テナジーシリーズとは何か
テナジー(Tenergy)シリーズは、日本の卓球用品メーカーバタフライ(Butterfly)が開発したハイテンション裏ソフトラバーのラインナップです。2008年に初代モデル「テナジー05」が発売されて以来、スピンとスピードの高い性能で世界中の選手に支持され続けています。バタフライ独自の「スプリングスポンジ」技術を搭載し、従来のラバーにはなかった「ボールをつかむ感覚」を実現したのが特徴です。その後、開発チームはツブ形状やスポンジ硬度の研究を重ね、プレーヤーの多様なニーズに応えるべくシリーズを拡充してきました。現在では10種類以上のモデルがラインナップされており、それぞれ異なる特徴を持っています。本稿では、テナジーシリーズの進化の歴史を年代順にたどり、初代から最新モデルまでの変遷を解説します。
2008年:テナジーシリーズの誕生(テナジー05・テナジー25)
2008年4月21日、バタフライはテナジーシリーズの最初のモデルとして「テナジー05」を発売しました。テナジー05はバタフライ独自のスプリングスポンジを初搭載したラバーで、従来とは一線を画す「ボールを包み込むように捉える」打球感を実現しました。発売当時、2008年9月には接着剤による後加工(グルー)の禁止ルールが施行される直前であり、多くの選手がラバー見直しを迫られていました。その流れでテナジー05は世界的なヒットとなり、日本国内でもインターハイ優勝など注目を集めました。テナジー05は「スピン性能が高い」と評価された独自ツブ形状(開発コードNo.05)を採用し、強烈な回転をかけることができる点が最大の特徴です。スポンジ硬度は36度で、ハイテンションラバーとしてはやや軟らかめですが、スプリングスポンジの弾性と組み合わせて回転とスピードのバランスに優れた性能を発揮します。
同年2008年11月21日、テナジーシリーズの2作目として「テナジー25」が発売されました。テナジー25はテナジー05とは異なる「開発コードNo.25」のツブ形状を採用し、前陣(近台)でのプレーに特化したモデルです。多くの選手の試打と機械測定の結果、「前陣攻守で威力を発揮する」と評価された形状を採用したことで、台上プレーにおけるスピンやカウンタープレーにおけるスピードで優れた性能を示します。テナジー25もスポンジ硬度36度で、テナジー05と同じ36度のスプリングスポンジを搭載しています。ただしシート自体はやや硬めに設計されており、相手の強い打球にも押し負けない安定感があります。テナジー25は前陣速攻のプレーヤーに適し、スピンをかけやすいためサーブやチキータにも威力を発揮するとされています。テナジー05とテナジー25はいずれも現在(2025年時点)もラインナップされており、シリーズの礎を築いた重要なモデルです。
2009年:スピード特化モデルの登場(テナジー64)
2009年には、テナジーシリーズ第3弾として「テナジー64」が発売されました。テナジー64は「スピード性能が高い」と評価されたツブ形状(開発コードNo.64)を採用し、テナジーシリーズの中でも打球スピードの速さが特徴です。スプリングスポンジを搭載したことでインパクト時にボールを包み込み、高速な打球を放つことができる高い攻撃力を誇ります。実際、テナジー64は国内外の多くのトップ選手に採用され、シリーズの中でも安定感とスピードを両立したラバーとして定評があります。スポンジ硬度は36度で、テナジー05・25と同じですが、トップシートのツブ同士の間隔が広めに設定されており、ボールの食い込みによって高いスピードを実現しています。そのため、他のテナジーに比べシートがやや軟らかめですが、それゆえにスピードドライブやスマッシュが高速になる一方で、台上技術やブロックにも安定感があるとされています。インパクトが弱い場合でも性能を引き出しやすいため、中陣~後陣でプレーする選手や女子選手からも人気が高いモデルです。テナジー64も2025年現在ラインナップされており、スピード重視のプレーヤーに広く愛用されています。
2010年:安定性重視モデルの誕生(テナジー05FX・テナジー25FX)
2010年には、テナジーシリーズに新たなラインナップ「FXシリーズ」が加わりました。まず2010年7月1日に「テナジー05FX」が発売され、続く2010年11月1日には「テナジー25FX」が発売されています。FXシリーズは各モデルのスポンジを軟らかくしたソフトバージョンであり、テナジーシリーズの高性能を維持しつつコントロール性能と安定性を追求したラバーです。具体的には、スポンジ硬度を通常モデル(36度)より約4度軟らかい32度に設定し、スポンジ自体も約5%軽量化しています。これにより、ボールの球持ちが良くなり安定した回転性能を発揮できるようになっています。
テナジー05FXは、スピン性能に優れたテナジー05のシート(開発コードNo.05)に軟らかめのスプリングスポンジを組み合わせたモデルです。その結果、テナジー05に比べて安定したコントロールが可能になりつつも、高いスピン性能を維持しています。「回転とコントロールを高いレベルで両立」したラバーとして、スピンと安定性を求める選手にお勧めされています。一方、テナジー25FXはテナジー25のシート(開発コードNo.25)に軟らかいスポンジを組み合わせたもので、台上プレーやカウンタープレーにおけるスピン性能や攻撃力に安定性が加味され、使いやすさが向上しています。テナジー25よりも球持ちが良くなるため、前陣攻守での安定したカウンターやチキータが可能になります。これらFXシリーズの登場により、テナジーシリーズはより幅広いレベルの選手に適応できるようになりました。テナジー05FX・25FXも現在ラインナップされており、中級者から上級者まで愛用されています。
2011年:スピード安定モデルの登場(テナジー64FX)
2011年11月21日、テナジー64に対応するFXモデルとして「テナジー64FX」が発売されました。テナジー64FXはテナジー64と同じ開発コードNo.64のシートに、軟らかめのスプリングスポンジ(32度)を組み合わせたモデルです。そのためテナジー64と同様のスピード性能を持ちながら、スポンジが軟らかい分コントロール性能が向上しています。テナジー64FXはシリーズの中でもスピードが速く、やや硬めのラケットと組み合わせると安定感が増すとの評判です。例えば、硬めのラバー(テナジー64や80など)と組み合わせることで、スピードと安定性のバランスが取れたプレーが可能になるとされています。テナジー64FXも現在ラインナップされており、スピードを重視しつつコントロールを求める選手に支持されています。
2013年:バランスの取れた新モデル(テナジー80)
2013年1月21日、テナジーシリーズには新たなメンバー「テナジー80」が加わりました。テナジー80は「スピン性能とスピード性能のバランスに優れている」と評価されたツブ形状(開発コードNo.180)を採用したモデルで、シリーズの中でもオールラウンド性が高いことが特徴です。テナジー64のスピードとテナジー05のスピンの良いとこ取りをし、高次元で両者を融合したラバーと言われます。そのためドライブ、スマッシュ、カウンターなどスタイルを問わず高い性能を発揮し、多彩な攻撃パターンを持つ選手に人気があります。テナジー80はスポンジ硬度36度で、他のテナジー(05・25・64)と同じ硬度のスプリングスポンジを搭載しています。実際、水谷隼選手がバック面にテナジー80を使用していたこともあり、攻守のバランスを重視する選手に適したラバーとして注目されました。テナジー80も現在ラインナップされており、テナジーシリーズの中でも欠点の少ない汎用性の高いラバーとして定評があります。
2014年:バランス安定モデルの登場(テナジー80FX)
2014年4月21日、テナジー80に対応するFXモデルとして「テナジー80FX」が発売されました。テナジー80FXはテナジー80と同じ開発コードNo.180のシートに、軟らかめのスプリングスポンジ(32度)を組み合わせたものです。テナジー80の持つ優れたスピン・スピードバランスを活かしつつ、スポンジを軟らかくしたことで安定性がさらに増したラバーとなっています。攻撃面でも守備面でも安定したプレーを求める選手にお勧めされており、テナジー80よりもコントロール重視のプレーヤーに適しています。テナジー80FXも現在ラインナップされており、バランスと安定性を両立させたい選手に支持されています。
2018年:パワー強化モデルの登場(テナジー05ハード)
2018年11月1日、テナジーシリーズには新しい試みとして「テナジー05ハード」が発売されました。テナジー05ハードは、人気モデルテナジー05のスポンジを従来より硬め(43度)にしたハードバージョンです。2014年にボールがプラスチック製に変更されたことで、トップ選手の間でより硬いラバーを求める声が高まっていたことが開発の背景にあります。テナジー05ハードでは、硬めのスプリングスポンジによって強く打球した際の回転とパワーをさらに引き出すことを可能にしました。テナジー05が持つ優れたスピン性能を維持しつつ、スポンジ硬度を上げたことで反発力が増し、ワンランク上のパワフルなプレーが可能になります。実際、ドイツのティモ・ボル選手がフォア面にテナジー05ハードを使用していたことでも知られます。テナジー05ハードはシリーズの中でも最も硬いスポンジを採用しており、スイングパワーのある上級者やプロ選手向けのモデルとして位置付けられています。2025年現在もラインナップされており、テナジーシリーズの頂点に位置する高性能ラバーとして支持されています。
2021年:最新モデルの登場(テナジー19)
2021年3月1日、長らく拡充されていなかったテナジーシリーズに新たなモデル「テナジー19」が加わりました。テナジー19は、バタフライが新開発したツブ形状(開発コードNo.219)を採用した最新鋭のラバーです。ツブ間隔を狭くし細いツブを密集させた形状により、スピードと回転を追求しつつ滑りにくく押し負けないシートを実現しています。このシートとスプリングスポンジ(硬度36度)を組み合わせることで、テナジーシリーズの中でも特にボールをつかむ感覚が増し、打球を強く正確に捉えたときにその特長を引き出す性能を備えています。テナジー19は自ら強打した時はもちろん、相手の強打をかけ返すカウンタープレーでも高い性能を発揮し、パワーヒッター向けのラバーとして位置付けられています。スポンジ硬度は36度と従来のテナジー05などと同じですが、シートの工夫によって強烈なスピンと高速なスピードを両立している点が特徴です。テナジー19は2021年の発売以降、多くのトップ選手が試用するなど話題を呼び、現在もラインナップされています。
テナジーシリーズ主要モデル一覧(発売年・特徴・硬度)
テナジーシリーズの進化を年代順にまとめると、以下のようになります。各モデルの発売年、主な特徴、スポンジ硬度を表にまとめました。
モデル名 | 発売年 | 主な特徴 | スポンジ硬度 |
---|---|---|---|
テナジー05 | 2008年 | 初代モデル。スプリングスポンジ初採用。強烈な回転性能。オールラウンドで高い安定感。 | 36度 |
テナジー25 | 2008年 | 前陣攻守特化。台上プレーやカウンターで威力。シートがやや硬めで押し負けにくい。 | 36度 |
テナジー64 | 2009年 | スピード重視。シリーズ随一の高速ドライブ。安定感も備え幅広い層に支持。 | 36度 |
テナジー05FX | 2010年 | テナジー05の軟らかいバージョン。コントロールと安定性向上。回転性能を維持しつつ安定したプレー可能。 | 32度 |
テナジー25FX | 2010年 | テナジー25の軟らかいバージョン。前陣攻守の安定性向上。台上技術やカウンターが安定しやすい。 | 32度 |
テナジー64FX | 2011年 | テナジー64の軟らかいバージョン。スピード性能を維持しつつコントロール向上。硬めラケットとの相性良好。 | 32度 |
テナジー80 | 2013年 | スピンとスピードのバランス特化。オールラウンドで多彩な攻撃に対応。シリーズで最もバランスが取れている。 | 36度 |
テナジー80FX | 2014年 | テナジー80の軟らかいバージョン。バランス性能を維持しつつ安定性アップ。攻守とも安定したプレーに適し。 | 32度 |
テナジー05ハード | 2018年 | テナジー05の硬めバージョン。スイングパワーを最大限引き出す超ハードラバー。強打時の回転・パワーが増す。 | 43度 |
テナジー19 | 2021年 | 最新モデル。新開発ツブ形状でスピン・スピード両立。ボールを強く捉える「つかむ感覚」が際立つ。カウンタープレーでも高威力。 | 36度 |
※スポンジ硬度はバタフライ社の表示に基づきます(数値が高いほど硬い)。
上記の表からもわかるように、テナジーシリーズは「05」「25」「64」「80」「19」といった異なるツブ形状モデルを中心に展開し、それぞれに「FX」(軟らかめスポンジ)バージョンが用意されています。さらに2018年には「ハード」(硬めスポンジ)バージョンがテナジー05に初めて登場しました。このようにツブ形状の違いによる性能差とスポンジ硬度の違いによる打球感の違いを組み合わせることで、テナジーシリーズは多彩なプレーヤーのニーズに応えるラインナップとなっています。
おわりに:テナジーシリーズの進化と未来
テナジーシリーズは、2008年の誕生から2021年の最新モデルまで、卓球界のルール変更やボール素材の変化にも適応しながら進化を続けてきました。初代テナジー05が叩き出した「ボールをつかむ」打球感は、その後の多くのラバーに影響を与え、現在でも卓球ラバーの金字塔と称される存在です。バタフライはテナジーシリーズを通じて、ツブ形状の研究開発に11年以上も費やし、100種類以上の金型を試作するなど多大な労力を注いできました。その努力の賜物として、テナジーシリーズは10種類以上のバリエーションを揃え、プレーヤーの様々なスタイルやレベルに合わせた選択肢を提供しています。
現在、テナジーシリーズはテナジー05・05FX・05ハード、テナジー25・25FX、テナジー64・64FX、テナジー80・80FX、テナジー19の計10種類がラインナップされています。それぞれが独自の特徴を持ちながら、共通してスプリングスポンジというテクノロジーで結ばれている点がテナジーシリーズの強みです。今後も卓球の技術やルールは進化していくでしょうが、テナジーシリーズはその変化に応え続けることで「勝てる卓球を実現するラバー」として支持され続けることでしょう。テナジーシリーズの進化の歴史は、卓球ラバー技術の進歩を象徴するものであり、今後の新モデル登場も楽しみながら、その歴史を振り返ることは卓球用具ファンにとって大きな意義があるでしょう。
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