卓球のラバーには多くのメーカーや種類がありますが、中でもバタフライ(Butterfly)の最新高性能ラバー「ディグニクス(Dignics)」シリーズは、近年トップ選手からアマチュアまで注目を集めています。ディグニクスはテンション系ラバーの持つ弾みと、粘着性ラバーの持つ高い回転性能を両立させることを目指し開発されました。その結果、回転性能とスピード性能が極めて高く、値段も全メーカー中最も高価なラバーとなっています。
一方で、ニッタク(Nittaku)の「ファスターク(Fastarc)」シリーズやバタフライの「ロゼナ(Rozena)」も人気のラバーです。ファスタークはドイツ製の裏ソフトテンションラバーで、2010年のG-1発売以来多くの選手に愛用されています。またロゼナはバタフライがテナジーシリーズを使いやすく改良したラバーで、高性能ながら安定感がある「万能型」として支持を集めています。
本記事では、ディグニクスシリーズ(05・09C・80・64)と、それらと比較される代表的な他社ラバーであるファスタークG-1およびロゼナについて、性能・特徴・耐久性・価格・トップ選手の使用例を網羅的に比較します。さらに、あなたのプレースタイルやスキルレベルに合ったラバー選びのポイントも解説します。
各ラバーの性能比較
ディグニクス05
ディグニクスシリーズの中でも最も回転性能が高いのがディグニクス05です。ボールをしっかり「つかむ」感覚が向上しており、これまでのバタフライラバーよりも強い回転をかけやすいのが特徴です。シートの粘着力が高く、ボールに強烈なスピンを与える一方で、硬めのスポンジ(バタフライ硬度40度)により十分な弾みも兼ね備えています。そのため、中後方からの強烈なドライブや、厚めに捉えるスマッシュに適しており、上級者によく使用されています。
一方でディグニクス05は非常に硬いラバーでもあり、インパクトが弱い選手には扱いづらいという指摘もあります。硬いスポンジのため球持ちが短く、ボールを薄く捉えると安定感がやや落ちる傾向があります。その分、しっかりスイングできる選手ならシャープで鋭い打球が実現でき、反発力の高さから中陣でも威力を発揮します。総じて「回転とスピードのバランスが取れた最高峰ラバー」と評され、トップ選手の間でもフォア面に愛用されています。
ディグニクス09C
ディグニクス09Cは粘着性ラバーとして開発されたモデルで、ボールの球持ちが非常に良いことが最大の特徴です。特殊なシート配合とスプリングスポンジX(バタフライ硬度44度)の組み合わせにより、テンション系に劣らない弾みを保ちつつ粘着ラバーならではの高い回転性能を両立しています。実際、ディグニクス09Cはボールを捉える力が抜群で、上回転のかかった短いストップやチキータにも強く、カウンタードライブでも安定して高い回転を返せる性能です。
球持ちが良いため弧線が高めになりやすく、その分安定感がありボールを入れやすいという評価もあります。これはテナジーシリーズ(特にテナジー64)に比べて顕著で、ディグニクス09Cはテナジー64より弧線が高くボールが入りやすい一方で、スピード性能はテナジー64には及ばないとの比較もあります。ただしディグニクス09C自体のスピードは十分高く、中陣での攻撃にも十分耐えます。総合すると、安定した強いスピンを重視する選手に向いており、前陣でのカウンターや台上技術にも優れています。実際、ドイツ代表のティモ・ボル選手や日本代表の松島輝空選手らがディグニクス09Cを使用しており、「安定した強烈なスピン」を求めるトップ選手に支持されています。
ディグニクス80
ディグニクス80はシリーズの中で最も硬質なスポンジ(バタフライ硬度45度)を採用したラバーです。そのため反発力が非常に高く、スピード性能はシリーズ内でもトップクラスです。硬いスポンジゆえに球離れが速く、ボールを厚めに捉えて打つスマッシュや、前中陣でのミート打ちに威力を発揮します。一方で球持ちが短いため、ボールを薄く捉えると安定感がやや落ちる傾向があり、スイングの安定した上級者向けと言えます。
回転性能については、ディグニクス05ほど強烈ではありませんが、依然として高水準です。スポンジが硬い分、反発力が高く軽い力でも高いスピードが出せるため、インパクトの強い選手には向いています。ただし初心者には扱いづらく、「球離れが速すぎてコントロールが難しい」という声もあります。総合すると、スピード重視でシャープな攻撃を求める選手に最適なラバーであり、日本代表の上田仁選手や篠塚大登選手らがフォア面に使用しています。
ディグニクス64
ディグニクス64はシリーズの中で最もスピード性能が高く、比較的柔らかめなラバーです。スポンジ硬度はバタフライ硬度38度と他のディグニクスより柔らかく設定されており、その分ボールが食い込みやすく扱いやすいです。実際、「ディグニクスシリーズの中で最もくい込ませやすく、扱いもしやすい」との評価があり、インパクトの弱い選手でもある程度の威力を出せるのが特徴です。
スピード性能はシリーズ内トップクラスで、ディグニクス80に匹敵する高さです。ただし回転性能は05や80に比べるとやや劣るため、スピンよりスピードを重視するプレーに向いています。弧線はやや低めで、前中陣でのミート打ちやスマッシュに威力を発揮します。ディグニクス64は柔らかめでコントロールしやすい反面、硬いラバーほどの球離れの速さはないため安定感も得られます。総合すると、スピードを優先しつつコントロールも求める選手に適しており、「シリーズの中でも安定感があり取り組みやすい」との評価もあります。実際、日本代表の町飛鳥選手や水谷隼選手らがディグニクス64を愛用しています。
ファスタークG-1
ファスタークG-1はニッタクのファスタークシリーズの中でもスピンドライブ重視のモデルです。強いグリップ感が特徴で、専用開発の「テンションスピンシート」によってボールをしっかり捉え、強烈なスピンをかけることができます。またスポンジはドイツ硬度47.5度とハードな「ストロングスポンジ」を採用しており、硬い打球感ながらボールをしっかり押し出して威力を生み出す仕組みです。その結果、どんな位置からでも打ち抜ける強烈なドライブや、強いドライブに負けない強靭さが実現されています。
ファスタークG-1はシリーズの中では最も弧線が高くボールが落ちにくい安定感のあるラバーでもあります。他のファスタークモデル(S-1やP-1)に比べると球持ちが良く、コントロールしやすいとされています。実際、「G-1は球持ちが良く、S-1やP-1に比べて安定感がある」との評価があり、強いグリップ感ゆえにボールに弧を描かせやすくネットオーバーしにくいです。ただしスポンジが硬い分、しっかりスイングしないと威力が出にくい傾向もあります。一定以上のインパクトが出せるプレーヤーであれば十分性能を引き出せますが、インパクトの弱い選手にはやや扱いづらい場合があります。総合すると、強烈なスピンドライブを求める選手に最適なラバーであり、日本代表の伊藤美誠選手や森薗政崇選手らトッププレイヤーがフォア面に使用しています。
ロゼナ
ロゼナはバタフライのテナジーシリーズを改良した万能型ラバーです。テナジーシリーズで採用されている「スプリングスポンジ」に新開発のトップシートを組み合わせ、高いトレランス(許容度)を実現しています。これはボールを打ち返す際にラケットの角度やスイングの微妙なズレをカバーし、安定したプレーを可能にする特性です。その結果、ロゼナはテナジーシリーズに匹敵する高い威力を維持しながら、少しのミススイングでもボールが飛び過ぎにくい安定感が得られます。
スピードとスピンのバランスが非常に良く、「コントロールと威力の両立」が売りのラバーです。実際、バタフライ独自の数値指標ではスピード13・スピン10.8とバランスが取れており、テナジーシリーズに近い高性能を備えています。ロゼナは打った打球にクセが少なく、安定して相手コートに入りやすいため、初心者から上級者まで幅広い層に愛用されています。特に中級者には「上達しやすいラバー」として人気で、コストパフォーマンスにも優れる万能ラバーとして定評があります。ただしトップ選手の間では、ロゼナはテナジーやディグニクスほど威力がないという指摘もありますが、それでも安定したプレーを重視する選手や中級者のステップアップ用として広く支持されています。
各ラバーの特徴比較表
上記のラバーについて、性能・特徴・耐久性・価格・トップ選手の使用例をまとめた比較表を以下に示します。
ラバー名(メーカー) | 種類・硬度 | 主な特徴・性能 | 耐久性 | 価格(参考) | トップ選手の使用例 |
---|---|---|---|---|---|
ディグニクス05(バタフライ) | 裏ソフトテンション バタフライ硬度40度 |
シリーズ中最高の回転性能。強烈なスピンと十分なスピードを両立。中後方の強打やスマッシュに適し、上級者向け。硬めのためインパクトが必要。 | シートの摩耗が少なく寿命は比較的長め。 | 約8,000~10,000円 | 張本智和、樊振東、オフチャロフ 他多数 |
ディグニクス09C(バタフライ) | 裏ソフト粘着 バタフライ硬度44度 |
球持ちが非常に良く、高い回転と安定感を両立。短いストップやカウンターに強く、安定した強烈なスピンが特徴。テナジー64より弧線が高く入りやすい。 | 寿命はシリーズ中最長級。粘着シートのため表面劣化が少ない。 | 約8,000~10,000円 | ティモ・ボル、松島輝空、及川瑞基 他 |
ディグニクス80(バタフライ) | 裏ソフトテンション バタフライ硬度45度 |
シリーズ中最も硬質で、反発力・スピード性能が極めて高い。前中陣のミート打ちやスマッシュに威力。球離れが速いためコントロールは上級者向け。 | 硬質ゆえスポンジ劣化は少ないが、シートは通常ラバー並み。 | 約8,000~10,000円 | 上田仁、篠塚大登、水谷隼 他 |
ディグニクス64(バタフライ) | 裏ソフトテンション バタフライ硬度38度 |
シリーズ中最も柔らかく扱いやすい。スピード性能はトップクラスで、中程度の力でも高スピード。回転はやや劣るが安定感があり、幅広い選手に適応。 | 柔らかめながら耐久性は良好。シリーズ内でも比較的長持ちするとの評価。 | 約8,000~10,000円 | 町飛鳥、水谷隼、高木和卓 他 |
ファスタークG-1(ニッタク) | 裏ソフトテンション ドイツ硬度47.5度 |
スピンドライブ重視。強いグリップ感で強烈なスピンを実現。硬めのスポンジで威力も高く、弧線が高く安定した攻撃が可能。インパクトが必要なため中級~上級向け。 | 寿命は約2~3ヶ月で、テンションラバー並み。シートのグリップ力は比較的長持ち。 | 約6,000~7,000円 | 伊藤美誠、森薗政崇、田添健汰 他 |
ロゼナ(バタフライ) | 裏ソフトテンション バタフライ硬度35度 |
万能型ラバー。スピードとスピンのバランスが良く、トレランスが高いため安定してコートに入りやすい。テナジーに匹敵する威力を持ちつつ、初心者~中級者にも扱いやすい。 | 寿命は約2~3ヶ月。高性能ラバーの中では比較的長持ちとの評価。 | 約5,000円前後 | (※トップ選手での使用例は少ないが、中級者~上級アマチュアで広く使用) |
※価格はメーカー希望小売価格や一般的な通販価格を参考に記載。実際の価格は販売店により異なります。
※トップ選手の使用例は2025年時点の情報を中心に記載。プレーヤーの用具は時期により変更される場合があります。
各ラバーの性能をデータで視覚的に比較すると、以下のようになります。
プレースタイル・スキルレベルに合わせたラバー選び
最後に、あなたのプレースタイルやスキルレベルに応じてどのラバーが適しているか、選び方のポイントを解説します。
- 強烈なスピンドライブを重視する場合: ディグニクス05やファスタークG-1がおすすめです。ディグニクス05はシリーズ中最高の回転性能で、中後方からの強烈なドライブに威力を発揮します。ただし硬めのためインパクトが必要なので、十分スイングできる上級者向けです。一方ファスタークG-1は強いグリップ感で弧を描く強烈なスピンドライブが得意で、安定感もあります。多少インパクトが弱くても打ち込みやすいため、中級~上級者でスピン重視の選手に適しています。
- スピード重視でシャープな攻撃を求める場合: ディグニクス80やディグニクス64が適しています。ディグニクス80は最も硬質で反発力が高く、前中陣でのミート打ちやスマッシュに強みを発揮します。ただしコントロールは上級者向けなので、スイングの安定した選手が使うと威力抜群です。ディグニクス64は柔らかめで扱いやすい割にスピード性能が高く、インパクトの弱い選手でもある程度のスピードを出せます。安定感も備わっているため、スピードを優先しつつコントロールも求める中級以上の選手におすすめです。
- 安定したコントロールとバランスを重視する場合: ロゼナやディグニクス09Cが候補です。ロゼナはスピードとスピンのバランスが取れており、多少ミススイングしてもボールが飛び過ぎにくい高いトレランスが特徴です。初心者から中級者まで扱いやすく、コストパフォーマンスも良い万能ラバーです。ディグニクス09Cは粘着ラバーながらテンション系に近い弾みを持ち、非常に球持ちが良いため安定した強いスピンが打てます。短いストップやカウンターにも強く、前陣での安定攻撃を求める上級者に向いています。
- 初心者~中級者向け(扱いやすさ・コスト重視): ロゼナがまずおすすめです。高性能ながら安定感があり、価格もディグニクスより手頃なため、中級者のステップアップ用として最適です。またファスタークシリーズの中でもファスタークC-1(コントロール重視モデル)は安定感が高く初心者~中級者に適しています。ディグニクスシリーズは初心者にはややハードルが高いですが、中級者以上であればディグニクス64が比較的扱いやすく威力もあるため検討に値します。
- 上級者・トッププレイヤー向け(最高性能を求める場合): ディグニクスシリーズがトップ性能を誇ります。特にディグニクス05は回転とスピードのバランスが最高レベルで、多くの世界トップ選手がフォア面に使用しています。またディグニクス80は硬質ゆえの高スピードが武器で、前中陣速攻の選手に支持されています。一方、安定した強烈なスピンを求めるならディグニクス09Cが優れており、ボル選手をはじめとするトップ選手が採用しています。上級者は自分のプレースタイル(スピン重視かスピード重視か、安定重視か)に合わせてディグニクスシリーズから最適なモデルを選ぶと良いでしょう。なお価格は高めですが、寿命も比較的長いため本気で卓球をする上級者にとってはコスパが高いとの声もあります。
おわりに
ディグニクスシリーズとファスタークG-1、ロゼナの比較を通じて、それぞれのラバーには一長一短があることが分かりました。ディグニクスは性能面では他を圧倒するものの高価で、初心者にはハードルが高いかもしれません。ファスタークG-1は強烈なスピンと安定感を備え、中級以上の選手に支持されています。そしてロゼナは手頃な価格でバランスの良い性能を発揮し、幅広い層に愛用されています。
ラバー選びにあたっては、自分のプレースタイル(スピン重視かスピード重視か、安定重視か)やスキルレベル、そして予算も考慮すると良いでしょう。初心者~中級者ならまずロゼナやファスタークC-1で安定感を身につけ、上級者ほどディグニクス05や09C、80といった最高峰ラバーで性能を引き出す、といった使い分けも一つの手です。
最後に、ラバーによって打球感や性能は大きく変わりますが、自分に合ったラバーを見つけることが上達のカギとなります。本記事の比較内容を参考に、ぜひあなたのプレーを最大限引き出せるラバーを見つけてみてください。それぞれのラバーの特徴を活かし、より強力で楽しい卓球プレーを実現してください。
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