝えたか(労働者本人か、その親か、あるいは退職代行業者か)は、退職の有効性そのものに影響を与えません。多くの法律専門サイトが指摘するように、退職代行の利用自体を禁じる法律はなく、それを理由に労働者が罰せられることはないのです。

したがって、「退職代行を使ったから訴える」という会社の主張は、法的な根拠を欠く「脅し」である可能性が極めて高いと言えます。弁護士が代理人となった場合、会社側もそのような無謀な主張をしてくることはまず考えられません。

このセクションの要点
  • 退職代行サービスの利用という事実のみで、会社から訴えられる(損害賠償請求される)ことは法的にほぼ不可能である。
  • 労働者には民法第627条で「退職の自由」が保障されており、退職の意思表示の方法は問われない。
  • 「代行を使ったから訴える」は、法적根拠のない脅し文句である可能性が高い。

では、なぜ「訴えられる」という不安がこれほど広まっているのでしょうか。それは、問題の所在が「退職代行の利用」そのものではなく、**「退職に至るまでの労働者自身の行為」**や**「依頼した代行業者の違法な行為」**にあるからです。次の章では、会社が実際に損害賠償請求に踏み切る、真のリスクシナリオについて詳しく見ていきます。

損害賠償請求の真実:会社が「訴える」のはどんな時?

前章で述べた通り、退職代行の利用自体は訴訟の理由になりません。しかし、実際に労働者が会社から損害賠償を請求されるケースは存在します。そのリスクは「退職の方法」ではなく「労働者個人の具体的な問題行動」に起因します。この章では、どのような場合に会社が「訴える」という手段に訴えるのか、その実態を法的な観点から解き明かします。

原則:損害賠償請求のハードルは非常に高い

まず大原則として、会社が労働者に対して損害賠償を請求し、それが裁判所で認められるためのハードルは非常に高いということを理解しておく必要があります。会社は以下の2点を具体的かつ客観的な証拠をもって立証しなければなりません。

  1. 労働者の故意または過失による行為:労働者が意図的に、あるいは注意義務を怠って問題行動を起こしたこと。
  2. 行為と損害の因果関係:その問題行動によって、会社に「具体的かつ相当な損害」が直接的に発生したこと。

例えば、「一人の社員が突然辞めたことで、残った社員の業務負担が増えた」といった程度の損害は、通常「具体的かつ相当な損害」とは認められません。人員配置や業務の調整は会社の経営責任の範囲内と見なされるためです。専門家の見解によれば、会社が労働者個人の責任を追及できるのは、極めて限定的な状況に限られます。

損害賠償が認められる可能性のある具体的なケース

では、具体的にどのようなケースで損害賠償が認められる可能性があるのでしょうか。過去の判例などから、いくつかの典型的なパターンが見えてきます。

ケース1:引き継ぎを全く行わない無断欠勤や突然の退職による実害

最も議論になりやすいのがこのケースです。ただし、単に「突然辞めた」だけでは不十分です。その退職が会社の事業に致命的な打撃を与えた場合に限り、損害賠償が問題となり得ます。

有名な判例として「ケイズインターナショナル事件」があります。この事件では、入社直後の従業員が重要なプロジェクトの担当者として顧客との契約締結を目前に控えていたにもかかわらず、病気を理由に欠勤し、十分な引き継ぎを行わずに退職しました。結果として会社は顧客との契約を失い、多額の損害を被りました。裁判所は、このような特殊な状況下での従業員の行動が信義則に反するとして、約70万円の損害賠償を認めました。

この判例が示すように、リスクとなるのは「プロジェクトの中核を担う人材が、代替不可能な状況で、意図的に引き継ぎを放棄し、それによって会社に直接的な金銭的損失(例:取引先への違約金発生など)を与えた」といった極めて悪質なケースです。通常の退職プロセスでは、まず問題になりません。

ケース2:秘密保持義務・競業避止義務違反

これは退職の仕方とは独立した、より明確な違法行為です。在職中に知り得た会社の機密情報(顧客リスト、技術情報、開発中の製品情報など)を退職時に不正に持ち出し、競合他社に漏洩させたり、自らの事業に利用したりする行為です。これは不正競争防止法違反という犯罪行為に該当する可能性があり、賠償額も高額になる傾向があります。

ケース3:会社への直接的な加害行為

会社の資金を横領する、備品を故意に破壊する、同僚に暴力を振るうといった行為は、言うまでもなく民事上の損害賠償だけでなく、刑事事件にも発展しうる問題です。これらは退職代行の利用とは全く無関係な、個人の不法行為・犯罪行為です。

「懲戒解雇」と「損害賠償」は別の問題

しばしば混同されがちですが、「損害賠償請求(訴えられること)」と「懲戒解雇(会社からのペナルティ)」は全く別の法的な問題です。

  • 損害賠償請求:会社が被った金銭的損害を、労働者に補填させること。
  • 懲戒解雇:会社の秩序を著しく乱した労働者に対する、最も重い懲戒処分。

弁護士の見解によれば、退職代行サービスを利用したこと自体は、労働者の正当な権利行使の一環であり、懲戒解雇の理由にはなり得ません。会社が「代行を使うなら懲戒解雇にする」と通告してきたとしても、それは法的に無効な脅しです。ただし、退職代行の利用とは別に、長期間の無断欠勤や前述のような背信行為があった場合は、それが懲戒事由と判断される可能性は残ります。

このセクションの要点
  • 会社が労働者に損害賠償を請求できるのは、労働者の故意・過失によって「具体的かつ相当な損害」が発生したことを会社側が証明できた場合に限られ、ハードルは非常に高い。
  • リスクとなるのは「代替不可能な状況での引き継ぎ放棄」「機密情報の漏洩」「横領」など、労働者個人の極めて悪質な問題行動である。
  • 退職代行の利用自体は、損害賠償や懲戒解雇の正当な理由にはならない。

結論として、あなたが誠実な労働者であり、会社に損害を与えるような特別な行動を取っていない限り、「訴えられる」リスクを過度に恐れる必要はありません。しかし、退職代行の世界には、これとは全く別の、より現実的で深刻な落とし穴が存在します。それが「非弁行為」です。

最大の落とし穴「非弁行為」:違法業者を選ぶとトラブルは悪化する

労働者自身が訴えられるリスクは限定的である一方、退職代行サービスを利用する上で最大の法的リスクは、**弁護士法に違反する「非弁行為」を行う違法な業者に依頼してしまうこと**にあります。これは、単に退職が失敗に終わるだけでなく、トラブルをより深刻化させ、結果的に利用者自身が大きな不利益を被る原因となります。

「非弁行為」とは何か?(弁護士法72条)

弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、他人の法律事件に関して代理、和解、交渉などの「法律事務」を取り扱うこと(または、それらを斡旋すること)を固く禁じています。これに違反する行為が「非弁行為」と呼ばれ、違反者には「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という重い刑事罰が科されます(弁護士法第77条)。

弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求…(中略)…その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

この規定は、法律の専門家ではない者が安易に法律問題に介入し、国民の権利や利益を損なうことを防ぐための重要なルールです。退職という行為は、一見すると単純な意思表示に見えますが、その裏には様々な法律問題が潜んでいます。したがって、どこまでが適法で、どこからが違法な「非弁行為」になるのか、その境界線を正確に理解することが極めて重要です。

退職代行における「法律事務(交渉)」と「単なる伝達」の境界は、民法上の**「代理人」**と**「使者」**の違いで説明できます。

  • OKな行為(使者):本人が決定した意思を、そのまま相手に伝えるだけの役割。いわば「メッセンジャー」です。「〇〇さんが、△月△日付で退職したいと申しております」と伝える行為は、本人の意思決定に一切関与しないため、法律事務には当たらず、誰でも行うことができます。
  • NGな行為(代理人):本人に代わって意思決定を行い、相手方と交渉する権限を持つ役割。例えば、会社側が「△月△日では困る。月末にしてほしい」と反論してきた際に、「では、間をとって25日ではいかがでしょうか」などと駆け引きや調整を行うことは、法律上の権利義務に関する「交渉」であり、弁護士資格がなければできない「法律事務」に該当します。

退職代行業者の3つの種類と業務範囲の比較

この「非弁行為」の観点から、退職代行サービスは運営主体によって「できること」が明確に3種類に分かれます。この違いを理解することが、安全な業者選びの第一歩です。

業務内容 民間企業 労働組合 弁護士
退職意思の伝達
退職日の交渉 ✕ (非弁リスク)
有給休暇取得の交渉 ✕ (非弁リスク)
未払い賃金等の請求・交渉 ✕ (非弁リスク)
損害賠償請求への対応 ✕ (非弁リスク)
ハラスメント等の慰謝料請求 ✕ (非弁リスク)
裁判・労働審判での代理 ✕ (非弁リスク)
法的根拠 民法(使者) 労働組合法 弁護士法

1. 民間企業(株式会社など)
最も一般的なタイプですが、法的にできることは「使者」としての退職意思の伝達のみです。有給消化や退職日の調整といった「交渉」は一切できません。会社側から「本人としか話さない」と拒否された場合、それ以上何もできなくなるリスクがあります。

2. 労働組合
労働組合法に基づき、憲法で保障された「団体交渉権」を持っています。これにより、労働者(組合員)に代わって、会社と対等な立場で労働条件に関する「交渉」を適法に行うことができます。退職日の調整や有給消化、未払い残業代の請求などがこれに含まれます。会社は正当な理由なく団体交渉を拒否できません。ただし、交渉範囲はあくまで「労働条件」に関するものに限られ、ハラスメントに対する慰謝料請求や、会社からの損害賠償請求への対応といった、より高度な法律問題は扱えません。

3. 弁護士・弁護士法人
依頼者の「代理人」として、退職に関するあらゆる法律行為を合法的に行うことができます。退職意思の伝達や交渉はもちろん、未払い賃金や慰謝料の請求、会社からの損害賠償請求への法的な反論、さらには労働審判や訴訟に発展した場合の代理人活動まで、ワンストップで対応可能です。法的トラブルに発展する可能性が少しでもある場合は、唯一の選択肢となります。

違法(非弁)業者に依頼してしまった場合のリスク

では、もし非弁行為を行う可能性のある民間業者に依頼してしまった場合、具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。利用者自身が罰せられることはありませんが、以下のような深刻な事態に陥る可能性があります。

リスク1:会社が交渉を拒否し、退職が進まない
コンプライアンス意識の高い企業は、非弁行為に加担するリスクを避けるため、「弁護士資格のない方とは交渉できません」と毅然とした態度で対応します。企業向けの法務解説サイトでも、非弁業者とは条件交渉を一切行わないよう指導されています。結果、業者は「意思は伝えました」と報告するだけで何も解決せず、退職手続きが完全に停滞してしまいます。

リスク2:支払った費用が無駄になる
退職が進まないにもかかわらず、多くの民間業者は返金保証を設けていません。結局、改めて弁護士や労働組合に依頼し直すことになり、時間も費用も二重にかかってしまいます。

リスク3:トラブルが悪化・長期化する
法律知識のない業者が中途半端に交渉を試みた結果、かえって会社の態度を硬化させ、感情的な対立を招くことがあります。本来スムーズに解決できたはずの問題がこじれ、円満退職どころか泥沼の紛争に発展しかねません。

リスク4:業者の刑事事件に巻き込まれる
これは最も深刻なリスクです。近年、退職代行サービスの非弁行為に対する警察の捜査が本格化しています。2025年10月には、大手退職代行サービス「モームリ」の運営会社(株式会社アルバトロス)が、弁護士法違反(非弁提携・非弁行為)の疑いで警視庁の家宅捜索を受けました。報道によれば、弁護士資格のないスタッフが交渉を行っていた疑いが持たれています。万が一、依頼した業者が摘発された場合、利用者も参考人として警察から事情聴取を受けるなど、思わぬ形で刑事事件に巻き込まれる可能性もゼロではないのです。

トラブル回避のための実践ガイド:安全な退職代行サービスの選び方

これまでの解説を踏まえ、読者が自身の状況に合わせて最適なサービスを主体的に選べるようになるための、具体的で実践的な指針を3つのステップで提供します。

ステップ1:まず「交渉」が必要か自己診断する

業者選びの最も重要な第一歩は、ご自身の状況を客観的に分析し、「会社との交渉が必要かどうか」を判断することです。

  • 交渉が不要なケース:
    • 未払いの給与や残業代がない。
    • 有給休暇はすでに消化済みか、放棄しても構わない。
    • 会社との間にトラブルがなく、強い引き止めも予想されない。
    • とにかく「辞める」という意思さえ伝われば、後の手続きは自分で行える。

    → この場合に限り、民間企業のサービスも選択肢に入ります。ただし、会社が交渉を拒否するリスクは常に存在します。

  • 交渉が必要なケース:
    • 有給休暇をすべて消化してから辞めたい。
    • 未払いの残業代や退職金を請求したい。
    • 上司からの強い引き止めや、退職拒否が予想される。
    • パワハラなど、会社との間にすでにトラブルを抱えている。
    • 会社から損害賠償を請求される可能性が少しでもある。

    → この場合は、交渉権を持つ「労働組合」または「弁護士」一択です。非弁リスクのある民間企業は絶対に選んではいけません。

ステップ2:ウェブサイトで「運営主体」を必ず確認する

依頼したいサービスが見つかったら、その公式サイトの「会社概要」「運営者情報」「特定商取引法に基づく表記」といったページを必ず確認し、誰がサービスを運営しているのかを正確に把握しましょう。

  • 「株式会社〇〇」「合同会社△△」民間企業です。「交渉」はできません。ウェブサイトに「交渉可能」と書かれていたら、その業者は非弁リスクに対する認識が低い可能性があり、避けるべきです。労働組合を名乗りながら運営元が株式会社であるケースも報告されており、注意が必要です。
  • 「〇〇労働組合」労働組合です。労働条件に関する「団体交渉」が可能です。都道府県の労働委員会に正規に届出されているか確認すると、より安心です。
  • 「弁護士法人〇〇法律事務所」「弁護士 〇〇」弁護士です。退職に関する一切の法律事務が可能です。日本弁護士連合会の弁護士情報検索で実在する弁護士か確認できます。

ステップ3:「弁護士監修」の言葉に惑わされない

多くの民間業者が「弁護士監修」をアピールしていますが、これは大きな落とし穴です。専門家も警鐘を鳴らしている通り、「監修」とは、あくまでサービス内容が法律に抵触しないか外部の弁護士がチェック・助言したに過ぎません。その民間業者自身に交渉権限が与えられるわけでは決してありません。

さらに悪質なケースとして、民間業者が交渉案件を提携弁護士に有償で紹介(斡旋)する「非弁提携」が問題視されています。これは、業者自身が法律事務の「周旋」を業としていると見なされ、弁護士法第72条に違反する可能性があります。前述の「モームリ」の事件も、この非弁提携の疑いが持たれています。

注意:「弁護士監修」は、その業者が「交渉できる」ことを意味しません。実際に交渉を行う主体が誰なのか(弁護士本人か、労働組合か)を必ず確認してください。

退職代行と法的トラブルに関するQ&A

最後に、読者の皆様が抱きがちな細かな疑問について、Q&A形式で簡潔にお答えします。

Q1. 退職代行を使ったら、懲戒解雇になりますか?

A. いいえ、なりません。
前述の通り、退職代行の利用は労働者の正当な権利行使であり、それ自体が懲戒事由に該当することはありません。労働問題の専門サイトでも、これを理由とする懲戒解雇は法的効力がないと解説されています。万が一、会社が懲戒解雇をちらつかせてきた場合は、不当な脅しである可能性が高いです。

Q2. 会社から「損害賠償するぞ」と脅されたらどうすればいいですか?

A. 依頼先によって対応が異なります。
もし弁護士に依頼していれば、法的根拠に基づいて「そのような請求には応じられない」と適切に反論してくれます。会社側も相手が弁護士であれば、無茶な請求はしてこないでしょう。
一方で、民間業者に依頼している場合、彼らは法的な反論ができないため、何も対応できません。その場合は、すぐに依頼を中止し、弁護士に相談を切り替える必要があります。

Q3. 未払い給与やハラスメントの慰謝料も請求したいのですが、どの業者に頼めばいいですか?

A. 「労働組合」または「弁護士」に依頼する必要があります。
未払い給与(残業代など)の請求は、労働条件に関する「交渉」なので、団体交渉権を持つ労働組合でも対応可能です。
しかし、パワハラなど不法行為に基づく「慰謝料請求」は、高度な法律事務にあたるため、弁護士にしかできません。金銭請求が絡む場合は、対応範囲をよく確認し、ご自身の請求したい内容に応じて依頼先を選ぶ必要があります。両方まとめて確実に解決したいのであれば、弁護士が最も適しています。

Q4. 会社が「代行業者とは話さない」と交渉を拒否したらどうなりますか?

A. これも依頼先によって結果が大きく異なります。
相手が民間企業の場合、会社は交渉を拒否する正当な理由があります(非弁行為への加担回避)。この場合、業者は手詰まりとなり、退職手続きは停滞します。
相手が労働組合弁護士の場合、会社は正当な理由なく交渉を拒否できません。拒否すれば、労働組合法上の「不当労働行為」に問われたり、弁護士からさらなる法的措置を取られたりする可能性があるため、会社側も無視することはできないのです。この交渉拒否の可否が、業者間の決定的な差となります。

まとめ:法的リスクを正しく理解し、自分の状況に合った依頼先を選ぼう

本稿では、退職代行サービスにまつわる「訴えられる」という不安の正体から、真の法的リスクである「非弁行為」、そして安全な業者の選び方までを多角的に解説してきました。最後に、重要なポイントを改めて確認しましょう。

最終確認:退職代行の法的リスクまとめ
  • 退職代行の利用自体で訴えられるリスクは極めて低い。労働者の「退職の自由」は法律で強く保護されている。
  • 会社が損害賠償を請求できるのは、労働者側に引き継ぎ放棄や機密情報漏洩などの明白な背信行為があった場合に限られる。
  • 本当のリスクは「非弁行為を行う違法業者」を選んでしまうこと。退職が進まない、費用が無駄になる、トラブルが悪化するなど、利用者自身が不利益を被る。
  • 業者の種類は「民間企業」「労働組合」「弁護士」の3つ。「交渉」ができるのは労働組合と弁護士のみ。慰謝料請求や損害賠償対応は弁護士しかできない。
  • 「弁護士監修」は「交渉可能」を意味しない。運営主体が誰なのかを必ず確認することが重要。

これらの事実を踏まえた上での最終的な行動指針は、極めてシンプルです。

少しでも会社との交渉事(有給消化、未払い賃金、退職日調整など)やトラブルの可能性があるならば、迷わず「弁護士」または「労働組合」が運営するサービスへ相談してください。これが、結果的に最も安全かつ確実、そして費用対効果の高い選択となります。

一方で、交渉事が一切なく、単に退職の意思を伝えてもらうだけで十分だと100%確信できる場合にのみ、民間企業の利用を検討するというスタンスが賢明です。

退職は、決して逃げではなく、次のキャリアへ進むための正当な権利です。本稿で得た知識を武器に、法的な不安を払拭し、あなたが安心して新たな一歩を踏み出せることを心から願っています。

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