なぜ今、退職代行のリスクが問われるのか?
近年、「退職代行サービス」は、もはや特殊な選択肢ではなくなりました。劣悪な労働環境やハラスメント、あるいは単に「退職を切り出しにくい」という心理的な負担から解放されるための手段として、多くの労働者に受け入れられています。実際に、2024年上半期には、調査対象企業の23.2%が「退職代行サービスを利用して退職した従業員がいた」と回答しており、その利用が一般化している実態が浮き彫りになっています。
この背景には、労働者が抱える切実な問題があります。パワーハラスメントが横行し、退職の意思を伝えた途端に上司が豹変し、罵倒されたり「この業界で生きていけなくしてやる」と脅されたりする。そんなブラック企業に勤める人々にとって、退職代行はまさに「地獄に仏」のような存在です。これ以上の精神的ダメージを負うことなく、一刻も早く会社との縁を切り、次のキャリアへ進みたい。その強い願いが、退職代行サービスの需要を押し上げているのです。
私たちは、個人が組織に過度に依存することなく、自力で問題を解決しなければならない「寄る辺なき時代」に生きています。一つ一つのトラブルに真正面から向き合っていては、心身ともに消耗し、壊れてしまう。このような孤立が常態化した社会において、様々な「代行ビジネス」が隆盛するのは、ある意味で必然と言えるでしょう。
しかし、その利便性の光が強まる一方で、濃い影もまた、その足元に広がっていました。2025年10月、業界最大手の一つと目されていた「退職代行モームリ」の運営会社が、弁護士法違反の容疑で警視庁の家宅捜索を受けるという衝撃的な事件が発生しました。テレビCMなども放映し、業界の顔とも言える存在だった同社の摘発は、これまで「グレーゾーン」として黙認されてきた退職代行サービスの構造的な問題、すなわち「隠れたリスク」を白日の下に晒すことになったのです。
「安いから」「早いから」という手軽さだけで業者を選んでしまうと、退職がスムーズに進まないばかりか、予期せぬトラブルに巻き込まれ、支払った費用が無駄になる最悪の事態も起こりかねません。
本稿では、この「モームリ事件」を基点として、退職代行サービスに潜むあらゆるリスクを徹底的に解剖します。法的リスクの核心から、実際に起こりうるトラブル事例、そしてそれらを回避し、自らの権利を安全かつ確実に行使するための具体的な業者選びの指針まで。これは、あなたのキャリアと未来を守るための、羅針盤となるレポートです。
第1部:【事件の核心】「退職代行モームリ」摘発で明るみに出た2つの法的リスク
「退職代行モームリ」への家宅捜索は、退職代行業界全体を揺るがす大きな出来事でした。この事件で焦点となったのは、弁護士法に抵触する2つの重大な疑惑、「非弁提携(ひべんていけい)」と「非弁行為(ひべんこうい)」です。これらは、多くの利用者が気づかぬうちに足を踏み入れてしまう可能性のある、深刻な法的リスクです。ここでは、それぞれの行為が「何が、なぜ違法なのか」を、専門用語を避けながら分かりやすく解説します。
リスク①:非弁提携(周旋)ー「弁護士提携」の甘い罠
今回の「モームリ事件」で直接的な容疑とされているのが、この「非弁提携」です。多くの退職代行業者は、「弁護士監修」や「弁護士提携」といった言葉をウェブサイトに掲げ、法的に安全であるかのような印象を利用者に与えています。しかし、その裏側で違法な金のやり取りが行われている可能性が、今回の事件で明らかになりました。
非弁提携とは何か?
非弁提携とは、簡単に言えば、**弁護士資格のない業者(退職代行会社など)が、顧客を特定の弁護士に紹介し、その見返りとして弁護士から「紹介料」や「広告料」といった名目で金銭などの利益を受け取ること**を指します。これは弁護士法第72条で禁止されている「周旋(あっせん)」行為にあたり、刑事罰の対象となりうる違法行為です。
なぜこれが禁止されているのでしょうか。それは、法律の専門家である弁護士の独立性を守り、依頼者の利益を最優先させるためです。もし紹介料のやり取りが横行すれば、弁護士は依頼者のためではなく、多くの顧客を紹介してくれる業者のために働くようになってしまうかもしれません。また、紹介料が弁護士費用に上乗せされ、結果的に利用者が不当に高い料金を支払わされることにも繋がります。
退職代行業者の本来あるべき姿は、未払い残業代の請求や慰謝料請求といった「交渉」が必要な相談を受けた際に、「私たちの業務範囲外なので、ご自身で弁護士をお探しください」と断ることです。しかし、非弁提携を行っている業者は、次のような流れで利益を得ようとします。
- 利用者からの相談:利用者が「未払い残業代も請求したい」と業者に相談する。
- 特定の弁護士へ誘導:業者は「提携している優秀な弁護士がいます」と、特定の弁護士事務所へ利用者を誘導(斡旋)する。
- 違法な紹介料の授受:利用者の紹介に成功した見返りとして、業者は弁護士から「紹介料」や「広告料」名目の金銭を受け取る。
この構造の問題は、「弁護士提携」という言葉が利用者に与える「安心感」を逆手に取り、違法なビジネスの温床となっている点です。利用者は安全なサービスを選んだつもりが、知らぬ間に違法行為の片棒を担がされ、不利益を被る危険性があるのです。
リスク②:非弁行為 ー「伝えるだけ」では済まない現実
「モームリ事件」で付随的に問題視されているのが、退職代行サービスそのものが「非弁行為」にあたるのではないか、という点です。これは、民間業者が行う退職代行ビジネスの根幹に関わる、非常に重要な問題です。
非弁行為とは何か?
非弁行為とは、弁護士法第72条で定められており、**弁護士の資格を持たない者が、報酬を得る目的で、法律相談や交渉、和解といった「法律事務」を行うこと**を指します。これに違反した場合、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という重い刑事罰が科される可能性があります。
では、退職代行において、どこからが「非弁行為」になるのでしょうか。その境界線は、「使者」と「交渉」の違いにあります。
| 行為の分類 | 具体例 | 法的評価 |
|---|---|---|
| 合法な「使者」行為 | 本人が作成した退職届を提出する。 本人の「退職します」という確定した意思を、そのまま会社に伝える。 |
✔ 合法 弁護士資格は不要。 |
| 違法な「交渉」行為(非弁行為) | ・退職日の調整(例:「もう少し早く辞められませんか?」) ・有給休暇の消化に関する話し合い ・未払い残業代や退職金の請求 ・会社からの損害賠償請求への反論 |
✖ 違法 弁護士または労働組合でなければ行えない。 |
多くの民間業者は「私たちは退職の意思を伝えるだけ」と謳い、非弁行為ではないと主張します。しかし、現実はそう単純ではありません。実際に退職代行を利用すると、会社側からは「人手不足だから退職日を延期してほしい」「有給休暇の消化は認めない」「後任への引き継ぎはどうするのか」といった反論や要望がほぼ必ず出てきます。
これに対し、もし民間業者が「法律で即日退職が認められています」「有給消化は労働者の権利です」などと反論したり、退職日を調整したりすれば、それは即座に「交渉」とみなされ、非弁行為に該当する可能性が極めて高いのです。つまり、**「伝えるだけ」で円満に退職できるというケースは非常に稀であり、多くの民間業者は常に非弁行為のリスクと隣り合わせの状態で運営されている**、という構造的な問題を抱えているのです。
非弁行為を行う業者を利用した場合、利用者自身にも深刻なリスクが及びます。
- 退職の無効化:会社側から「違法な業者からの通知は無効だ」と主張され、退職手続きが停滞・無効になる可能性があります。
- トラブルの拡大:法的知識のない業者が下手に交渉することで、かえって話がこじれ、問題が深刻化することがあります。
- 業者の逃亡:トラブルが大きくなったり、警察の捜査が入ったりすると、業者が責任を放棄して連絡が取れなくなり、利用者が孤立無援の状態に陥る危険性があります。
「モームリ事件」は氷山の一角に過ぎず、今後、警察や弁護士会による業界への監視は格段に強まると予想されます。これまで黙認されてきたグレーゾーンが許されなくなり、同様の民間業者への摘発が続く可能性も否定できません。利用者は、こうした法的リスクを十分に認識した上で、サービスを選択する必要があります。
第2部:法的リスクだけじゃない!退職代行利用で起こりうるトラブル事例集
退職代行に潜むリスクは、前述した法的なものに限りません。サービスを利用する過程で、会社との関係が悪化したり、依頼したはずの業者自身が問題の原因となったりと、様々なトラブルに発展する可能性があります。ここでは、実際に報告されているトラブルを「会社とのトラブル」「業者とのトラブル」に大別し、それぞれの具体的な事例と実践的な対処法を解説します。
【対会社】退職代行をきっかけに発生するトラブルと対処法
退職代行を利用することで、会社側が感情的になったり、不当な要求をしてきたりするケースがあります。しかし、多くの場合は法的な根拠に乏しい「脅し」です。冷静に対処法を知っておくことが、自身を守る最大の武器となります。
事例1:損害賠償請求をされる
「退職代行を使うなんて非常識だ!会社に与えた損害を賠償してもらう!」これは、会社側が退職を引き留めるためによく使う脅し文句です。しかし、結論から言えば、**「退職代行サービスを利用した」という事実だけを理由に、損害賠償請求が法的に認められることはまずありません**。退職は労働者に認められた正当な権利だからです。
ただし、ごく稀に損害賠償が認められるケースも存在します。それは、退職の仕方に問題があり、会社に具体的な実害を与えた場合です。有名な判例として「ケイズインターナショナル事件」があります。この事件では、重要なプロジェクトの担当者が突然退職し、引き継ぎを全く行わなかったことで取引先との契約が破綻し、会社に多大な損失を与えたとして、労働者に対して約70万円の損害賠償が命じられました。
- 原則:「退職代行を使った」だけでは訴えられないと認識し、冷静に対応する。
- 引き継ぎ:トラブルを避けるため、業務内容をまとめた資料やデータを残すなど、最低限の引き継ぎの意思を示すことが重要です。「引き継ぎは義務ではない」ものの、誠実な対応は後のリスクを軽減します。
- 最善策:最も確実な方法は、**最初から弁護士に退職代行を依頼すること**です。弁護士が代理人として介入すれば、会社側も法的に根拠のない請求はしてきません。万が一、不当な請求をされても、弁護士が法的根拠をもって毅然と反論してくれるため、リスクをほぼゼロにできます。
事例2:上司が自宅に押しかけてくる
「話があるから出てこい!」と、上司が自宅まで押しかけてくる。考えただけでも恐ろしい状況ですが、これも実際に起こりうるトラブルです。特に、人手不足に悩む会社や、退職代行の利用を逆恨みするような会社で見られる傾向があります。
かつては上司だった人物でも、退職する今となっては関係性が変わります。自宅というプライベートな空間に踏み込ませる必要は一切ありません。
もし自宅に押しかけられても、慌てて対応する必要はありません。むしろ、対面してしまうと、執拗な説得が始まったり、感情的な暴言を吐かれたりするリスクが高まります。以下のステップで冷静に対処しましょう。
- 居留守を使う:チャイムが鳴っても応答せず、完全に無視を貫きます。罪悪感を抱く必要は全くありません。スマートフォンをサイレントモードにしておくことも有効です。
- 業者に即時連絡:すぐに依頼している退職代行業者に連絡し、状況を報告します。信頼できる業者であれば、会社側に直接連絡し、訪問をやめるよう警告してくれます。
- やり取りを録音する:やむを得ず対応してしまった場合や、ドアを開けてしまった場合は、すぐにスマートフォンの録音機能を開始します。「損害賠償を請求するぞ」といった脅迫的な言動は、後の法的手続きで重要な証拠となります。
- 警察に通報する:「帰ってください」と明確に伝えたにもかかわらず、玄関先から立ち去らない場合は、警察に通報しましょう。これは「不退去罪」という犯罪にあたる可能性があります。身の安全を最優先に行動してください。
事例3:懲戒解雇をちらつかされる
「退職代行などという手段を使うなら、普通解雇ではなく懲戒解雇扱いにする」という脅しを受けるケースもあります。懲戒解雇は、労働者の経歴に重大な傷を残す最も重い処分です。しかし、これも法的にはほとんど通用しません。
懲戒解雇が有効となるのは、横領や重大な経歴詐称など、「企業の秩序を著しく乱す行為」があった場合に限られます。退職の意思を代理人を通じて伝えることは、労働者の正当な権利行使の範囲内であり、懲戒解…解雇の理由にはなりません。もし会社がこれを理由に懲戒解雇を強行した場合、その処分は「不当解雇」として無効になる可能性が非常に高いです。
万が一、懲戒解雇をちらつかされた場合は、その言動を記録(録音など)し、すぐに退職代行業者、特に弁護士に相談してください。不当な脅しに屈する必要は全くありません。
事例4:離職票や源泉徴収票が送られてこない
退職後、失業手当の申請に必要な「離職票」や、年末調整・確定申告に必要な「源泉徴収票」が会社から送られてこない、という嫌がらせを受けるケースもあります。しかし、これらの書類を交付することは、それぞれ雇用保険法および所得税法で定められた会社の義務です。意図的に交付しない場合、会社は法的な罰則を受ける可能性があります。
- 業者経由で督促:まずは依頼した退職代行業者を通じて、会社に書類の送付を正式に要求してもらいます。
- 内容証明郵便で請求:それでも対応がない場合は、個人で内容証明郵便を送付し、請求の記録を残します。
- 行政機関に相談:離職票についてはハローワーク、源泉徴収票については税務署に相談し、会社へ指導してもらうよう依頼できます。
- 弁護士に依頼:最も確実なのは弁護士に依頼することです。弁護士名で請求することで、ほとんどの会社は速やかに対応します。特に、他のトラブルも抱えている場合は、まとめて弁護士に相談するのが効率的です。
【対業者】依頼した代行業者自身がトラブルの原因になるケース
信じて依頼したはずの退職代行業者によって、トラブルに巻き込まれるケースも後を絶ちません。特に、法的知識や交渉能力に乏しい民間業者に依頼した場合に多く見られます。
事例1:費用を支払ったのに連絡が途絶える
これは最も悪質な詐欺のケースです。ウェブサイトやSNSで「格安」「即日退職」などを謳い、利用者を誘い込みます。そして、料金を振り込ませた途端にLINEや電話が一切繋がらなくなり、そのまま音信不通になってしまいます。利用者は費用を騙し取られた上、退職手続きも全く進まず、泣き寝入りせざるを得ない状況に追い込まれます。
事例2:業者に対応を放置され、退職に失敗する
詐欺ではなくとも、業者の能力不足が原因で退職に失敗するケースも多発しています。前述の通り、民間業者は「交渉」ができません。そのため、会社側から少しでも強い反論(「損害賠償を請求する」「退職は認めない」など)があると、非弁行為になることを恐れて何もできなくなってしまいます。
その結果、業者は「会社がこう言っているので、ご自身で対応してください」と依頼を放棄。利用者は会社と業者の板挟みになり、精神的にさらに追い詰められてしまいます。実際に、「退職代行を使ったもののトラブルになり、結局弁護士に駆け込んできた」という事例は数多く報告されています。
これらの「業者とのトラブル」は、利用者側が事前に業者の信頼性を見極めることで、そのほとんどを回避できます。料金の安さや「即日対応」といった甘い言葉だけで選ぶのではなく、その業者が法的にどのような権限を持ち、どこまでの業務を遂行できるのかを冷静に判断することが不可欠です。
次章では、こうした失敗を避け、自身の状況に最適な「安全な業者」を選ぶための具体的な方法を、専門的な視点から徹底的に解説します。
第3部:【実践ガイド】リスクを回避し安全に退職するための業者選び完全マニュアル
「モームリ事件」を経て、退職代行業界は大きな転換期を迎えています。これまで曖昧だった法的リスクが明確になり、利用者はこれまで以上に「どの業者を選ぶか」という賢明な判断を求められるようになりました。この章では、これまでのリスク分析を踏まえ、「今、どう行動すべきか」という問いに答えるための、実践的な業者選びの完全ガイドを提供します。
退職代行3つの運営主体を徹底比較
退職代行サービスは、その運営主体によって大きく3つのタイプに分類できます。「民間企業(一般業者)」「労働組合」「弁護士(法律事務所)」です。この3者は、対応できる業務範囲、費用、そして何よりもリスクの度合いが全く異なります。以下の比較表と図で、その違いを明確に理解しましょう。
各運営主体の特徴を基に編集部作成
| ① 民間企業(一般業者) | ② 労働組合 | ③ 弁護士(法律事務所) | |
|---|---|---|---|
| 運営主体 | 株式会社など | 労働組合法に基づく法人 | 弁護士法人または個人事務所 |
| 法的根拠 | なし(民法上の使者) | 労働組合法(団体交渉権) | 弁護士法(代理権) |
| 退職意思の伝達 | ◯ | ◯ | ◯ |
| 退職日の調整・有給消化などの交渉 | ✖ 不可 (非弁行為リスク【高】) |
△ 可能 (団体交渉として) |
◎ 可能 |
| 未払い給与・残業代・退職金の請求 | ✖ 不可 (非弁行為) |
△ 交渉のみ可能 (請求・裁判は不可) |
◎ 可能 (請求・裁判まで全て対応) |
| ハラスメント等への慰謝料請求 | ✖ 不可 | ✖ 不可 | ◎ 可能 |
| 損害賠償請求への対応 | ✖ 不可 | ✖ 不可 | ◎ 可能 |
| 法的リスク | 非常に高い (非弁行為・非弁提携で摘発の可能性) |
低い (ただし「名ばかり組合」に注意) |
ゼロ |
| 費用相場 | 20,000円~30,000円 | 25,000円~30,000円 | 50,000円前後 (+成功報酬) |
| 総合評価 | 非推奨 | 限定的な状況で有効 | 最も安全・確実 |
① 民間企業(一般業者):もはや選択肢ではない
「モームリ」がこのタイプに該当します。彼らに許されているのは、あくまで本人の「使者」として退職の意思を伝えることのみ。しかし、前述の通り、現実の退職は「伝えるだけ」では終わりません。会社からの反論に対応した時点で非弁行為のリスクが発生します。「モームリ事件」以降、警察や弁護士会の監視は厳格化しており、同様の業者がいつ摘発されてもおかしくない状況です。依頼した業者が捜査対象となりサービスが突然停止すれば、支払った費用は無駄になり、退職手続きは中断。最悪の場合、利用者も参考人として事情聴取を受ける可能性すらあります。結論として、現時点において民間業者の利用は、リスクがメリットを大幅に上回るため、絶対に推奨できません。
② 労働組合:交渉はできるが、万能ではない
労働組合が運営する退職代行は、憲法で保障された「団体交渉権」を法的根拠としています。これにより、民間業者では違法となる退職日の調整や有給消化といった「交渉」を、会社と合法的に行うことができます。会社側は、正当な理由なく労働組合からの団体交渉を拒否すると「不当労働行為」として罰せられるため、交渉において強い立場に立てるのが特徴です。
しかし、労働組合も万能ではありません。彼らの権限はあくまで「交渉」まで。未払い残業代や慰謝料の「請求」を法的に行ったり、会社が支払いに応じない場合に裁判を起こしたりすることはできません。また、会社から損害賠償請求をされた場合の法的な防御も専門外です。さらに、業者によっては実態が伴わない「名ばかり組合」のケースもあり、十分な交渉力が期待できないリスクも指摘されています。
③ 弁護士(法律事務所):唯一のオールラウンダー
弁護士は、依頼者の「代理人」として、法律に関するあらゆる事務を行う権限を持っています。退職意思の伝達はもちろん、退職条件の交渉、未払い賃金や慰謝料の請求、会社からの損害賠償請求への対応、そして万が一の裁判まで、退職に関する全てのプロセスを合法的に、かつ一気通貫で代行できます。
非弁行為や非弁提携といった違法性のリスクは完全にゼロ。法的トラブルに発展した場合でも、そのまま代理人として対応してくれるため、利用者が不安を抱えることはありません。費用は他のタイプより高め(5万円前後)ですが、その金額は「確実性」と「安全性」に対する保険料と考えるべきです。トラブル解決にかかる時間や精神的コストを考えれば、結果的に最もコストパフォーマンスが高い選択肢と言えるでしょう。
あなたの状況に合わせた最適解は?
では、あなたはどのタイプを選ぶべきなのでしょうか。以下のフローを参考に、ご自身の状況に最適な選択肢を見つけてください。
Q1. 会社と何らかの交渉(退職日、有給、未払い金など)が必要になる可能性が少しでもあるか?あるいは、損害賠償などのトラブルが不安か?
- はい → Q2へ
- いいえ(100%円満に「伝えるだけ」で済むと確信できる)→このケースは現実には極めて稀です。会社からの反応は予測不可能であり、少しでもリスクを避けたいなら「はい」に進むことを強く推奨します。それでも民間業者を選ぶ場合は、サービスが停止するリスクを覚悟する必要があります。
Q2. 未払い残業代やハラスメント慰謝料の請求、あるいは会社からの損害賠償請求への対応など、金銭請求や法的な防御が必要になる可能性があるか?
- はい → 【結論】弁護士(法律事務所)が唯一の選択肢これらの行為は弁護士の独占業務です。法的リスクをゼロにし、あなたの権利を最大限実現するためには、最初から弁護士に依頼するのが最も賢明です。
- いいえ(交渉は必要だが、裁判沙汰は望まない)→ 【結論】弁護士 or 労働組合有給消化や退職日の調整といった交渉がメインであれば、労働組合も選択肢に入ります。費用を少しでも抑えたい場合に有効です。ただし、交渉が決裂した場合や予期せぬ法的トラブルが発生した際には、結局弁護士に依頼し直す二度手間になるリスクがあります。安心と確実性を最優先するなら、この場合でも弁護士がおすすめです。
結論として、「少しでも会社と揉める可能性がある」「確実に、安全に退職したい」と考える全ての人にとって、現時点での最適解は「弁護士(法律事務所)」であると言えます。
安全な業者を見極める最終チェックリスト
弁護士または労働組合に依頼すると決めた後も、その中から信頼できる業者を選ぶ必要があります。以下のチェックリストを活用し、契約前に必ず確認してください。
- 運営主体は「弁護士法人」または「労働組合」か?
ウェブサイトの「会社概要」や「運営者情報」を必ず確認しましょう。「株式会社」が運営している場合は民間業者です。 - 業務範囲(どこまで対応できるか)が明確か?
「交渉可能」「残業代請求も対応」など、対応できる業務が具体的に記載されているかを確認します。曖昧な表現で濁している業者は要注意です。 - 「弁護士監修」の言葉に惑わされていないか?
「監修」は、あくまでアドバイスを受けているだけで、弁護士があなたの代理人として直接動いてくれるわけではありません。これは民間業者が安全性を装うためによく使う手口です。「弁護士が直接対応」と明記されているかを確認しましょう。 - 料金体系は明確か?
基本料金の他に、追加料金が発生するケースはないか(例:連絡回数制限、深夜早朝料金など)、契約前に必ず確認しましょう。弁護士に依頼する場合は、着手金と成功報酬の体系をしっかり理解しておくことが重要です。 - 過去の実績や利用者からの口コミは信頼できるか?
公式サイトの実績だけでなく、第三者の口コミサイトやSNSでの評判も参考にしましょう。ただし、極端に良い口コミばかりのサイトは、業者が作成したものである可能性(ステルスマーケティング)もあるため、複数の情報源を比較検討することが大切です。
まとめ:賢い選択が、あなたの未来を守る
本稿では、退職代行サービスに潜むリスクを、2025年10月の「退職代行モームリ」摘発事件を軸に多角的に分析してきました。この事件は、単なる一企業の不祥事ではなく、退職代行業界全体の構造的な問題、すなわち「安さ」や「手軽さ」の裏に隠された法的リスクを社会に突きつける、重大な転換点であったと言えます。
ハラスメントや劣悪な労働環境から一刻も早く逃れたい、という労働者の切実な願いが退職代行サービスの需要を支えています。その願い自体は、何ら非難されるべきものではありません。退職は、労働者に認められた正当な権利です。問題は、その権利を安全かつ確実に行使するための「手段」の選び方にあります。
- 民間業者のリスク顕在化:「モームリ事件」により、民間業者が行う退職代行は「非弁行為」「非弁提携」のリスクと常に隣り合わせであることが明確になった。現時点での利用は極めて危険である。
- 選択肢は「弁護士」か「労働組合」:安全性を考慮するならば、選択肢は法的に交渉権や代理権が認められている「弁護士」または「労働組合」運営のサービスに絞られる。
- 「弁護士」が最も安全確実:交渉から法的手続きまで、退職に関するあらゆる事態に対応できる弁護士は、リスクを完全に排除し、あなたの権利を最大限守るための最強のパートナーである。
- 判断基準は「安全性」:業者選びで最も優先すべきは、料金の安さや手軽さではなく、「法的安全性」と「確実性」である。
私たちは、業界の健全化が求められる過渡期にいます。利用者一人ひとりが正しい知識を持ち、「自分の退職を、法的に安全な手段で、最後まで確実に遂行できるのは誰か」という視点でサービスを選ぶことが、悪質な業者を淘汰し、業界全体の質を向上させる力にもなります。
もしあなたが今、退職できずに悩み、心身をすり減らしているのなら、一人で抱え込まないでください。退職は、新しい未来への第一歩です。その大切な一歩を、不確実なリスクに委ねるべきではありません。多くの弁護士事務所では、退職代行に関する無料相談を実施しています。まずは専門家にあなたの状況を話し、最も安全な道筋を見つけることから始めてみてはいかがでしょうか。
賢い選択が、あなた自身と、あなたの未来を守るのです。

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